※R18です






 「抵抗しねぇのか」
 「……」
 「前は泣いて抵抗したんだろ?」

 暗闇の中、女を見下ろす。暗がりに慣れてきた目は正確にとは言い切れないものの、女の表情を捕えていた。

ホワイトアウト 18


 1日中家で過ごし、就寝準備をしたのは日付が変わってからのことだった。これと言ってすることもなく、暇を持て余しベッドに入ると、人質も空気を読んでソファの上で毛布を被る。話しかけることもないままに間接照明を消して、布団に潜り込んだ。

 「……くしゅんっ!」

 目を閉じて少し経った頃に聞こえてきたのは、人質のくしゃみだった。鼻を啜る音も同時に耳に届く。よく考えればオレの寝具は気温や季節の変化に合わせているのに、アイツのは拉致してきたときと同じ秋のままだった。人質でしかないのだからそれでも十分だと言われればそれまでだが、体調を崩されるのは困る。
 明日にでも追加の布団を用意するか考えていたところで、立て続けに女がくしゃみを連発した。コイツが風邪を引くかどうかよりも、止まらないくしゃみが純粋にオレの睡眠を妨害しようとしている。エアコンをつけて部屋を暖めるか迷いつつ、睡眠時に温風が顔に当たるのが不快で、できれば避けたかった。

 考えた末に、人質にベッドを使わせることにした。今日も風呂には入っているし、衛生面では問題ない。ただ一番問題なのは……。
 特別狭くなったわけでもなければ、寝心地が変わったわけでもない。体温を感じるような距離にもいない。それなのに何処か落ち着かないのは、女のことを意識していると言わざるを得ないだろう。

 「……もう寝たか」
 「……いえ」

 女はベッドに入ってから身動き一つしなかった。それでもまだ起きているような気がして声を掛ける。短く返ってきた返事を聞いて、胸がざわついた。
 コイツが起きているから何だ。オレはどうしたいんだ。オレから話しかけたのだから何か返すべきか迷いながら女の方を見ると、布団から肩が覗いていた。先程までくしゃみを連発していたのは何処のどいつだと思いながら、布団を肩まで引き上げようとする。ただそれだけのつもりだったのに、無意識に手が伸びたのは布団ではなく彼女の肩だった。

 「私、やっぱり……!」

 肩に触れたのとほぼ同時くらいに人質が起き上がろうとする。経験の差とでも言うべきか、オレは女が動いたその瞬間に肩をベッドに押し付け、コイツに馬乗りになっていた。

 そこから先はあまり深く考えることもなく、人質の身に着けているジャージのジッパーに手が伸びていた。流石に女が身体を強張らせたのを感じて少しだけ安堵しつつも、ゆっくりと確実に、女の肌を露出させていく。ある程度のところで手を止めて指で肌を直接なぞれば、先程よりも露骨に反応を返してきた。にも関わらず、相変わらず拒絶の言葉だけがない。

 「抵抗しねぇのか」
 「……」
 「前は泣いて抵抗したんだろ?」

 ここでようやくオレから言葉をかけると、女は目を泳がせた。九井の部下との間にあったことを思い出しているのだろうか。どうしてオレがそのことを知っているのか、疑問に思っているのかもしれない。

 「前は怖かったし、それに嫌だったので……」
 「じゃあオレなら怖くねぇし嫌でもねぇんだな?」
 「はい」

 意地の悪い問いに、女は何の迷いもなく即答した。あまりにもあっさりとしているので、今から起ころうとしていることを勘違いしているのではないかと思うくらいだ。

 「三途さんだったら怖くないし、嫌じゃないです」
 「……正気か?抵抗しねぇなら続けるぞ?」
 「……私のこと、抱いてくれるんですか?」

 「嫌ではない」と「して欲しい」ではニュアンスが違ってくる。女の口から出た言葉に驚くと同時に、懇願するような表情で見つめられて様々な部分が疼いた。
 元々あった性欲をコイツで処理したいのではなく、どこにもなかった性欲が、コイツによって掻きたてられる。頼まれたからではなく、ごく普通に、当たり前のことのように、この女のことを抱きたいと思っていた。

 女との会話はそれが最後になった。何も言い返さないままに口付け、唇を下へと移動させていく。同時にジッパーを全て下ろして、露わになった胸元に何度も吸い付いた。
 時折控えめに女が声をあげるのを聞きながら、身体を愛撫し、頃合いを見て挿入する。互いにこれといって場を盛り上げるような言葉も、相手を煽るような言葉も発さない。形になっているのは女の口から漏れるオレの名前くらいなものだ。地味で派手さの欠片もない一見つまらないセックスだが、今はそれ以上を求めたいとは思わなかった。
 それでも快楽の波は絶え間なく押し寄せ、おかしなことに普段の行為と同じか、それに勝るくらいの充実感があった。興奮とは違う、安心感や幸福感のようなものが足りない材料を補っている。身体的にと言うよりも精神的に満たされるのを感じながら、限界を迎えたオレは女の腹の上に欲を吐き出した。

 ティッシュで精液を拭っていると、胸の上に重ねられた女の手からワイヤーが伸びているのが目についた。考えること数秒、オレは鍵を準備して女の手首を掴む。拘束具を外してから床の上に放り投げるのを、女は心配そうに見つめていた。
 女を逃がしたいわけでも、逃がそうと思ったわけでもない。こんなことをしたからと言って、オレとコイツの関係は変わらないが、今のオレに出来ることはこれくらいしかなかった。

 「あの……」
 「もうあれは必要ねぇだろ」

 狼狽えていた女は言葉を続けることなく、小さく頷いてからリビングから出て行った。恐らく風呂場に向かったのだろう。

 脱ぎ散らかされた衣類と乱れた寝具を見て、小さく溜め息がこぼれた。とうとう一線を越えた。性欲処理として人質を犯すのならともかく、一人の女としてを抱きたくて抱いた。身体の関係と言うよりも精神的な面で、この事実が重くのしかかる。
 ただの人質だった女にどうしてこんな感情を抱いてしまったのか、考えてももう後戻りはできないだろう。なるようにしかならないと諦めつつ、オレもシャワーを浴びるべく風呂場へと向かった。

 「あっ……」
 「……」

 洗面所の扉を開けると、丁度シャワーを終えたが風呂場の扉を開けたところだった。気まずそうに声を漏らした彼女の首からへその辺りにかけて、無数の痕が付いているのを目の当たりにする。明るい部屋で確認すると、自分で付けておきながら目を背けたくなるような数だった。

 「風呂ん中入れ」
 「でももう私……」

 自分はもうシャワーを終えたのにと困惑するを、無理矢理風呂場に押し込んだ。一緒に風呂場の中に入って扉を閉めると、手を胸の前で組んだ彼女が何事かと突っ立っている。距離を詰めて噛みつくようにキスしながら、壁際に彼女を追い詰めた。

 「あ、あの」
 「まだ足りねぇ」

 精神的に充実感を得てしまった所為なのか、一度出してリセットされてしまったからなのか、再び性欲が顔を覗かせる。しかも今度は前回よりも少し形が歪だ。先程の行為が繋がることを重視していたとするのなら、今回のはそれとは少し違っていた。抗う気もないオレは、そのままの形でにぶつける。

 「……んっ!」
 「しっかり立ってねぇとすっ転ぶぞ」
 「ふぁい……!っ、……」

 腕を掴んで前を隠せなくした状態で、今度は啄むようなキスを繰り返しながら胸を揉む。わざとらしく音を立てれば、の顔色がゆっくりと染まって、息も上がっていった。シャワーの湯気で若干霞んでいるとは言え、リビングと違って表情も反応も全てが手に取る様にわかる。弱々しい返事をした彼女はおぼつかない足腰で、必死にオレに応えようとしているように見えた。

 キスは続けたまま、徐々に手だけを下に滑らせていくと、が下を向こうとする。腕を掴んでいた方の手で顎を持ち上げたときに、彼女と視線が重なった。こんなにも至近距離で見つめ合ったのはこれが初めてだろう。数秒間見つめ合った後、どちらからともなく口付けを再開した。これを合図に、腰の位置で停滞していたもう片方の手が焦らす動きでは満足できず、更に滑り下りて中指の腹で割れ目に触れる。彼女の身体が大きく反応したのと同時に、粘度のある液体の上を指が這い回る音が耳に届いた。

 「オマエ、シャワーしたんだよな?」
 「しましたっ……ぁッ……!」
 「シャワーしてこれか?」

 指で入口を滑らせるように往復させるだけで、が腰をくねらせる。指が欲しくて堪らないのだと思うとまた焦らしたくなって、浅い部分で何度も出し入れした。それだけで足を震わせている彼女を見かねて、今度は指を沈める。

 「んんッ!……はぁ……」
 「コレが欲しかったんだろ?」

 は求めていた刺激を与えられて安堵したようだった。長く息を漏らした後はぼんやりとこちらを見つめながら浅い息を繰り返している。短い休憩を終えて挿入した指の抜き差しを開始すれば、それに合わせてまた声が上がった。指を増やしてナカを掻き混ぜていると彼女が達しそうになっているのがわかって、そろそろというタイミングであえて指を引き抜く。ショックを受けたような、縋るような瞳でオレを見つめるのを無視して、身体を反転させて壁に手をつかせた。

 「あーあ……だらしねぇなぁ。綺麗にしねーとな」
 「ん、っ……!」

 内太腿に伝う愛液を舌で掬って舐めるだけでまた大きく身体が震えた。ほとんど壁に張りついた状態になっているところから、尻を突き出すようにさせて再び割れ目をなぞる。羞恥心や刺激の強さの所為もあってか、リビングでしたときとは比べ物にならないくらい愛液が溢れてきた。
 今すぐにでもしゃぶりつきたかったが、オレの方にそこまで焦らす程の余裕がもうなかった。思わず鼻で笑いそうになりながら、もう限界まで反り立ったモノを膣の入り口にあてがって、先端を擦りつけるように動かす。

 「あー……ヤベェ」
 「っあ……ふぅん……ッ!」
 「ッ……おい、まだ挿れただけだろーが」

 先端だけ入れて焦らして愉しんでいたのに、気持ちよさに負けて少し腰を押し進めただけで簡単に根本まで呑みこまれてしまった。直後にのナカが収縮を繰り返し、思わずこちらの動きが止まる。寸止めしていたとは言え挿入するだけで彼女が達するとは予想外で、その刺激に耐えるのに必死だった。

 まだ知らないコイツの一面を覗き見てみたい。普段他人に見せないような部分や思考まで、余すことなく知り尽くしたい。つい数時間前には想像もしなかった、乱れてぐちゃぐちゃになっている姿はその一部だ。それを知ることで満たされているオレは、支配欲を通してでしか人のことを愛せないのかもしれない。

 「ンっ!あッ……だめっ!」
 「はっ……思ってたより100倍エロいな」
 「そんなこと、言わないでッ!……ひぁっ……!」

 壁に縋りつきながら爪先立ちでオレを受け入れる姿に興奮しないわけもなく、思わず声が漏れた。時々足が浮きそうになるのを耐えながら、必死になっているのが顔を見なくてもわかる。これで目の前に鏡があれば言うことなしだった。
 は認めたくないと言わんばかりに首を左右に振って否定しているものの、相変わらず下の口はぎちぎちにオレを締め付けて放そうとはしない。乳首を摘まんだり下の突起を刺激するのならまだしも、先程から腰を掴むだけでもナカが締まる。もっともっとと煽る様に背中に舌を這わせ、時折吸い付いて痕をつけていった。

 「こっち向け」
 「ンっ……っ……」
 「舌出せ」
 「んぅ……」

 少々無理のある体勢ではあるものの、互いに限界が近い中、繋がったまま舌を絡ませる。の嬌声、唾液が混ざり合う音、身体が触れ合う音、抜き差しする際の卑猥な水音も、風呂場にいる所為か反響して、全てが大きく聞こえた。容赦なく腰を打ち続けていると、再び彼女の膣がうねり始める。

 「……っ、そろそろ限界だろ?先にイけよ」
 「でもっ、あ、ンっ……ぁ、さんずさっ……!」
 「ッ、あー……っ……」

 そのまま中に出すか迷ったものの、出す直前に抜いての尻に射精した。白い肌が体液で汚れるのを見届けながら、それでも罪悪感はない。ずるずると床にへたり込んだ彼女は、壁の方を向いたまま肩で息を繰り返していた。
 このままにしておくわけにもいかないので、シャワーでの身体を流しつつ、手でボディソープを泡立てる。全身を洗うために手を滑らせると、くすぐったさを感じるような場所でもないのに、時々彼女の身体がびくりと飛び上がった。

 「何感じてんだテメェ。まだ足りねーのか?」
 「……もうできないです」

 やっと振り向いたは困ったように眉を寄せて、オレを見上げている。疲労なのか恐れなのか若干潤んだ瞳で見つめられて、また身体が疼くのを感じた。




























遅くなりましたがやっと名前変換機能が通常運転します。
2023/07/24