※R18です、ご注意ください
※22巻軸設定、ねつ造多数です
※ハピエンですが付き合っていない男女の性描写等が含まれています
終結の満ち欠け
二人でよく行く居酒屋に先に入ってを待った。仕事を終えてここに向かっている最中だと連絡があったので、彼女ももうすぐ着くだろう。適当にスマホをいじりながら前回会ったのはいつだったかとやりとりを遡ると、二週間くらい前だった。
ダチと呼ぶほどでもないような知り合いを通じて知り合ったは、所謂そういう仲だった。縛られない自由な関係と言えば聞こえはいいけれど、要するに付き合ってはいない。ただ、彼女のことを気に入っている点は他の女と少し違う。身体の相性がいいとかそんなのはまぁ置いておいて、ノリとかテンションが似ていた。オレから連絡して断られることは多分今までなかったと思うし、オレが会いたいと思うときに彼女から連絡が来たのも一度や二度ではない。こういう些細なことでも、積み重なると気分が良かった。
一緒にいるときも、基本的にお互い超自由だ。例えば二人で飯を食べている最中、なんとなく見たかった動画のことを思い出して相手に断りもなく再生し始めるとする。普通の女はキレるところ、は一緒になって動画を見るか、自分もゲームを始めたりして気にしている様子がまるでない。更に彼女のすごいところは、同じことを彼女がし始めることがあるということだ。オレを置き去りに動画を見始めたりゲームをしたり、そういうことが珍しくない。でもそこでオレが普通に話しかけたり、一緒にゲームをやると言い出せばそのまま受け入れて、邪魔者扱いすることもなかった。いつもこんな具合なので、彼女と一緒にいると気を遣う場面がない。
その他にも好きな店の傾向とか、何かに飽きるタイミングだとか、価値観が似ていた。最初は意識なんかしていなかったのに、会う回数が重なっていくにつれてそれを実感することが増えていった。やがてと同じカテゴリにいたはずの数人の女は一人、二人と連絡を取るのが面倒になって、最終的に一人が残った。実際、彼女一人いれば暇を持て余すことも欲求不満になることもなく、現在に至る。
「ごめん、待った?」
「おせーよ」
頬杖をついたままダルそうに答えると、はそんなオレを笑い飛ばした。席の奥に鞄を詰め込むようにして座って、オレと向き合う。
「上司が話したそうな雰囲気でこっち見てたんだけど、急いでるオーラ出して帰っちゃった」
「相変わらずだなオマエ」
「一虎と約束あるんだし、今日は残業したくないでしょ」
女からこういうリップサービスを言われるのは珍しくない。それでも媚びた感じがないからか、に言われると悪い気はしなかった。
二人して腹減ったと言いながらメニューを覗き込んで、いつもと同じようなものを適当に注文する。先に酒が運ばれて来てもオレらはいちいち乾杯なんかすることもなく、各々さっさと口をつけるのもいつも通りだ。
そもそも、以外の女と連絡を取るときは飯なんてほとんど行かなかった。目的が達成できればそれでいいので、恋人ごっこみたいなこともしたくない。家かホテルに直行、ヤることヤったら9割は直帰。たまに帰るのがものすごく面倒な日があって、そんな日だけはそのまま仕事に行った。何も言わないのに感じ取るものがあるらしく、必ずと言っていい程社長には呆れた顔をされた。
それなのにとはこれだ。彼女と会う日はほとんど飯から始まる。その日の気分でファミレスに行こうと言っても彼女は嫌な顔一つせず「今日はミックスグリルな気分!」とか言って笑っている。こういうところが面倒くさくなくて最高だ。何故か彼女の家から仕事に行く日は社長に小言も言われなかった。
「ねぇ、今度の休みいつ空いてるって言ってたっけ?」
「んー……来週の木曜」
「木曜かぁ。行きたいって言ってた展覧会なんだけどね」
「はぁ?一緒に行くなんて言ってねぇし」
「えーダメ?毒のある動植物展だよ?」
「そんなん見てぇのかよ」
「面白そうじゃない?一虎も好きそうだと思ったのになぁ」
「どんなイメージだよ。……まぁ別に一緒に行くくらいならいいけど」
「じゃあ私の仕事終わりにね!ちょっと遅くまで入れるみたいだから」
とは飯だけでなく一緒に出掛けることもある。オレから誘うことはほとんどないものの、断る理由もないので適当に付き合ってやることが多かった。
前に一度、一緒に映画を観に行ったとき、前日夜更かしした所為であまりの眠気に爆睡したことがあった。目が覚めたらエンドロールが流れていて、半分くらいまでしか内容は覚えていない。流石にこれにはもキレるかと若干身構えたけれど「あんまり面白くなかったから寝てて正解だったかも」と言い出して、改めて変な女だと思った。
こうして一緒に飯食って、たまに出掛けて、何も知らない周りの人間にオレ達はどう見えているんだろうと考えることがある。仮にどこかで「付き合ってるんですか」「この人は彼女さんですか」と聞かれても、オレは否定しないような気がした。説明するのが面倒なのももちろん、オレとが交わしていないのは「付き合う」という口約束だけで、このまま彼女と付き合うことになっても何も変わらないだろう。いつからだかわからないけれど、既に気持ちは彼女だけに向いていて、都合のいい女という肩書には納まっていなかった。
ただ、オレがこう感じているだけで、がどう思っているかは別だ。型に嵌らない言動をする彼女は、何を考えているのかわからなかった。都合のいい暇つぶしか、なんとなく気の合う棒と認識されているのか、そんな疑問は女々しくて尋ねる気になれない。
縛られていない自由な関係は確かに楽だ。責任も義務もなく、ひたすらに今を生きている感じがする。でもそろそろ、この面倒くさくない変な女に対して、ケジメをつけてもいいのかもしれないと思い始めていた。
は最近入社してきたばかりの新人の扱い方がわからないと愚痴をこぼしていたところだった。オレの勤め先に新人はおろかバイトもいないような規模なので、共感することも具体的なアドバイスができるわけもなく、ひたすら話を聞いていた。今のオレはその新人よりも、自分のことで頭がいっぱいだ。口では相槌を打ちながら、頭は全く別のことに意識がいっていた。多分あまり真面目に話を聞いていないのも、彼女にバレている。
「なぁ」
「何?」
「挨拶返さないってどういうことなの!?」と怒りをぶちまけ、興奮状態のが酒を煽った。彼女がグラスに口をつけている間だけ沈黙が流れる。話を切り出すタイミングとして最適ではないとはわかっていても、口が先に動いてしまったのだから仕方がない。
「全然違う話していい?」
「いいよいいよ。どうしたの?」
「……オレ、好きな子ができたかも」
先程まであんなに怒っていたのに、けろっとした表情で尋ねてきたは、オレの言葉を聞いて動きを止めた。てっきりテンション高くあれこれ聞いてくるのかと思いきや、静かにグラスに手を伸ばす。
「本当に?」
「おう」
「……そっかぁ」
細く息を吐き出したはへたり込むような仕草で机の上に突っ伏して、視線だけをオレに向けた。もうそれなりに飲んでいるので酔っているのもあるとしても、さっきから彼女の反応は初めて目にする行動ばかりだった。
「眠ぃ?」
「んー……ちょっと」
「じゃあもう出る?」
「そうしようかな」
伏し目がちなと目を合わすことのないままやりとりを続ける。このまま寝られると困るので、とりあえず店を出ることにした。流石に歩きながら寝るほど彼女も器用ではないだろう。
準備だけしとくように言って会計のために席を離れた。戻ってくるとはオレが座っていた場所をぼーっと見つめたまま、準備を終えた形跡はない。黙って彼女が動き出すのを待つものの、行動し始める気配はなかった。
「オイ、大丈夫かよ?」
「……っ!大丈夫」
痺れを切らして肩を軽く叩く。小さく飛び上がったがようやく準備を始め、数分後には二人で店を後にした。
* * *
から鍵を受け取り、慣れた手つきでの家の中に入る。電気を点けると、部屋は綺麗に片付けられていた。前に突然来たときは洗濯物が散乱していたので、事前に片付けたのだろう。
適当に鞄や上着をその辺に投げてから、に手招きする。丁度脱衣所で仕事着から部屋着に着替えを終えた彼女の背後から、大量のお湯が湯船に溜まっていく音が聞こえた。近付いてきた彼女を抱えて、そのままベッドに二人で横たわる。
「お風呂入ってからにしよ?」
「風呂入る前に一回」
「えー」
「じゃないとオマエそのまま寝るだろ」
居酒屋で既に寝そうになっていたのに、風呂になんか入ったら即寝るに違いない。は風呂に入る気満々で準備をしていたようだけれど、残念ながら少しの間我慢してもらうことになりそうだ。
納得していない顔をしているを押さえつけて、半ば無理矢理キスする。本人から直接聞いたわけではないものの、少し強引にするくらいがいいのは前から察していた。先に風呂に入るのは諦めたのか、それともスイッチが入って風呂のことはどうでもよくなったのか、抵抗されることはなかった。こうなればこっちのもので、キスするだけで挿入できるくらいに濡れるのも、彼女のお気に入りポイントの一つだ。
「どうせ終わった後も風呂入んだろ?」
「……」
抵抗はしなくても相変わらずは不満そうだった。無視してくるのも初めてだ。気になって、少し引いて彼女の顔を見つめると視線がぶつかった。聞こえていないわけではないらしい。
「何?そんなに風呂入りたかった?」
「……そうじゃないけど」
「じゃあいいじゃん」
話しながら部屋着のズボンだけ膝の辺りまで下ろす。下着越しに割れ目をなぞると湿り気を帯びた布の感触がして、いつもと同じように既に濡れているのが確認できた。そのまま布越しに擦ったり下着ごと指を突っ込むと、嬌声を上げながら脚をびくつかせる。既に荒い息を繰り返すは、直接突起をぐりぐりと刺激すると簡単に絶頂を迎えた。
「ゃあッ、っん、ぁ、かずっ……んっ!ぁあっ!」
「あはは、相変わらずチョロい」
「はぁ……っ、……ごめん、イっちゃった」
「眠気吹っ飛んだ?」
「……たぶ、んっ!あっ……んぅっ……まだ挿れないの?」
左手で下着の一部をずらしながら、溢れてくる愛液を膣の入り口に塗りたくるように指を動かす。指で液体を掬って突起を擦ると、はまたイきそうになっていた。焦らすようにあえてそこは避けて、ヒダの辺りを中心に攻めていく。少し指に力を入れるだけで、ちゅぷと音をたてながら第一関節くらいまで膣口に吸い込まれていくのだから笑ってしまった。ぬるぬるとした液体を表面で擦っているだけでも気持ちいいようで、動きがじれったいのか珍しくが催促してくる。
「ふっ……ん、っねぇ、かずとらぁ」
「仕方ねーなぁ」
早く欲しいと言われて嫌な気になる男はいないと思うし、オレも例外ではなかった。急かされて悪い気はしないどころか興奮する。ただ、普段はそういう要求を口にするタイプではないので、何がをそうさせているのか気がかりではあった。やっぱりまだ風呂に入りたいと思っていたのか、それとも余程眠たいのか。なんとなくそんな単純なことではないような予感が頭を過る。
「早く挿れろとか言うの、珍しいよな……ッ」
「んッ!ぁ、はぁっ……そ、かなぁっ、ん!」
前髪を掻き分けるととろんとした表情のと目が合った。これだけでは気持ちいいのか眠たいだけなのかわからない。それでも、流石に最中に寝るほどヌルい運動をしている自覚はなかった。
「ねっ……かずとら、あのねっ」
「……っ、んー?」
「いろいろ……んぁっ、かんがえ、てっ……んんッ!たんッ、だけど」
「……何だよっ」
いつにもなくは饒舌だった。喘ぎ声を上げながら、途切れ途切れに話しかけてくる。先程の予感も含め、いつもと違う言動を繰り返す彼女に違和感を覚えつつ、無視するわけにもいかなかった。抱きかかえるようにして腰を打ちつけ、彼女の耳元で返事をする。反応するようにナカがキツく締まって、大きく息を吐きだした。
「ッもう!会うの……これでっ……最後に、しよ」
「は?」
ドでかい爆弾を落とされた気分だった。これまでの違和感の原因を知ったと同時に、思わず動きが止まる。
本来ならの目を見て理由を聞くべきなのはわかっていても、今彼女の目を見て話すのが怖くて、抱きかかえるような体位が変えられない。いくらなんでも予想外すぎる展開に、行為を中断するかどうか迷った。このまま動かずにいれば確実に萎えて、続けるものも続けられなくなるのは目に見えている。
勢いで「は?」なんて返してしまったものの、ショックを受けていることを悟られるのは嫌だった。とりあえず何事もないような素振りをするためにも、ピストンを再開する。やっぱりの顔は見れないままだった。真っ直ぐオレを見て話されるのも、横を向いてわざと視線を逸らされるのもどちらも嫌だなんて、身勝手にも程がある。
「……何で急に?もう飽きた?」
「ちがっ……そうじゃ、ぁッ!」
ショックの後に押し寄せてきたのは僅かな怒りの感情だった。数時間前に考えていたことを、どうしてコイツはいとも簡単にへし折ってくれるんだろう。
自分から理由を聞いておいて、の回答を聞くのは気が進まなかった。何も言えなくしてやろうと、容赦なくピストンを繰り返す。
「好きな子……っんぁ、でき、たなら……よく、ないよっ……こういう、のッ!」
「はぁっ?」
「私が、ぁっ、相手の子、だったら……いや、だからぁっ!」
の行動は矛盾だらけだ。そうやって正論を言って正義ヅラしているのに、身体は相変わらずオレを締め付けて離そうとはしない。愛液を垂らしながら収縮を繰り返してオレを求めている。口では正しいことを言っているつもりでも、身体は正直だ。
だいたい、こんな関係を続けている時点で良いも悪いもないじゃないか。オレがもしに嘘を吐いていて、本当は彼女がいましたなんて言ったらどうする?は何もわかっていない。
「かずとらのっ、気持ちも……ッあ、ゃ、相手の子も、んぅッ……大切にっ、して、あげてっ」
「大切にする……ねぇ」
の言動は相変わらず矛盾に満ちているけれど、オレの怒りは別の感情に変わろうとしていた。諦め、呆れ、それらにも似ているようで、最終的に戻ってきたのは恐らく愛情という着地点だ。
こうまでしてが正しさを貫こうとしているのは、彼女自身の為ではないだろう。「セフレがいます、でも君が好きです、付き合ってください」は、普通の女には通用しない。オレが潔白の身で相手と向き合えるように自分が身を引くなんて、当たり前のことかもしれないけれど、それはの優しさだ。
「そーだな、大切にしてやらねぇとな」
「……ッ」
「いつからオマエ、そんなバカになったんだよ」
自分で自分を傷つけるようなことを言って、は本当にバカだ。オマエは頭の中で、どんな女を想像してる?
居酒屋でのの行動は、振り返ればわかりやすくて可愛いものだった。途中からテンションが低くなったのも様子がおかしかったのも、今思えば全部あの話を切り出してからだ。眠いとかそういうことではなく、何も知らない彼女はショックを受けていたのだと今更になって気付いた。そういう意味では、バカはオレも同じかもしれない。
「いい加減気付くだろ、普通」
「一虎……?」
まだ状況を理解していないバカは、口で説明しないと一生勘違いしたままだろう。そろそろオレにも限界が近付いているので、出すまでには全てを片付けてしまいたい。
緩めていた腰の動きを再び加速させ、同じく限界に近いの耳元に先程と同じように唇を寄せた。
「……好きだ」
ただそれだけ、主語も相手の名前も言わず、それだけを告げる。からは何も聞いていないし、彼女の気持ちも知らない。まだ全てオレの憶測でしかない。でも、直後にが締め付けてきたのが答えだと受け取ることにした。本当に身体は正直に出来ている。
その刺激のおかげもあって無事に射精し、の上に被さるようにして倒れ込んだ。相変わらず彼女の顔は見れなかったけれど、倒れ込む前にほんの一瞬だけキスする。雰囲気を作るため、気持ちを盛り上げるためにすることはあっても、射精した後の何の意味もないキスは今まで一度もしたことがなかった。
普段なら重いと苦情を言ってくる彼女は、何も言ってこない。代わりに、息を整えるような荒い呼吸音と鼻を啜る音が聞こえて、ぎょっとして彼女の上から飛び退いた。
「一虎ぁっ……私も一虎のこと、大好きだよぉ」
「……オマエ本当にバカだな」
「いきなり好きな子ができたなんて言い出すから、心臓止まるかと思ったぁ……」
終わった後にこんな湿っぽい雰囲気になったことはなかった。ずっと抱えていたであろうことを吐き出すが、ベッドの上で縋りついてくる。事後にこんな風にくっついてくるのも初めてで、彼女がどれだけ不安を抱えていたのか思い知った。
「わかったって。続きは風呂ん中で聞くから」
「……一緒に入るの?」
「ん?風呂入りてぇって言ってただろ?」
「あれは時間稼ぎしたかったからで……」
立ち上がらせて軽く背中を押す。「本当に一緒に入るの?」と何度も振り返って確認しつつも、はぺたぺたと風呂場に向かって歩き出した。彼女の横顔は先程よりもずっと赤い。もうお互いの裸なんて何十回と見てるのに、何を恥ずかしがることがあるのか。
の背中が見えなくなると全身の力が抜けるような気がして、一人ベッドに逆戻りした。途端に眠気にも襲われる。疲労感よりも安心感や達成感のような気持ちがふわふわと浮ついていて、このまま目を閉じてしまいたくなった。うとうとしかけていたところで遠くから「一虎ー!」と名前を呼ぶ声が聞こえる。こんなことになるなら、もう少し二人でベッドの上でダラダラしていればよかった。
もちろん社長=千冬です
2023/02/28