完全に、社会の陰謀に踊らされている。そんなことは百も千も承知だ。 それでも良い、とさえ思ってしまう、そんな自分のことがいっそ滑稽にも愛すべきものにも思えてくる。 これはもうほんと、本格的にヤバイかもしれない。 は甘い物なら和洋を問わず雑多に好きみたいだから、どんなものなら落ちるという 定説が無いだけ難しい。濃厚なキャラメルか、爽やかなベリーか、はたまた抹茶か。 ううんと唸りながらレシピ集をめくる俺を訝り、旦那が「どうかしたのか?」と近寄ってくる。 そして俺が見ているのがケーキのページだということに気付くと、輝いた瞳で「作るのか!」と言うのだった。 「旦那のためじゃないよ、にあげんの」 「ということは、噂の逆チョコだな」 「えっきもちわるっ!旦那が“逆チョコ”って言葉知ってるなんて!」 わざとらしく身震いして見せると、旦那はむっとした顔で「知らぬよりは知っていた方がいいだろう、何事も」と言う。 その言葉は正論だし、逆チョコという言葉だってこれだけメディアで騒がれていれば知らないまま過ごすのも ムリだろう。だけども妙に薄ら寒い気分になるのだから、仕方ない。(だって旦那、あげるより貰う派だろ?) 「もぉさー、アレもコレもあげたくてしょーがないんだよね、俺様。って何味が好きだと思う?さっぱり系?しっとり系?」 「俺は甘い物は何でも好きだぞ!」 「あんたにゃ聞いてねぇよ」 次のページをめくる。視界に映る、色とりどりの丸っこいそれに思わず目を惹かれた。 マカロン、そうだ、これなら色んな味を少しずつたくさん渡せる。 ピンクならイチゴ、茶色はチョコレート、赤ならフランボワーズ、グリーンなら抹茶、 黄色ならレモン、白ならバニラ?まあよく分かんないけど。 これに決めた!と宣言して、本を閉じる。「まあ頑張れよ」と上から目線の応援を寄越してくる旦那には、 抹茶味と見せかけた青汁味でもくれてやろうかと思う。 さて2月14日になり、綺麗にラッピングしたマカロンのセットを献上すると、はとても嬉しそうに「佐助ありがとう大好き!私は何も準備してないけど!」と言って笑った。 (そうだと思ったよ、はぁ…) 「わぁーキレイ、どれから食べよう、ピンクかな」 「ピンクにはねぇ、俺様のオトメ心が詰まってるよ」 「……あ、そう…やっぱチョコにしようかな…」 「チョコは俺様のこう、ドロッとした感情が詰まってる」 「マカロンに呪い込めないでよ!ホワイトデーはちゃんと準備するから!」 呪いじゃなくて、全部への想いなんだけどな。 そう言ってやると、は一番赤いフランボワーズのマカロンを齧り、「甘い」と言うのだった。
Cherish me! (じっくり味わってよ、とっておきの恋心) |