※梵天軸設定により設定の捏造、妄想など多分に含まれます
※犯罪者(三途)と被害者(夢主)の関係です
※上記の設定上夢主が病んだり、依存するような表現があります
※上記の関係性上序盤は名前変換がほとんどなく、内容も暗めです
※作品内に暴力描写があります
※名前なしモブが登場します

上記の注意事項を了承いただける方はスクロールをお願い致します




















ホワイトアウト 01


 土曜日。まだ午前中だと言うのに、いつも通りのスーツに身を包んで用意させた車に乗り込んだ。運転手はつけない。人を使うなと指示されたわけじゃなくても、オレらみたいなのが複数人いるのは都合が悪い。それがまた苛立ちに拍車をかけた。
 ターゲットが来る確率は7割くらいと言ったところか。そこまで準備日数がなかったのに加えて気乗りしないのも影響して、事前調査も完璧とは言い切れなかった。これをあいつらに話せば確実に面倒なことになるので、何が起こっても準備は抜かりなかったと報告するつもりだ。だが正直、心の底では九井の計画が失敗するほうが楽に終われるのにと思っていた。

 予定していた位置まで移動してから、車を降りてターゲットを待つ。意味がないとわかっていながら、苛立ちをそのまま運転席のドアにぶつけてやった。
 待つこと数分、ここ数週間追っていた人物がのこのこ歩いてくるのが見えて、このまま行けば計画通りに事が運ぶのに溜め息が出た。計画の開始と共に、面倒事の始まりだ。

 「あの、すみません」
 「はい?」

 スマホを持ってわざと顰め面をしていた顔に軽く笑顔を張り付けて、女に近付く。実物を見るのは初めてではない。もちろん話しかけたり、こんな至近距離で顔を確認するのは初めてだったが、資料で何度も見たり後をつけていたので知り合いに話しかけるような気分だった。とは言え、向こうは自分がマークされていたなんて知る由もない。歩いている最中に声をかけられる事すら予想外だったらしく、周りを見渡してから付近に自分しかいないのを確認して、怪しむような視線をこちらに向けた。

 「このビルを探してるんですけど、どこにあるか知ってます?」
 「ビルですか?」

 真昼間に声をかけても怪しまれるくらいの警戒心だ。おかしな勧誘やナンパではないと手短にアピールする意味を込めて、早々に本題に入るフリをした。今のオレは目的地が見つけられずに困り果てて、こんな都会で知らない人間に助けを求める間抜けな通行人Aだ。スマホに表示したビルの入り口の写真を見せながら、徐々に女との距離を詰めていく。

 「ゴーゴルマップだとこの辺りにあるらしいんですけど、見つからなくて」

 第一段階である今日の計画に必要な条件はいくつかあった。犯行現場が監視カメラに映らない場所であること、通行人が少ないこと、女が普段休みの日に利用している道路を利用すること、そして特徴的な外観の建物が周囲に実在していることだ。監視カメラのない道路を探すのはかなり難しいので、できるだけカメラの死角であったり、角度的に特定の厳しい位置にすることで妥協した。通行人の有無は通報や邪魔を避けるために重要なので候補を絞り、女が行方不明だと通報されるのをなるべく遅らせるために犯行は土曜日が理想だった。女に見せた写真のビルは実在する建物で、この先の交差点付近にある。ドアが特徴的なデザインになっていて、周囲を見て歩いている人間なら記憶に残っているだろうとこのビルを選んだ。時間稼ぎをするためにも「知らないです」と言われるのは避ける必要があった。実在する場所とは言え、ダミーなのでビルに用はない。

 「多分、このビルならあっちのほうにあると思いますよ」
 「あっちですか?」
 「そうです、あの交差点を左に曲がって……」

 ここまで計画的に狙われているとも知らず、ビルのある方向を指差して女は道案内を始めた。同じ方向を向くという体で女の背後を取ることにまんまと成功したオレは、静かに胸ポケットから取り出したチャック付きビニール袋を開ける。素早く布を準備し、最後に前後左右に人の気配がないのを確認してから、女の口と鼻を塞ぐように布を押し付けた。驚いて振り向こうと暴れた女はすぐに大人しくなり、崩れ落ちるように力をなくす。
 女の身体を抱きかかえ、もう一度人の気配を確認する。この段階なら最悪目撃されても、女を介抱している事にしてこの場は逃げ切れるだろう。有難いことに通行人はおらず、数メートル先に停めておいた車に女を運んだ。
 後部座席に女を詰め込んでから運転席に乗り込むと、どっと疲れが押し寄せる。ハンドルに数秒だけもたれかかってから全てに諦めをつけたオレは、のろのろとエンジンをかけた。


* * *


 移動すること十数分、地下駐車場に車を停めてから後部座席を振り返る。麻酔薬の効果は2時間程で切れると説明を聞いていた通り、まだ女が目覚める気配はなかった。ここから先は不審な行動は極力避ける必要がある。女を抱えて歩くことはできないので、自力で歩いてもらうしかない。たまに目の前を通る他の車を見送りながら、麻酔が切れるのを待った。
 
 「……んっ……」

 どれだけ時間が経ったか、後ろから小さな呻き声が聞こえて、バックミラー越しに女を確認した。これといった拘束をしているわけではないので、もぞもぞと動き始めた女は上半身を持ち上げ周囲の状況を確認しようとする。
 オレはポケットから拳銃を取り出した。仮に誰かがオレたちの車の前を通り過ぎても見えないように、低い位置から女に拳銃を突きつける。

 「それ以上動けば撃つ」
 「っ……!」
 「騒いでも撃つ。いいな?」

 ゆっくりと頷いた女は皮張りのシートに座った格好のまま固まった。オレの顔と拳銃を交互に見つめる。その後荒い呼吸を繰り返しながら視線だけを動かし、ここが何処なのか観察しているようだった。

 「今から移動する。誘導する通りに歩け」
 「……」
 「移動中助けを求めたり逃げようとしたら、その時点で撃ち殺す」

 小刻みに震えるように女は何度も頷いた。車から降りてすぐ背後に回り込み、腰の辺りを拳銃で突く。薄いカーディガン越しに硬い金属の感触が伝わったのか、足を震わせていた女が飛び上がった。

 「不審な動きすんじゃねぇぞ?わかったか?」
 「……わかりました」
 「わかったら、あの扉に向かって歩け」

 一度だけ大きく深呼吸してから女は一歩を踏み出した。斜め後ろを離れないようにしながら着いて行く。拳銃を突きつけていると怪しまれるので、一度胸ポケットに仕舞ってから左手で女の背中を押した。
 まず扉を通り過ぎて地下駐車場からエレベーターでエントランスへと向かう。そこから違うエレベーターへ乗り換えて、目的の階まで一直線だ。幸いエレベーターで他の住人と鉢合わせることもなく、終始無言のまま部屋の前まで辿り着いた。

 「入れ」
 「……」

 言われた通りに女が部屋の中に入る。玄関で立ち尽くす女を後目に扉に鍵をかけてから、オレはいつもしているように玄関に常備してあるウェットティッシュで手を拭いた。そのまま靴を脱いで洗面所へ向かう。手を洗って玄関に戻ると当たり前だがそこに女がいて、わかっていたのにどうしようもなくイライラした。






























ドラマや映画にありがちなクロロホルム等薬品を嗅がせて相手を気絶させるという方法ですが、調べたところあのやり方で人が気絶することはないそうです。そこはフィクションということで…!

注意書きにも書きました通り、二人の関係性が薄い頃は内容も暗め、かつ三途の対応も塩・塩・塩!という感じです。夢小説としては非常につまらないと思われますが、そこから徐々に発展していく方向性です。
この長編は管理人はハッピーエンドのつもりで書きますが、捉え方によっては「これありなの?」とか、そもそも「こんなのあり得ない」と思われる可能性があります。ストックホルム症候群を連想される方もいらっしゃるかもしれません。そのあたりは恋愛前提(依存含む)の夢小説ということで、大目に見ていただけると有難い…です。
ここまで読んでくださった方にもお気に召す作品になるかわかりませんが、最後まで書き切れればと思います。
2023/06/03