白石の彼女だけど逆ハーぽい。全員で下品な話をしていただけなのに途中から白石が病みます。
「じ、自分ら何してんねん……」
現実と願望の境界
謙也の声に驚いたが小さく悲鳴を上げて俺を突き飛ばした。部室のベンチに座っていた俺はお昼の某テレビ番組のように椅子から転げ落ちる。
明らかに恥ずかしがっている謙也とは違う、冷ややかな財前の視線が一番キツい。
「部室で今から何を始める気ィやったんですか?」
「べ、別に何も……」
「何も、言われてもねぇ」
しどろもどろで答えるにニヤニヤとしながら財前が詰め寄った。その行動に更にがあたふたする。
「俺も混ぜて欲しい言うたら混ぜてくれはるんですか?」
「!?」
「あーもー財前……シッシッ!そんな目でのこと見んといてや!」
「何がシッシッやねん」
小さく舌打ちをしながら財前は引っ込んだ。。何が楽しくて俺とのと財前で3Pせなあかんねん、おかしいやろ!
そら確かに、俺らはおかしなことをしとった。と二人しての制服の胸元を引っ張って上からの胸を眺めとったんやから、謙也のとった行動は正しいと思う。
まあ残念ながらさっきのこともそれ以上のことにも財前を混ぜることはできんし、それは謙也やろうと誰やろうと一緒や。
俺がそんな話しをしていると後ろから千歳も現れて、軽く挨拶をしてから入り口に立っていた二人の横をすっと通り抜けてふらふらと俺らのほうにやってきた。千歳がにだけに耳元で「おはよう」と遅すぎる朝の挨拶をしているのはいつものことやからスルーしようと思う。
「何をしとったかはよぉーくわかったわ。でもな、何でそないなことしとったんか俺には全くわからん」
「セックスに持ち込むためのきっかけ」
「う、ううううるさいねん財前!」
ぎゃんぎゃん叫ぶ謙也に見せつけるようにしながら財前が耳を塞ぐ。財前の一言にが俺のことを睨んでから身構えたけど、そんな反応が可愛えから俺は気にせんことにした。
さっきの行為がほんまに財前の言うようにセックスに持ち込むためのきっかけやったかどうか、そうちゃうと言いきったら嘘になるけど俺はハナからそういうことができるとは思っとらん。だいたいいつ誰が来るかもわからんのに部室でそんなことしようだなんて俺は考えてない、やって落ち着かれへんやんか。
俺のことを疑っていると横で静かに話を聞きつつもじゃあ俺も混ぜてもらおうだなんて考えとる千歳をなんとかするべく俺は口を開く。
「さっきのはそういうのとちゃう」
「やったら何でそげんこつしとったと?」
「の胸はバランスと形が素晴らしいですねっちゅー話をしとっただけや」
その言葉を聞いて全員の視線がの顔より下に向けられた。は一気に顔を赤くして俺に本日二度目のタックルをした。
「の胸?ちょおの胸は小さいんとちゃうか?」
「うっわ謙也最低!」
「はぁ!?」
謙也にとっては何も悪気はなかったんやろうけどにとっては暴言でしかない。でも謙也には申し訳ないけど謙也がいじめると言いながらが俺にすり寄ってきたので謙也グッジョブや。
「謙也さんってでかけりゃ満足なタイプなんとちゃいます?」
「なんやその言い方は!そらでかいのが一番やろ!巨乳がええに決まっとるっちゅー話や!」
「ガキっすわ」
馬鹿にしたような溜め息つきで財前が言った後でも謙也に向かって謙也のガキ!と繰り返していた。
まさか謙也はこんなところで自分が批判されるとは思ってもなかったらしく、俺に助けを求めてくるような視線を向ける。謙也の意見は健全な男子の意見やと思う、俺は否定する気はあらへん。でもな、に暴言を吐いた罪は重いでぇ……。
「お、大きいと将来垂れるんやからね!それでも謙也は巨乳がええって言うん?」
「た、垂れ……」
「謙也は現実見たほうがええよ!AVに影響されすぎやねん!」
「その調子ばい、もっと言いなっせ」
「垂れる……大きいと垂れる……」
謙也は相当ショックやったらしくしばらく頭を抱えとった。そらいつまでたっても重力に逆らえるわけないやろ。
「大きければええいうもんとちゃう。大事なんはその人にあっとる大きさかとか、ハリとか弾力とか柔らかさとか形とか……」
「白石部長の好みは条件がありすぎて面倒くさいっすわ」
「そんな俺の好みの条件を全部兼ね備えとるの胸は最強やでー。ええやろ、羨ましいやろ」
「そこで私の話はせんとって!」
この流れでやっぱりみんながの胸をじっと見るのでは見るな阿呆!と言いながらまた俺を突き飛ばした。俺だけが悪いんとちゃう、全員見とったやないか……。
「みんなそれぞれ好みはあると思うしそれについて好きなだけ話せばええと思います。でもこういう話を女子の前ですんのはあかんと思います!」
「え、さんて女やったんですか?」
財前に言われてはシクシクと泣き真似をした。財前のボケに泣き真似で返す、そのあたりはさすが関西人や。
「安心してください、俺は大きいより小さいほうが好きなんで。さんの胸板みたいな胸も許容範囲やから」
「胸板ってことはない!それはない!」
「財前は失礼なやっちゃなぁ。やって脱いだらすごいんやで」
みんなは知らんやろ、俺だけが知ってることってめっちゃあるんやで。普段やって可愛えけど他にもいろいろ可愛えんやで。残念ながら自分らがそれを知る日は永久にこんと思うけど、ちゅーかこれに関しては自分らには知ってほしくないわ。
「みんなは分かっとらんねー。相手のこと好いとったらどんな胸でもむぞらしかと思えるばい」
「よく言った千歳!さすが千歳!謙也とは全然違う!」
「俺はのこと好いとるばい、やけんの胸も好いとると」
「千歳、人の彼女たぶらかすんはやめぇ」
千歳は何でこうも自然に相手に告白できるんやろか。
は謙也の失言のこともあってか千歳の言葉をべた褒めする。悲しそうな顔されるより喜んでるときの顔のほうがええのは当たり前として、その相手が千歳っちゅうんはなかなかに複雑や。
「蔵ノ介聞いた?今の千歳の言葉聞いた?」
「ばっちり聞いとった」
「蔵ノ介も同じように思ってる?もし私の胸が急に大きくなたったり小さくなったらどうする?」
「俺器用やから毎日マッサージして元通りにしたるで」
「そういうこと聞きたいんとちゃうのに……!」
財前が苦労しますねとに声をかけとった。ようわからんけど俺なんかマズいこと言ったん?
俺は今のまんまのが好きや。何があってものことが好きなんと違う、今のまんまのが好きやねん。やからが変わってしまったら俺は全力で今のに戻そうとするし、にもそうでありたいって思って欲しい。
「白石と付き合うんは難しかね」
「蔵ノ介ってどこか抜けてるというかなんというか……。それ以外にも苦労するところはたくさんあるんやけどね……女子を敵に回すこととか」
「一番の問題は白石本人ばい」
「蔵ノ介はいい人やけどね」
「……いい人、ねぇ」
と話していた千歳が一瞬こっちを見た。力なく笑った千歳の表情が意味するのは呆れとか諦めとかそういう類のもんやと思う。きっと千歳は俺の中にあるおかしな感情に気付いとるに違いない。
俺はに危害は加えたくない、やから千歳がのことほんまに好きなんやったらが今のままでおられるようにしてくれたらええ。
「さっきのマッサージのこと、あれ冗談とちゃうんちゃいます?」
「……そうやったらどうする?」
「人間って変わっていくもんやと思いますけど……俺は」
財前が俺の横を通り抜けるとき小さな声で呟いた。
それは俺やって十分理解してるつもりやけど、理解してるんとそれを飲み込んで受け入れられるかはまた別の話や。きっとそんな主張を財前にしても顔を顰められるだけやろし、何も考えてないふりをした。
「なぁ、いつまでも千歳の相手してへんで俺の相手もしてや」
「うわ、蔵ノ介構ってちゃんや」
「そやで、俺は構ってちゃんや」
今度俺が転んでもも一緒に転げるように後ろから抱きつく。の目の前に座っている千歳と目が合うのが嫌で視線を落とした。
俺らは歳をとっていく、もうすぐ中学を卒業して高校、大学……その間にがずっとこのままなんてたぶんありえへん。俺やって変わってしまうかもしれへんのに、だけこのままなんてありえへん。それやったら一緒に今、転げ落ちて行ってしまったほうがええんかなぁとか本気で考えてしまう。
「どうしたん蔵ノ介、急におとなしくなって」
「がずっと千歳とばっか話しとるからや」
「ほんまに?それで拗ねてんの?」
「……」
「私が好きなんは蔵ノ介だけやのにー」
「これからもずっと?」
「うん、ずっと」
その言葉がまた俺を一層強く縛り付けた。それでええ、そうしておいてくれたほうが俺は楽や。千歳は簡単にあんなことを口にしたに対して多分ため息をついとるんやろな。
ずっとずっと俺の傍におってな、。それからずっとずっとそのまんまのでおって欲しい。そしたら俺はずっとずっとと一緒にいられるんや。
あとがき
それぞれの胸の好みから始まり最後は白石が病む謎の展開。
変わってしまえばそれはもう君じゃないんだと主張する白石。
2012/07/05
2022/02/06 加筆修正