「ねえ、美味しい？」


美味しいわけがないだろう、と元親は思った。
それでもが満面の笑みで自分を見ているので、彼は「ああ」と答えを濁すことにした。

カレンダーは２月１４日、バレンタインデーである。
まさかが自分に贈り物をしてくれるとは思っていなかった元親は、「はいあげる」と差し出された包みを 感涙せんばかりの勢いで受け取った。
そこまでは良かったのだ。遠目に見ても、よくある恋人同士の甘いひとときに見えたことだろう。

シンプルな包装を解いたとき、元親の目に映ったのは彼の小指の先ほどの大きさのチョコレートだった。 いやに小粒だな、と思いながらそれを摘み上げ、口に入れる。すると、軽く噛んだ瞬間、明らかにチョコレート ではない感触がした。


「チョコフォンデュグミ・スペシャル」


ニコリと笑ったが言ったのは、どうやらこのチョコレートもどきの名前であるらしい。 後半の「スペシャル」は流すとして、前半の「チョコフォンデュグミ」というのが 元親の口にしたものの名前であるはずだ。
少し力を入れて噛むと、ぐにゃりとした食感。しかし歯には溶け始めたチョコレートが 纏わりついて、口内の水分を奪っていく。

なぜグミを。
なぜグミをチョコレートでコーティングしなければならなかったのだ。


「ねえ知ってる？グミってね、ドイツ語でゴムって意味なんだよ」
「へぇ、知らなかったぜ」
「それでね、グミって乳首と同じ固さ感触なんだってね」


飲み込みかけたグミが元親の食道を胃の方面に向かって暴走する。
うぇっほげっほと咽ながらを睨み上げると、はなんとも晴れやかな表情で微笑みながら、チョコレートに包まれたグミを 一粒口に運ぶのだった。


「元親のソレをイメージして作ったのよ」
「俺のかよ！」