※氷帝のみんなとお勉強コメディ
H級集会所
立海で行われたスパルタ勉強会のストックは既に底をついた。
幸村くんに無理やりやらされた地獄のような英語の長文読解も仁王くんに見守られながら解いた数学の問題も既に氷帝の授業で追いつかれてしまったのは、私があの後自力で予習というものをしてこなかったからだと反省している。
氷帝はお馬鹿の通う私立校ではない。お馬鹿もいるけれどそれと同じくらい頭のいい人たちもたくさんいる。
しかし学力だけが重視されているということもなく、正直言うとお金さえあれば割と入学はなんとかなるらしい。推薦制度もあるようなのでスポーツや芸術など多方面に秀でた生徒を集めているようだ。
入学の基準が学力のみではないので当然のことながら生徒の学力基準はブレる。だからこそ私みたいな人間もこうして氷帝に通えているわけで、そこは有難いと言えるかもしれない。紹介してくれた父の上司のおかげとも言えるけれど。
氷帝に入学するのは世間体が良かったりだとか、きっとそれぞれの家庭に何かしらの考えがあってのことだと思う。ちなみに私の家は一般のサラリーマンの平均収入よりも多少余裕のある程度の中流階級、私の中学受験は完全に母親の希望と憧れでしかなかった。私が将来よりよい相手と結婚するための経歴を今から固めておきたいという、ものすごく先を見据えた母の作戦なのだ。
それなのに当の本人はこんな感じで、無理して受験することもないし学校だって私立に通いたいと思ったこともなかった。
受験の時だけお尻を叩かれ、今までに使ったことのないような部分の脳みそもフル活用し立海大付属中学に合格。
もともと勉強が好きではなかった私が継続して勉学に励めるはずもなく、結局テストの前にだけ勉強をしてなんとかその場凌ぎ対策で学年の真ん中から少し下の辺りを行ったり来たりする成績に落ち着いた。
立海にいたときはこの成績のおかげで一時担任から部活動停止を言い渡されたものの、テニス部の彼らが勉強を教えてくれたところテストの成績がそれまでよりも良くなってしまい、何としてでも部活を続けて勉強を教えてもらうようにという理由で部活動停止が解かれるというおかしな事態になったこともある。
立海から転校して氷帝に来たのはいい、氷帝でも再びテニス部に入ったのもまぁ仕方ない、しかし問題はこの学力をどのようにしてキープするかだった。
いっそ私の実力はこんなもんですと言ってしまいたい気持ちもあるものの、母や幸村くんがそれを許すとは到底思えない。
また立海のみんなに緊急事態メールを送るのか……と気が重くなったところで部室にがっくんが入ってきた。
「……勉強してんの?」
「違うよ、ちょっとスケジュール組んでるだけ」
「だよな。勉強だったら明日嵐になるところだったぜ」
何気に酷い一言だなと思いながらスルーすると「でも嵐になったら練習なくなるかな」と小さな声が聞こえてそれが可愛くてにやにやしてしまう。
がっくんは不思議そうな顔をしながら私の横に座って手帳を覗き込んできた。
「何のスケジュール考えてんの?」
「ん?あー……えっと……」
「げっ、まさかデート?」
「ち、ちち違うよ!」
「だよな!」
がっくんにデートかなんて聞かれるとは思っておらず全力で否定したものの、ものすごくキラキラした笑顔で同意されてがっくんは私のことなんだと思ってるんだろうと微妙な心境になる。私に彼氏ができたら地球の滅亡とか言い出しそうだ。
「何でそんな隠すんだよ?」
「いやまぁ、ね……」
「あ、アレか。立海の奴らと密会とか?」
「んんん!?」
「変な声だすなって、本当にわかりやすいなー」
あまりにピンポイントに言われてリアクションにすら噛んでしまった私を見てがっくんは笑いながら肩をバシバシと叩いてきた。相変わらず隠し事が下手くそな自分に呆れてしまう。
「密会って何すんの?」
「密会っていうようなやましいやつじゃないんだけどね」
「だけど?」
「何でそんなに気になるの?」
「なんとなく。で、やましくないなら何なんだよ?」
「……勉強を、ね」
「勉強?」
「立海のテニス部一部を除いて頭良いんだよ。勉強よく教えてもらってたから、またお願いしようかなと……」
赤也とブン太は私と同じ部類なのでダメ。普段の言動と知能レベルから赤也、ブン太、私で3バカとよく呼ばれたりしていた。
3バカと言われても構わない、私にはとりあえず彼らのサポートが必要なことは確かだ。勉強についていけるのなら手段は選ばないし選んでいられない。
同年代の人間に勉強を教えてもらうことが日常だなんて笑い飛ばされるかなと思いながら横目でがっくんを見ると、頬杖をつきながらふーんとあっさりした態度だった。
「で、何でわざわざ立海の奴らに頼むんだよ?」
「え?だってみんな頭いいし私の知能レベルをご存じだし……」
「こっちにだって頭いい奴いっぱいいるじゃん。俺はまぁ……アレだからあんまり教えるとか向かねぇけど、跡部とか侑士とか普通に頭いいぜ」
がっくんは当たり前のことをさらりと言ってのけた。学ぶペースも教科書も違う、おまけに少し遠方に住んでいる立海の生徒にわざわざ勉強を教えてもらう必要がどこにあるんだと、言われてみればその通りだ。
跡部くんと忍足くん、確かに頭は良さそうだしがっくんはまぁ……アレなんだろうけど。
「跡部は学年一位だしな」
「なんとなくそんな気はしてたよ……跡部くんナルシストなところ以外非の打ちどころないなぁ」
「それ言ってやんなよ、本人気付いてねぇから」
ははっと笑ってがっくんは鞄から携帯ゲーム機を取り出した。
頭が良いという二人に勉強を教えてもらえるのならそんな有難いことはない。でも私のレベルはたまに「ちょっとここの問題がわからないんだけど」という域を軽く超えてしまうのと、後は贅沢だと思われるだろうけれどどれだけのスパルタが待ち構えているかが怖い。
がっくんはよく二人に勉強を教えてもらったりしているんだろうか。もしそうだとしたら、こんな軽い感じで提案してくれているんだしそこまでスパルタじゃないのではと淡い期待を抱いてしまった。テニス部同様、こっちの方も立海より優しければ何の文句もない。
「跡部は最初はグダグダ言うかもしんねぇけどなんだかんだで面倒見いいし、侑士はちょっと上目遣いしながら『忍足くんに勉強教えてほしいな』って言えば喜んで教えてくれんだろ」
「ブッ!……がっくん忍足くんにいつもそうやってお願いするの?」
「んなわけねぇだろバカ!」
「えー!でもがっくんさっきの可愛かったからもう一回言って!」
「はぁ!?絶対やらねーし!」
「がっくんのケチ……」
「言っとくけど俺は侑士に上目遣いはしないからな」
「嘘だぁ、忍足くんの方が背が高いんだから自然と上目遣いになっちゃうじゃん」
「うるせぇ!チビって言うな!」
「チビなんて言ってないし!……でもがっくんの上目遣いちょっと見てみたいな~」
「って時々口に出さないでいいこと言うよな」
ゲームを始めたがっくんを横目にもう一度手帳を睨んだ。まだ立海のみんなにメールを送ったわけでもないので次の勉強会の日程は決まっていない。氷帝勉強会か……忍足くんに関西のノリで頭叩かれたりするのかな……どうしよう叩かれたい。
氷帝で勉強会を開いてもらうとすれば私の知能レベルを氷帝のみなさんにも晒すことになってしまうけれども私の学力がバレるのなんてどうせ時間の問題だし、最悪成績が悪すぎて部活動停止だなんてことも立海の時同様在り得るので私の知能レベルについてはむしろ知っておいてもらったほうがいい気がした。
「うぃーっす、ってまだ二人か」
「亮くんおはよう。ねぇ亮くんは勉強得意?」
「はぁ?なんだよいきなり」
「馬鹿だなーは。宍戸が勉強得意なはずねぇじゃん」
「がっくん失礼だよそれ!でも今の一言で何となく察した」
来て早々に自分の悪口を浴びせられた亮くんが少し不機嫌気味に私の前の椅子に座る。
当たり前のことながら状況を全く理解していない亮くんが何の話をしていたのかと聞いてきたので今までの経緯を説明した。如何に私が勉強できないかを毎回説明することになると思うと気が滅入りそうになる。
「なるほどねぇ、まぁ先生役は跡部と忍足で決まりじゃねぇの?」
「やっぱりか。亮くんもよく勉強教えてもらうの?」
「まぁたまに。長太郎に聞くこともあるけどな」
「2年生に勉強教えてもらうの!?亮くんプライドは!?プライドないの!?」
「馬鹿がプライドなんて気にしてたらやっていけねぇんだよ」
「言ってることは潔くて格好いいけど何か嫌だ」
同い年のテニス部員に勉強を教えてもらっていた私が言える台詞ではないのは重々承知だけれども、いくら私でも赤也に勉強を教わるという選択肢は考えたことがなかった。
そして亮くんが2年生のちょたくんに何を教えてもらうのか、そこもかなり気がかりだ。ちょたくんが飛び抜けて頭が良いのか、それとも亮くんが2年生からやり直さなければいけないレベルなのか。立海に2年生は赤也一人しかいないし頭のほうもアレなので全く想像がつかない。
「、宍戸にあれやってやれよ」
「なんだよあれって」
「亮くんはアレで落とせそうな気がしないよ……」
「じゃあ侑士だったら落とせんのかよ」
「最初にあの方法で落とせるって言ったのがっくんだけど……そういう意味じゃなくって、亮くんにやっても何言ってんの?って返されそう」
「さっきから何の話してんだよお前ら」
「いいから、とりあえずやってみそ。練習だって!」
「えー……じゃあ」
コホンと咳払いを一つして背筋を伸ばし目の前に座る亮くんを見据えた。それを横からがっくんに見守られる。私はいつもより少し顎を引いて上目遣いをする体勢に入った。
「……亮くんに勉強教えて欲しいな?」
「……は?つーかこっち睨むなよ、怖ぇな」
「ブフォッ」
可愛さで攻めるとかそういうこと以前に「何で俺に頼むんだよ、跡部に頼めよ」っていう解釈のズレと面倒くささみたいなものを亮くんから感じる。
お前ら散々俺のこと馬鹿呼ばわりしといて何言ってんのっていう、確かにその通りなんだけど……亮くんを少しでもきゅんとさせられるかがこちらのコンセプトだったのでそれはもちろん失敗に終わった。そしてこんな頼み方はするべきではないという結論も出た気がする。
亮くんだから素直に感想を言ってくれたもののこんなこと跡部くんや忍足くんにしてしまったら引き受けてくれるものも引き受けてくれなくなってしまいそうだ。
「ジロくんは勉強できるの?」
「謎。正直未知数だな」
「ムラがありすぎるっつーか。多分起きてるか寝てるかで違ってるんだろうけど」
「94点とか叩き出したと思ったらその次のテストで3点とかとったりな」
「ある意味一番不真面目だね……。2年生くんたちは?」
「普通にできるんじゃね」
「へぇ……じゃあお馬鹿なのは私とがっくんと亮くんと時々ジロくんだけかぁ」
「お馬鹿って言うのやめろ」
がっくんと亮くんに私の知能レベルがバレてしまったのできっと明日にはレギュラー陣全員にこの情報が知れ渡っているだろう。こういう恥ずかしい噂は広まるのが早いものだ。
もう私は氷帝でもお馬鹿キャラで構わない、憐みを含んだ目で見られるのにも慣れているし隠せないところまで来たからにはもう素直にお願いしますと言うしかない。
どう考えたって勝てないであろうお二人、もしくは他のみんなに何を恥ずかしがることがあるのだ。むしろ早々にバレたほうが氷帝で生きやすくなるかもしれないと思うと少し気持ちが軽くなった。
「勉強のことはあの二人に任せときゃなんとかなるって」
「亮くんそういうところめちゃくちゃポジティブだよね、尊敬はしないけど」
「尊敬しろよ。ポジティブなのはいいことだろ」
「私とがっくんがアレなのはまぁ事実として、亮くんだって仲間の部類でしょ」
「そういうのはなんとかなるんだって」
がっくんと同じく亮くんも携帯ゲーム機を出してゲームを始めたのを見て、この二人がどうして勉強が苦手なのかわかった気がした。そして私も同類なので鞄から自分の携帯ゲーム機を出して二人に混ざる。私達はモンスターを狩るべく集会所に集まり出発の準備を整えた。
「おはようさん……ってあかん、またここ集会所にしとる」
「うおー!俺もやるやる!混ぜて!」
「わかったからはやく準備しろよな!」
忍足くんに引きずられて来たジロくんは集会所に集まる私達3人を見て一気に覚醒した様子で、鞄から同じくゲーム機を取り出して亮くんの横に座る。ジロくんもいつものメンバーの一人、この氷帝テニス部レギュラー専用部室という集会所に集いしハンターだ。
呆れた様子の忍足くんは私の隣に長い脚を組んで座った。
「今度から部室のこと集会所って呼ぼうよ!」
「やめとけって、跡部に怒られるぞ」
「それよりも、侑士にあれ頼まなくていいのかよ?」
「いやー……あれはやめておこう。あれは頼まなきゃいけないけどあの方法はやめとこう」
「あれって言いすぎだろ、激ダサ」
「あれって何なん?」
「頑張れって!宍戸には効果なかったけど侑士ならいけるって!」
「がっくんは忍足くんのことなんだと思ってんの」
「……あれ忍足にやるつもりだったのかよ?まぁ忍足なら……まぁ……」
「どういうことやねん」
「誰だろうとあれはやめておこう、傷つくのは私だよ」
「頼むから誰か俺のツッコミ拾ったって」
ジロくんが装備を整えている間にがっくんが先程の氷帝勉強会の話をしてくる。だとしてもあの方法だけは何としても避けたかった。亮くんのあの反応を見て痛いほどよくわかったのだ、あれは本当に可愛い子がやらないとプラスどころかマイナスの効果しか発揮しないということを。今でも先程の亮くんの表情を思い出すと胸が痛い。
「がっくん、土下座じゃダメかな?」
「ダメとかダメじゃないとかそういう問題以前な気がする」
「土下座って何?怖いんやけど」
「跡部くんが来てから言うのは?それまでに一狩り行って心を落ち着かせよう」
「お前それただゲームやりたいだけじゃん」
もちろん言わなければならない。こういう事情で部活が続けられなくなるかもしれないのでもしよろしければ私に勉強を教えてくれないでしょうかと。
それなら部活やめればって言われれば元も子もないけれど、その可能性は今になって頭に浮かんだ。
立海のみんなは私の成績を知ってスパルタながらも勉強に付き合ってくれたけれど、そもそもそれだって幸運なことだった。幸村くんから何としても辞めさせないぞという執念みたいなものを感じていたし、結局最後まで私が見放されることなくここまで来れた。
しかしよくよく考えれば私に対して氷帝の人たちが執念を燃やすわけがないし、がっくんの一言からこんなことになったけれどそもそもみんなに私の勉強を見る必要性なんか何もない。がっくんと違って私の代わりなんていくらでもいる。
どうしようと不安になったところで幸村くんの笑顔が脳裏にチラついた。ここで氷帝テニス部を追われることになった後に待つ結論を考えると、それもそれでよろしくない。
私がぐだぐだしている間に樺地くんを引き連れた跡部くんがやってきて、お前らまたやってんのかと言わんばかりに睨まれる。今日からここは集会所になりましたと言ったら溜め息を吐かれた。
「ジローまだかよ?」
「ちょっと待って~!」
「ほら跡部も来たんだし言えよ」
「がっくんが言って……!」
「はぁ?何で俺が言うんだよ、自分で言えよ!」
「がっくんのあれが見たいから是非ともがっくんに……!
「やるわけねぇだろ!」」
「お前らさっきから何話してんだ」
「それがさっぱりやねん」
跡部くんと忍足くんが二人で顔を見合す。
勉強教えてくださいって言うだけなのに変にもったいぶってしまったから言い出しにくい雰囲気になってしまったのと、無事に言えたとしてもじゃあ勉強ができるようになってから出直せって言われるのが怖くてなってしまった。
がっくんと亮くんはものすごく見つめてくるし、ここで私が言わなかったところでこの二人には全てバレているので無駄な抵抗のような気もする。
何て言えば場が丸く収まるんだろうか、脳みそをフル回転させて考えるものの跡部くんに見つめられれば見つめられるほどまともな案は浮かんでこなかった。
「跡部くん、忍足くん……あの、えー……その」
「何だ、早く言え」
「……ダメだ!やっぱりいつも通り立海のみんなに頼む!すみませんでした今の忘れてください二人とも!」
「オイ、立海って何だ」
「忘れてください!さぁみんな一狩り行こう!ジロくん準備できた?」
「できたー!」
「待て、狩りは後だ。今のはどういう意味だ説明しろ」
無理やりゲームをする流れで話を終わらせようとしたものの、目を光らせた跡部くんは見逃してくれそうにもない。
一番跡部くんが反応するワード『立海』を何故今口走ってしまったのか、自分の無能さが嫌になりながらも立ったまま腕組みをしている跡部くんと座ったままの忍足くんからの視線に身体を小さくすることしかできなかった。
「あーもう面倒くせーな。さっきの話ってのは、が跡部と忍足に勉強教えてもらいたがってるって話だぜ」
「あああああ亮くん!」
「……勉強?」
「勉強苦手らしくって今までも立海の奴らに教えてもらってたんだとさ。で、ちなみにこの前も勉強教えてもらいに立海行ってたらしいぜ」
「わー!がっくんそれは言わなくていい情報!」
「……」
「……」
私が言い淀んでいるとしびれを切らした亮くんとがっくんが二人に全てを暴露し、予想通り跡部くんも忍足くんも黙り込んでしまう。
休みの日の私の過ごし方は置いといて、まさか私がそこまで勉強のできない人間だとは思っていなかっただろうからもういりませんと言われても仕方がない。
「勉強を教わるために立海に行ってたのは本当か?」
「ほ、本当です」
「……はぁ」
跡部くんに尋問され忍足くんには溜め息を吐かれた。これはもう終わったかもしれない。
勉強教えて欲しい(上目遣い)だなんてふざけるような雰囲気であるはずもなく、膝に手を置いて足先を見つめてひたすら部長と副部長からの言葉を待つしかなかった。
「何でもっと早く言わねぇんだよ」
「……さすがに入部に不利になるようなことは言えないと思って黙っていました、すみません」
「早く言ってくれとったら立海の人らの手ぇ煩わさんても俺らがなんとかしたやん」
「そ、そうですよね……勉強は部活動停止にならないようになんとかするのでお許しを……!」
「オイ、話聞いてたか?」
「え?」
「ダメだ、何も聞いてねぇ」
がっくんがお手上げだぜと言わんばかりのジェスチャーをしているけれど表情は穏やかだ。亮くんもジロくんも、跡部くんも忍足くんもみんな穏やかに笑っていて私を首を捻らずにはいられなかった。
これはあれか、幸村くんが超得意の顔は笑ってるけど目は笑ってないし許してもいないし許す気もないよっていう時のあれか。
「……終わった」
「何をどう聞いてたらそういう結論になるんだよバカかお前!」
「え?」
「、さっき言ってた侑士のあれ、とりあえず今やってみそ」
「な、なななんでそうなるの!?もうあれやらないって言ったよね!」
「いいから早くやれって!」
「えー……」
流石に勉強教えてほしいなと馴れ馴れしくはできないなと頭の中で修正案を考えた結果、ふざけずにひたすら真面目に二人に頭を下げてお願いするという当たり前の結論が出た。
頭が悪いのも立海のみんなに勉強を教えてもらっていたこともバレた、もうここまできたからには全てを曝け出してお願いをするしかない。がっくんを信じるのみだ。
「……跡部くん、忍足くん」
「何だ」
「何や」
「……立海のみんなの代わりに私に勉強を教えてください」
じゃあやめていいと言われたらどうしよう。立海の奴らに頼めって言われたらどうしよう。言われても仕方ないけれどきっと言われると悲しくなる。そして幸村くんに怒られる。
頭を下げるとぐっと頭に重みが加わって、これもしかしてこのまま頭を掴まれて机にぶつけられるかもっと深く頭を下げるように押さえつけられたりするのかとバイオレンスな跡部くんの存在を垣間見た。
しかししばらくしても何もバイオレンスな出来事は起こらず、堪らず少しだけ顔を上げて跡部くんの様子を伺う。私の頭を押さえつけていた跡部くんはそれはもう満足そうに笑っていた。
「部員の面倒見るのも俺の仕事だバカ」
「格好いいです跡部くん、いえ跡部部長……!」
「跡部は素直やないなぁ。勉強なんていくらでも教えたる、時間やって作ろうと思えば簡単に作れるやん、立海のみなさんと違って」
「……!本当にいいの?」
「その代り、俺様が教えるからにはちょっとやそっとの結果じゃあ満足はしねぇ。わかってるんだろうな?」
「いや、あのそれ私の成績知ってから言ったほうがいいよ?跡部くんが後悔するよ?」
自信満々の笑みで私を見つめる跡部くんだけど程々にしておかないと困るのは跡部くんだと思う。対照的に忍足くんは薄く笑っていて、が困らん程度に何とかしようなとマイペースっぷりを発揮していた。
そうです、私が求めているのはそういう緩さ……!
「今日からゲームの時間は減らせ!ゲームの時間を勉強に充てろ!」
「うーわ、跡部めちゃくちゃ気合い入ってんじゃん」
「どんまい!」
「ちゃん頑張れ~」
「何呑気なこと言ってやがる、お前らもだ!ここをゲームのための集会所にするんじゃねぇ!」
「はぁ!?ふざけんなよ、俺らとばっちりかよ!」
「くそくそっ!の所為だ!」
「跡部くんそれだけは……!私達はゲームをしないと生きられない身体なんです……!」
「そんなわけあるか!長時間ゲームに費やす時間があるなら勉強しろ!ゲームの時間を増やすのは成績がどうにかなってからだ!」
「そんなことしたら一生ゲームできないじゃん!忍足くん助けて!」
「ごめんな、の成績が大切なんや」
「さっきと言ってること全然ちがうじゃん忍足~!」
「で、でもそう言われると言い返せない……!」
「バカ!言い包められんな!俺らの集会所はどうなるんだよ!」
「裏切り者ー!」
「今日からここは集会所じゃねぇ、てめぇらの勉強会場だ!わかったらさっさとそのゲーム機を片付けやがれ!」
「「「「それだけはー!!!!」」」」
黙って見ていた樺地くんが4人の手からゲーム機を奪っていく。半泣きになりながらもなすすべのない私達は自分のゲーム機との別れを惜しむことしかできなかった。
Q:立海と氷帝、どっちがスパルタ?
A:方向性は違うものの跡部くんも幸村くと同じくらいスパルタでした。ただ氷帝は跡部くんだけが極端なだけだったので、氷帝のほうがまだマシです。
2018/01/04