「おい、いいもんやろうか」


出会い頭から高圧的に、政宗は片手を突き出してきた。 怪訝な顔をしながらが手を差し伸べると、政宗はそこへピンク色をした三角錐の菓子を何個かザカザカと振り落とす。


「ちょ、ちょっと!なにこれ!」
「Apollo」
「うんいやアポロ以外の何物にも見えないけどさ。なんなのいきなり」
「何ってお前、逆チョコ」


政宗はしれっと言い、は思わず「はぁ?」と間抜けな声を上げた。


「逆チョコって…バレンタインは先月だよ?」
「ンなこた知ってる。けどな、2月14日に逆チョコなんざ 『俺はチョコを貰える自信がねぇぞ』って自己申告してるようなもんだろうが」


その点今日なら、男が菓子を渡していても例年通りの光景に見えるじゃないか。
と、政宗の主張はそういうことであるらしい。しかしこれでは本来の逆チョコの 意味からは外れている気がする。は「そういうもんかなぁ…?」と首を傾げた。

そもそもはバレンタインに便乗することに興味が無かったし、 政宗も口に出して「チョコを寄越せ」と要求してこなかった。 てっきり彼も、興味も無ければ欲しくも無いのだとばかり思っていたが、 まさか1ヶ月後に逆チョコを渡してくるとは。


「……そっか…意外と、オトメだったのね、まーくん…」
「Shut up!最初っからテメェが寄越してたら話は早かったんじゃねぇか!」
「いたたたた!痛い痛いごめんなさい!」


政宗がの頬を抓り上げたので、は悲鳴を上げつつ謝った。
幸いにも頬はすぐに解放されたので良かったが、政宗の握力は人智を超えているとの専らの噂なので、 下手をすれば明日はおたふく風邪のようになってしまうかもしれない。

なんという暴力男。なのに心はオトメなのだ。
「可愛い奴め」という感想は心の奥に仕舞いつつ、はイチゴ味のチョコを口に放り込む。それを見届けた政宗は 「来月キッチリ返せよ、延滞分の利子付けて」と言うのだった。