「元就くん知ってる?今日はホワイトデーなんだよ」
「だから何だ」
「だからバレンタインのお返しちょうだいよ」


もう三月の半ばだというのに、元就は自宅のこたつにもぐり込んで動こうとしなかった。は一生懸命にモヤシのような細い身体をこたつから引っ張り出そうとするのだが、 モヤシのくせに元就は意外とびくともしない。おまけに、バレンタインのお返しという 正当な権利を主張するを鼻で哂う始末だった。


「なぜ誕生日に物を呉れてやらねばならん」
「そりゃ、そうだけど…!」


元就はが自分に誕生日プレゼントを用意しているだろうというのを確信していたので、 分かっているなら寄越せ、と言わんばかりに手を突き出した。逆らえないと悟ったは、用意していた“プレゼント”を泣く泣く元就の手に乗せた。


「……何ぞ、これは…」
「お誕生日会の招待券…」
「貴様は馬鹿か」


元就はの額にその細長い紙切れを叩き返した。そこには下手くそな字で 『元就くんバースデー会』と書かれていて、明らかにがその辺の紙を千切って作ったようなものだった。


「元就くん来てくれるよね?」
「まずは習字から出直せ」
「ひどい!わたし頑張ったのに!みんな呼んで、準備もしちゃったのに!元就くんお願い、来て!元就さま!」


彼は盛大に溜息を吐いて、自分の背中にすがるを横目で見た。


「……皆、とは具体的に誰だ」
「あのね、元親くんと竹中くんと明智」
「行かぬ」


なんでぇー!とは大いに抗議するが、よく考えなくても人選ミスだというのは分かりそうなものだった。 なぜ元就のあまり好いていない人物ばかり集めたのか。そう尋ねてみれば、は「ホワイトデーだから…」とよく分からない答えを返して来る。


「だってみんな髪が、」
「髪が白いからホワイトデーだという冗談ならば殴るぞ」
「………」


答えに詰まった、ということは“髪が白いから”という理由で正解のようだ。
しょんぼりと肩を落とすに構わず、元就は立ち上がってキッチンへ向かい、オーブントースターの蓋を開けた。 餅を放り込んで、焼き時間をセットする。
そこでようやく、が何かを訴えるような目で自分を見ていることに気付くと、元就は手元の 餅の袋を見下ろした。「食い意地の張った奴だな」と嫌味たっぷりに言ってから 新たに餅をオーブントースターに突っ込めば、はひどく驚いた顔で「わたしも食べていいの?」と尋ねる。


「今回限りだ」
「うん…!……あ、でも元親くんたちどうしよう…」
「放っておけ」


元就は再びこたつにもぐり込み、焼き上がったらに取りに行かせよう、と密かに考えるのだった。


「そうだ元就くん!ホワイトデーだし、白味噌で…」
「帰れ」