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■ 実装職人名鑑17: 敷金さん

 

実装職人インタビュー第17回。
今回のお相手は石世界と人世界を股にかけ、多くの作品を生み出してきた敷金さんです。
読み応えのある長編スクと、キュートな美少女や実装石を描く二本の刀の持ち主。
作品内で実装石たちは悲哀あり、笑いありの様々なバリエーションで虐待されます。
(紹介文:雲間さん)

 

 

敷金さんに、色々お尋ねしてみました……!

自己紹介をお願いします。
 
敷金と申します。
石と人両方で絵やスクを書いてますが、自分では絵師でなく、スク師のつもりです。
実装ジャンルへは、だいたい二ヶ月ほどギャラリーで参加していて、その後白保にスクを投下し始めました。
スクは保管庫、絵はスレに投下という感じで分けています。
 
ここ二年間ほど私生活上で色々トラブルがあり、その影響でスク製作が遅延してしまいましたが、なんとかペースを取り戻したいと思ってます。

その他、ここをはじめ、実装関連のサイトもいくつか運営しています。
 
名前の由来はなんですか?
 
よく誤解されがちですが、「敷金」という名前は、スレ住人さんに付けてもらったものではなく、自分で名乗ったものです。
当時書いていた「敷金礼金無料」に絡めてますが、「敷金礼金無料作者」では長すぎるので短縮した結果です。
それ以前は、「無知」と呼ばれていました。
これは、私が当時、職人のズキン氏を殆ど知らなかったため「絵がズキン氏に似てる」という感想の意味を理解出来なかったことに起因します。
今思うと、とっても失礼なことをしたなと、深く反省する次第ですね。
 
本来の活動ジャンルは何ですか?
 
一番長くやってきた「完全創作系」ということになりますかね。
同人暦がかなり長かったので、現代ドラマから時代劇、本格SFやアクション物、ファンタジー、メカ物、(古い表現ですが)面妖系から、果てはやおいも経験と、色々なジャンルを渡り歩いてきました。
逆に、二次創作は依頼があったら原稿を描く程度で、そんなに多くは経験してないと思います。
何の二次創作かは、三十代後半の方でギリギリな時代のものなので、ご容赦!
現在は、非実装系の評論(レビュー)サイトを運営して、そこでゲームレビューやら玩具のレビューページを作成して悦に入ってます。
その影響で、写真撮影なんかにも興味が強まっていますね。
 
何がきっかけで、実装ジャンルに入り込みましたか?
 
元々、ふたばちゃんねるの模型裏に長年入り浸っていたんですが(新商品レビュースレとか立ててました)、ある時、普段行かない板も覗いてみようと思い立ち、スピグラ板に行ったんですよ。
実装石自体はそれ以前から見かけてまして、ただ単に悪趣味なグロキャラだとしか思ってなかった(現在のmay住人と同じ感覚?)のですが、そこで、何故か貼られていた腑ロンティアさんの「トイレに流される仔実装ミミ」の絵スクを見つけまして、その内容のショッキングさに衝撃を受けました。
実はいまだに「何故飼い主はいきなりトイレに流したのか?」「何故助け上げたのか?」という行動の理由が理解出来ていないのですが、そういう不可解なキャラの心境に大きな魅力を感じたわけです。
とにかく、これで一気に評価が変わったんです。

ギャラリーとしてはこの通りですが、職人として参加するきっかけになったのは、実装石なんでも。に、にんぎょうさんが投下された絵スク「死んだペット実装が夢の中で会いに来る話」と、白保の「夢をみていた」に触れたことです。
今まで単に悪趣味な生物虐待ジャンルとしか思わなかった実装石は、実はこんな側面の作品も作れる土壌だったのかと気づき、感銘を受け、いてもたってもいられなくなって作品を仕上げてしまいました。
 
後述しますが、実装人へは人スレ上でスカウトを受けて参入しました。
 
これまで、どのような作品を作りましたか?
 
実装石では、観察、悲哀、虐待、カオス、人化、食、他実装と、ポピュラーな小ジャンルはだいたい書きました。
実装人では、逆にそういったものは一切書かず、ストーリー物を中心に書いてます。
一作だけ、非常に人を選ぶガチエロ作品を書きましたが。
実装系同人誌では、主に実装人世界に関連する漫画やイラストを描いて来ました。
 
作品の傾向は、どのようなものでしょうか?
 
一言でいうと、“人間も実装石も(実装人も)すべて対等の立ち位置”として描いています。
これは作中の人間が実装石と同じ強さや立場にあるという意味じゃなくて、たとえ何であろうと作中のコマとして平等に扱っているということです。
よく「敷金は人間が不幸になる作品ばかり」といわれますが、実装石に関わったから(実装と共に)不幸になっただけで、別に人間だけ不幸にしてるわけじゃありません。

まぁそれでも、実装側に若干不幸要素を盛り足している事は否めませんが……
 
他には、キャラありきよりも、世界観ありきで物語を描いているということでしょうか。
この場合の世界観は、本来の正しい意味です。
登場人物の視点で、世界がどのような状況であり、その中でどんな価値観を見出して活動していこうとするか、そういう面を描きたいと考えています。
 
代表作と、自作品でお気に入りのものを教えてください。
 
代表作は、名前の起源にもなった「敷金礼金無料」です。
今読み返すと色々アイヤーな部分が多いので、続編やリメイクも考えたのですが、あの規模のプロットや仕掛けの発想、構成を練りこむのはもう不可能だと痛感し挫折しました。
 
お気に入り作品は、ちょっと悩むんですが「逢いに行ってもいいですか?」ですかね。
完成度的には不満も多いのですが、連載当時、白保文字板やmayスレで色々と考察をして頂けたので、良い印象が残っています。
 
他の職人さんの作品で、お気に入りの作品があれば語ってください。
 
「夢をみていた」
悲哀ジャンルというものを、骨身に染みるほど実感させてくれた傑作だと思ってます。
ラストの主人公の夢の描写が、とてもせつな過ぎて胸を締め付けます。
今でもラストシーンを思い出すとウルッと来ます。
 
「月の光と人魚姫」
人化実装というカテゴリに初めて触れた作品で、様々なことをお手本にさせて頂きました。
実装石が人間を真剣に愛し、人が(思惑はどうあれ)それに向き合った結末のせつなさがたまりません。
 
「親指実装の楽園」
シチュエーションの設定に、深く感心させられた作品でした。
親指実装という存在に対して、新しい価値観を得ることが出来ました。
一時期何度も読み返してたことがあります。
 
「行方」
白保に投下された、割と新しめのスク作品です。
実装観察を実況レポート風にまとめつつ、それだけでは終わらせない構成の凄さに、深い感銘を受けました。
特に、良い意味で予想を裏切る結末には、脱帽です。
こんな風に、「そう来たか!」と思わず膝を叩いてもらえるような作品が書けるようになりたいです。
 
実装ジャンルに足を突っ込んで何が一番変わりましたか?
 
一番実感したのは、絵スク(小説)全てにおいて、完成度の追求度合いが変化したことでしょうか。
これまでは、いつ反応が来るか全く分からないジャンルで細々とやっていたので、他人の意見を基に自作を見直すという事が全く出来ず、頭打ちになっていました。
ですが、反応が早く、しかも歯に絹着せない辛辣な意見も多く寄せられる実装ジャンルに来てからは、おのれの未熟さを改めて痛感させられました。
それがバネになったおかげで、もっと完成度を高める工夫を盛り込もうと思えるようになったのが、一番の変化ですね。
 
ただ、そこに至るまでには相当ヘコむこともあったので、全てが良い思い出というわけではありません。
とてもタメにはなったけど、それなりにつらい経験はさせてもらったということですね。
 
このジャンルを始められて、一番嬉しいことはなんですか?
 
作品に反応が得られること、オン・オフ含めて非常に多くの職人さんと知り合えたことなど、嬉しかったことは沢山あるのですが、一番というと「実装人ジャンルにスカウトしてもらったこと」に尽きますね。
 
当時は、まだ二次裏での立ち回り方やレスポンスの仕方など全く知らなかったので、今思い出しても身悶えするような恥ずかしいことを色々しでかしたのですが、そのせいでえらく叩かれていました。
正直筆を折ろうかというところまで落ち込んだのですが、そんな時に、人スレ住人さん達が自分に誘いをかけてくださいました。
それがきっかけになってモチベーションが回復、実装人作品も作ることになり、ひいては絵描きとしても本気で取り組めるような姿勢が構築出来たので、当時の住人さん達には本当に感謝しています。
 
逆にいうと、この時の恩があるからこそ、自身の中では実装人と実装人ジャンルの衰退やら各種問題勃発に対して、なんとかしたいという気持ちが働きます。
ただ作品をアップするだけでなく、それ以外のことで裏方に回り、出来ることをやって少しでも支える役に立ちたいという考えは、今も変わっていません。
 
途中色々なことがありましましたが、本当に実装人ジャンルが好きで今もスレに参加されている人達に対して、これからも私に出来る限りのことをして行きたいですね。
 
逆に、一番嫌なことはなんですか?
 
これを書いている現状がまさにそれなんですが、作品投下をしづらい雰囲気がスレで形成されつつある状況が、たまらなく嫌ですね。
特に、最近のスレ管理競争や、スレの話題を異常に限定しようとする動きには理解が及びません。
これでは、スレを見た職人または職人希望者さん達のモチベーションが下がる一方ではないでしょうか、とすら思います。
 
パンツさんが語られていたように、このような流れが発生するということは、実装ジャンルに限らずどこでもありうるという事も理解はしています。
ですが、たとえ延命処置に過ぎないと分かっていても、まだ何か状況を打開する手段は残されているんじゃないかなとも考えています。
 
実装ジャンルは、石にしても人にしても、このまま消えるにはあまりに惜しい膨大なコンテンツが存在します。
それらを軽視せず、仮に消えるにしても、その歴史を何かの形として残し続けたいと、私は考えてしまいます。
 
どんな感想を貰うと嬉しいですか?
 
面白い、良かったという感想はもちろん凄く嬉しいのですが、具体的にどこがどう感じられたかを詳しく伝えて頂ける感想は、更に感激します。
他にも、自作品の内容分析や伏線推理、キャラクターの心情考察なんかを頂くと、身悶えしたくなるくらい嬉しくなります。
また、辛辣な感想も、どういう理由でここが駄目だといった内容であれば、真摯に受け止め、改善の材料にさせてもらってます。

要は、真剣な感想なら内容の方向性は問わず、全部ありがたく受け止めています、ということですね。
 
現在の実装ジャンルについて、何か思うことがあればお願いします。
 
先の「一番嫌なこと」にも絡みますが、今の実装スレは住人同士の叩き合い・潰し合いが中心になってしまったと感じます。
石・人、スレの種類問わず、一番大事なものを放り出して間違った方向に突き進んでるようで、何を求めているのか目的意識が見えません。
粘着行為や荒らし行為は確かに論外ですが、だからといって荒らしの存在を警戒しすぎて、些細なことでレス削除を行ったり、話題の幅を絞ったりの繰り返しでは、いつまで経っても状況の改善・回復はないでしょう。
 
ふたばのスレは、板を問わず、どんな人がどんな趣旨でいつ立てても構わないものだと私は思っています。
それくらいフリーダムな方が、盛り上がる筈です。
かつての実装スレがそうだったように。
 
実装職人さん同士のネットワークやコミュニケーションについてどう思われますか?
 
私自身、過去に何度かオフ会を主催させて頂きまして、東西問わず大変多くの職人さん達とお話をさせて頂きました。
恐らくですが、現時点では最も多くの職人さんに直接お会いしてお話をしていると思います(だいたい30人以上)。
集まった皆さんは、いずれも実装ジャンルや自作品にこだわりや哲学をお持ちで、非常に熱い(なんて言葉では伝えきれない程の)情熱を、今もお持ちです。
恐らくですが、その中に入られたら、あまりの熱いトークの連発に驚かれる方も多いだろうと思います。
 
オンラインでは伝わり切らない、そんな熱い気持ちや意欲に触れることは、自身のモチベーションを最大限に高めていくことに繋がります。
そんな意味で、職人間のコミュニケーションはとても大事なものだと私は考えます。
それは、たとえ実装ジャンルを引退されて、全く別なジャンルに移籍した後でも、きっとどこかで役立つことがある筈です。
 
なんて堅苦しい話はともかく、実装をより深く、楽しく語り合えるというだけでも、大きな魅力のあるいいものですね!
 
最後に、何か一言お願いします。
 
創作活動は、最初のうちはネタが湯水の如く溢れてきますが、やがて必ず枯渇に至ります。
そこに、感想がない・反応が得られないという状況が重なると、激しいモチベーション低下に繋がりますが、それはダイエットでたとえるなら体重が減らなくなってこう着状態に陥った時のようなもの。
それを乗り越えようとするところから、真の完成度追求が可能になって、やがて本当に望んでいた反応が得られるようになります。
 
作品を作りづらい・発表し難い状況が続いていますが、真面目に作品を作りたい人や、作品に触れたいと願う人は、まだまだ大勢いらっしゃいます。
一部の声が大きい人達の言葉に惑わされず、自分がやりたいと思うことを、どうか貫き続けてください。
創作というのは、元々そういう土壌なんです。
 
繰り返しになりますが、行き詰ったり、モチベが下がり出したところからが本当の創作活動だということを、どうか理解して欲しいと、私は強く願っています。
 

敷金さん、インタビューへのご協力本当にありがとうございました!