「そのざまで問題無いたぁよく言うぜ。
 いいからあんたは大人しく運ばれててくれよ、旦那」



佐助がそう言って、幸村の肩を揺さぶった。その振動ではっと顔を上げた幸村は、重そうな動作で頭を振る。 少し重心がぶれたくらいで倒れそうになったのを佐助は見逃しはしなかった。 彼はもう一度下がるようにと進言したが、頑固な主はやはり聞き入れない。「何も問題は無い」の一点張りなのだ。

何を隠そう、幸村は先の戦で負傷していた。傷は深く出血量も多く、未だ万全と呼べる状態ではないのだが、 それでも余程の無茶をしない限りは快方に向かうだけというところまで持ち直してもいた。 それをこの男は、馬に揺られても障り無いと本気で思っているのだから手に負えない。
くしゃみをすれば包帯に血が滲むような有様で、障りが無い訳がない。城門をくぐり終えるのを待つ前に落馬して立てなくなるに決まっている。 ど根性で解決するものにだって限度があるだろう、と佐助は思うのだが幸村も譲らない。

城下町まではもう幾ばくも無い。ほんの一刻二刻だけだからと、幸村は全員の反対を押し切って先頭に立った。 一応、城の方にも幸村が負傷した事実は伝えてあるが、ここまでふらついているということまでは伏せている。 それもまた、に過度な心配をかけさせるなという幸村の頑固な主張の所為だった。

幸村の乗る馬が城下の大手筋に今にもさしかかろうとしている。主は背筋を伸ばし、遠く聞こえる歓声に薄く笑んだ。 木立の中に身を隠しながら、佐助は諦観の溜息を吐かずにはいられなかった。あとでどうなっても知らないぞ、 という思いが、伝わっていれば良いのだが。











◎ ◎ ◎
◎ ◎ ◎












城下に遣いに出ていた下女が息を切らせながら戻ってきて、門の向こうを指差した。 「殿のお姿が見えたのです!」という彼女の明るい声が響き、たちまち周囲は騒然とする。もまたその内のひとりであった。
それほど深刻ではないと補足があったとはいえ忍隊から負傷したという報せが来た時にはどうなることかと肝を潰したが、 馬に乗っていたという話からすればそこまで深い傷ではなかったのかもしれないとようやく思えてきた。

一応、処置の準備は整えてある。それでなくとも血気盛んな面からしても、怪我人が幸村ひとりで済むはずがない。 傷薬や替えの包帯は余るほどに、水瓶には井戸水を溢れるほどに、滋養によい食べ物は山ほどにも確保した。 これだけあれば一個小隊くらいの人数は手当てできるかもしれない程だ。
救護場と化した鍛錬場をぐるりと見回し、足りないものが無いかどうか、は今一度確認した。不備はない、はずだ。凱旋の足音は近付きつつある。侍女が眉を顰めるのも無視して、は着物の裾を持ち上げながら急ぎ足で大手門へ向かった。







「幸村さま!」



が駆け込むと、幸村がちょうど馬から降りたところだった。
解散した兵たちが各自の荷物を持って引き上げていくその中央に、ひときわ目立つ朱色の備え。はもう一度「幸村さま」と呼びかけながら一層足を速めた。

幸村が帰ってきた。彼はいま自分の足で立っている。ただひとつ心配だった怪我の具合も経過は良さそうだ。はずっと張り詰めていた気が緩んでいくような気分である。
端に寄って道を空けてくれる者たちに軽く会釈をして、幸村までの残り十数歩を急いだ。



「お帰りなさいませ!本当に、本当に、よくぞご無事で…
 はほっと胸を撫で下ろすような心持ちにございます」

「……ああ。…」



見上げた幸村はどこか憔悴しきった様子だった。
ふわふわと浮かれていた気分が途端に吹き飛び、不安が首をもたげてくる。それでも努めて平静を装いながら、は幸村の腕に触れながらおずおずと口を開いた。



「幸村さま、もしやお怪我がまだ…」



しかし幸村は、の言葉が終らない内にその腕を引いて、抱きかかえるようにしてもたれてきたのだった。少し焦った声でが呼びかけるも、彼は答えない。ひたすらの肩に顔を埋めている。確かに今回の出陣は長引いたが、人目を気にせずひっついてくるのは彼にしては珍しいことだ。



「ゆ、幸村さま…先に鎧を外してしまわなければ。
 わたくしには重うございますゆえこれ以上は――っちょ、ほんとに重…」

「………」



は幸村の背をぺしぺし叩いた。
幸村が容赦なくもたれてくるせいでの膝は限界寸前である。

やがて、ちらちらと周囲の目がこちらを窺うのもあからさまになってきた。は幸村の耳元に口を寄せ、丁寧さも取り払って「幸村!」と呼ぶ。 ふざけているならいい加減にしろという意味だが、控え目な声量だったので当人たちか忍たちにしか聞こえはしなかっただろう。
その声に応えるようにと言うべきか、応えないようにと言うべきか、ともかくの声を合図にしたように幸村の身体からはいよいよもって力が抜けていき、とうとう支えきれなくなったはよろけた末に尻餅をついた。



「幸村さま!もうっ一体なにが、」



何がしたいのです、と投げかけられるはずだったの声は中途半端に立ち消えた。
潰されまいとして幸村の腹に添えた右手に、ぬるりと滑るような生温い感触がある。 そのまま手を動かせば、その感触の下にはざらついた包帯があることも分かった。幸村のつむじを視界に収めながら、は手を引き抜く。いやな予感がした。

顔も、体勢も、どこも動かさないまま瞳だけを横に動かし、自分の手を見る。
べたりと張り付き、指先に絡まるのは、鎧とはまた違う赤みを持った滴。



「幸、村、」



の耳に届く自分の声は震えていた。 泣き出す寸前の童のようで、けれども湿っぽさはなく、どこか乾いた声色のように思った。 成り行きを静観していた周囲の者たちも、の手に付いた血を見てようやく事態を理解し始めた。ざわりと、混乱が静かに伝播していく。



「ゆきむら…やだ、起きて!幸村!」

「大丈夫だから、姫さん。そんな揺さぶっちゃだめだって」



不意にの身体から、押し潰すように圧し掛かっていた重みが消えた。 同時に聞こえてきた声の方を向けば、戦装束のままの佐助が幸村を担いでいる。 小姓や女中たちが大声で飛ばしあう指示の声を背景に、佐助の声は驚くほど優しく静かで、諭すように聞こえた。



「佐助!どうしよう幸村、怪我っ!手、血がいっぱいついて、」

「うん、分かってる落ち着いて。そんなに心配しなくて大丈夫。
 この人が無理して馬なんか乗ったせいだから、後で思いっきり叱ってやってくんない?」

「馬?馬がなんなの、わたしどうしたら…!な、なに、何をすれば、」



意識のない人間をひとり担いでいるとは思わせないほど軽々とした動作で、佐助は母屋の方へと進んで行く。何も背負っていないはずのの方が足元のふらつきは大きいように見えた。


何ができるだろう、何をすればいいだろう?
今にも考えることを止めてしまいそうな頭で、は必死に考えた。

分担して運ぼうかと持ちかけるべく「さすけ!」と声を上げたが、まるで考えを読まれたように「俺様ひとりでじゅーぶん」と言われてしまった。 反論しようにも、女の力で男を運べるはずがないのは分かりきっていた。

ならばと思い、置き去りにされた槍を運ぼうとしたが、今度は兵に止められる。重いから、着物が汚れるから。そんな言葉を振り切っては柄を掴む。持ち上げようとするが、どうにも矛先が重くて地面から離れない。 はらはらしながら見守っていた者たちは“それ見たことか”とでも言うような雰囲気である。 終いに、見かねた老兵から「女衆を助けてやって下され」と言われ、は頷くしかなかった。


血の跡を辿れば、幸村の運ばれた部屋へ着く。
そっと開けた障子の先には既に幸村が寝かされていて、腹や腕に巻かれていた包帯も取り払われていた。 奉公歴の長い女中がきびきびした動作で傷口を濯いでいく。濡らした手拭いを渡され、も同じように血を吸わせ土埃を払おうとするのだが、力の入れ具合をどれほど加減すればいいのか分からない。 強すぎては傷に障るし、弱すぎてはいつまで経っても終わらない。それでなくともおろおろと落ち着かないは、水桶をひっくり返しそうになった。

より年若いような娘でも、手際の良さでは完全に上だった。忍隊が持ってきた薬は惜し気もなく使われ、が戸惑っている一瞬の間にも手当ては終わりに近付いていく。

自分だけ手透きなことに焦って厨に行ってはみたが、大量の炊き出しに追われる女中たちにとっては邪魔でしかなく。 幸村の手当てに回された女中たちの代わりにと思って救護場へ行くが、「御方様直々とは畏れ多い」と追い返され。

仕方なく廊下に落ちた血の跡を拭いていたら、先に自分の着物をなんとかするべきだと侍女に怒られた。 そう言われて目線を下げてみれば、倒れ込んだときについた血と泥のおかげで、まるでが怪我人のような格好だということに初めて気付いた。

自室に放り込まれて着物を替えたあと、洗濯を手伝おうかと申し出れば、血の汚れは慣れた者でないと手を焼くからと断られてしまった。 またここでも何も出来ないのだと辛抱堪らず、「じゃあ何ができるの!」と、誰に対してか分からない苛立ちを声に出した。

一拍置いたあと、侍女は静かに、労しげに、「どうか殿のお傍に」とだけ言った。



再び幸村の元へ戻ってみれば、もう仕事はすっかり片付いていた。
女中たちはそれぞれ本来の仕事に戻り、だけが幸村の傍に残った。「後はお願い致します」という言葉は一応あったけれども、幸村が大人しく眠っている限りするべきことは生まれない。

結局は何もできず、何の助力にもならなかった。のうのうと無為に日々を暮らすだけの『姫』になりたくなくて家を出たのに、 それなりに色々な体験をしてきたつもりだったのに、蓋を開けてみれば何も身についていなかったのだ。

不甲斐なくて、悔しくて、虚しくて、涙が出た。
けれども静かに眠る幸村の姿はの内面にあるものよりも痛々しくて、悲しくて、怖いような気分にさせた。血を見るのだって、負傷した姿を見るのだって、 何も今日が初めてというわけではないのに。



「姫さん」



足音を立てず背後へと降りてきた忍にも、泣き顔を隠そうとは思わなかった。佐助もそれは了解しているようで、の正面に回り込もうとせずそのまま話を続けた。



「血の気が足りなくなっただけみたいだから、そんな死にそうな顔しなさんな。
 旦那のことだ、どうせ腹が減ったら嫌でも起きるだろ。あーあ、米、足んなくなるかも」

「……ほんとう?」

「ほんとほんと。困ったねえ、いっちょ最北端でも行ってきますか」



は少し笑って、「そっちじゃなくて」と一応言っておいた。
佐助は僅かに肩を竦めただけで、特に言葉を返さない。

寝苦しそうな幸村は額に汗を浮かべている。は固く絞った手拭いを持ち、反対の手で袖を押さえながらその滴を吸わせていった。佐助はやはり何も言わないでしばらく柱にもたれていたが、 やがて部屋を出て行くように身を起こした。その動きを感じて、は振り返らずに「佐助」と呼びかける。



「どうして最初から、こんなにひどい怪我だったと教えてくれなかったの」

「……旦那の大馬鹿が、姫さんと民に心配かけたくないって言い張ったもんで。
 だから言ったろ、後で叱ってやれって。それともこのお人には大泣きのほうが堪えるかねえ」



言い終わるや否や、室内から佐助の気配が消えた。
は水桶に手拭いを戻して夜着の下に手を差し込む。少し持ち上げると幸村の手が見えた。 篭手でも防ぎきれなかった傷や潰れた肉刺を手当てしたせいで、その大きな手の大部分は包帯に隠れてしまっている。

この程度の怪我だと聞かされていたから、思わぬ事態に気が動転し、何もできなかった。
余計に気を回されるくらいなら、覚悟を決めろと最初から通達されていた方がまだ良かった。
そしたらもっと、冷静に立ち振る舞えたかもしれないのに。もっと役に立てたかもしれないのに。
幸村の容態の深刻さに、最初から気付けていたかもしれないのに。

悔しい。悲しい。怖い。
この静かな部屋が怖くて怖くて堪らない。


傷に障らないよう慎重な動作で、は自分の手を重ねた。
――起きて、目を開けて、こっちを見て。ちゃんと目を見て、 「いま戻った」と言って、笑って。そうしてくれなければこの不安が収まるはずもないし、の中での戦は終わらず、幸村は“帰ってきた”ことにならないのだ。


ぼろぼろと溢れ続けていた涙は止まる気配を見せない。ほとんど額を畳に擦りつけんばかりに背中を丸めて、は幸村の手に頬を寄せた。祈るように、縋るように。











◎ ◎ ◎
◎ ◎ ◎












馴染みの団子屋の好々爺がにこにこしていた。まだ幼い鍛冶屋の童は、持ってきてしまったのだろう鎚を片手に、大きく振って見せた。 そこで腹の傷に嫌な感触があったような気がしたが、認めるものかとそのまま馬上に座した。

大手門をくぐった。留守を任せた若い兵の明るい顔があった。の姿は無かった。傷が開いたことは明らかだったが、まだ大丈夫だろうと思った。せめて自室に戻るまでは耐えられる。 物言いたげな佐助の姿は見なかったことにして、帰還の旨を宣言する。

荷を解いていると、が小走りに駆け寄ってくるのが見えた。たちまち気が抜けそうになる己を叱咤し、きつく手を握り締めた。 頭が重い。足がふらつく。だがここで倒れては意味が無い。あと少しだ、あと少しだから、と、誰にともなく語りかけた。


「幸村さま、お帰りなさいませ!本当に、本当に、よくぞご無事で…」


の顔を見ると、声を聞くと、ああ戻って来たのだな、戦が終わったのだな、とようやく実感する。 いつも通りに「いま戻った」と伝えなければと口を開くが、全身が重く、うまく言えたか定かではない。は心配そうな顔でこちらを覗き込み、腕に触れてきた。

近寄った分だけ強く感じる香。いつもの白梅だ。
上目遣いに見上げてくる目の潤み、さくら色の頬、陽に透ける柔らかそうな髪。
それら全てが目の前にある。。長く待たせて済まなかった、ただ一日さえ思わない日は無かった。鈍重な身体をなんとか動かして抱きしめて、髪の中に鼻先を埋めることでの存在を実感する。落ち着く香りだった。やはり血が足りないなと思った。そこで記憶がぶつりと切れる。







暗転した世界に驚いたのだろうか、はっと幸村は目を醒ました。
泥の底から一気に引っ張り上げられるような意識の覚醒は、どことなく違和感さえある。ぱちぱちと幾度か瞬きをしてみれば、視界にあるのが見慣れた自室の天井だとすぐに分かった。
何処で何がどうなって自室に居るのだろう?と不思議に思いながら半身を起こす。腹の痛みに少し顔を顰めたが、すぐ真横でが寝転がっていることに驚き、痛みなどすぐに飛んでしまった。 座った姿勢で眠ってしまい、そのまま身体が倒れたような、なんとも関節の痛そうな寝相である。 起こしてやろうと思い至り右手を持ち上げようとして、その右手がに握られていることにようやく気付いた。







仕方なく、左手を伸ばしての肩を少し揺する。するとはすぐに跳ね起きて、ぼんやりした表情のまま幸村と視線を合わせた。
一拍。二拍。何も言わずに見つめあったあと、ようやくは幸村が起きたことを認識できたらしい。徐々に大きく見開かれる目。口はぽかんと開いていても空気の出入りはなさそうだ。

そんなに驚かせてしまったのかと幸村は驚き謝ろうとしたのだが、次の瞬間にはの眉尻がへにゃっと下がり、おまけにぼろぼろ泣き出すので、片手を半端に浮かせたままどうにも身動きがとれなくなってしまった。



「なっ…ど、どうした、何を泣く、」

「…なんっ、なんでって…幸村が、ゆきむらが!」



自分が何をした。と思ったが、深く考えずとも正解には辿りつけた。
記憶がはっきりしないあの後、おそらくそのまま気を失ったのではないかと予測がつく。自分の崩れ落ちていく様を目の前で見せつけられたはどれほど驚いただろう、その結果がこれだ。



「ほんとに、わたし、心配してっ…!
 だって手紙に、そんなこと書いてなかったのに、幸村が…!」

「其れは、その…相済まぬ」



幸村はもうそれしか言えなかった。がもっと怒り心頭の様子であれば殊勝に反省する態度で事が収まったかもしれないが、 こうも泣かれては信玄の拳がみぞおちにはまったときより大きな痛みすら感じて言葉が出ない。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、は握ったままだった幸村の手にすがって一層強く泣く。
幸村は行き場をなくしていた左手をの頭に乗せ、安心させるように何度か撫でた。



「ずっと付き添って居てくれたのか」

「だってそれしか、出来なかったの…幸村重いし、槍も重いし、手当てもできなかったし、
 厨でも役に立たなかったし、掃除してたら汚してたし…!なにも、何もできなかった…」



泣き顔に恥らうこともせず、泣き声を抑えようともせず、はまるで童のような泣き方をする。途中で幾度か苦しそう咽込むがそれでも涙の止まる気配は無い。
こんなに心配させて、挙句大泣きまでさせてしまうくらいなら最初から正直に伝えていれば良かった。幸村はそう後悔するが、今さら思ったところで過去には戻れない。 すまなかった、もう二度としない、と謝り続けるしかないのだ。


しばらくして、は幸村の手を離した。袖で顔を隠しながら立ち上がり、ふらふらした足取りで襖を開ける。鼻詰まりの声で「だれか呼んでくる」と言ったのが微かに聞こえた。
まだいいだろう、と返事をしようとした時には既には出て行ってしまっていた。せっかく二人きりだったのに勿体無い。そんな事を考えていると知られれば、今度こそ怒られるだろうか。



「にやけた顔しちゃってまあ、こっちがどんだけ大変だったか分かってんのかね、あんたは」



と入れ替わりに現れたのは佐助だった。恨めしそうな言様に返す言葉もなく、反省している、とだけ言う。 佐助はやれやれと呟いてから「でもこれで懲りただろ?」とにんまり笑った。その言葉の意味するところは恐らく、のことだろう。



「姫さんはあんな言い方してたけどさ、それほど大きい混乱も無くあんたを手当てできたのは
 やっぱり姫さんが頑張って色々準備しててくれたからだよ。飯も薬も、全部揃ってた。完璧だね。
 なのにまだ働こうとすんの、旦那の傍にひっついてても誰も文句なんか言わねえのにさ。
 まあ何が言いたいかっていうと、旦那にはそこだけ分かってて欲しいなっていう、俺様のお節介」

「……分かっておる、それくらい」



なら良いや、と短く言って、佐助は姿を消した。
が幸村と同じくらい上田を大切に思っていることも、下男下女も分け隔てなく見ていることも、他にもたくさん知っている。 立場に胡坐を掻かずよく働いてくれるお方だと城内でも城下でも評判が良く、留守も安心して任せられる。 だからこそ、より一層愛しくて堪らないのだ。


大人しく横になって耳を澄ますと、と恐らくは侍医のものであろう足音が徐々に近付いてくるのが聞こえた。はまだ泣き止んでいないのだろうか、目が腫れてしまうのではないかと、幸村は自分の身体よりそっちが気がかりで仕方ない。

こうして横になっていても戦から帰ってきたのだという実感がいまいち薄い。それはきっと、まだの笑った顔をしっかり見ていないせいだろう。問診を済ませて、また二人だけになったら、「ただいま」ともう一度言おうと幸村は思った。
泣き笑いでもいい、少しでも笑顔が見れたら、それだけで傷も治りそうな気がするくらいだ。
















何某さんへ!リクエストありがとうございました!
あれっ…姫の介抱のはずが介抱してないですねこれ…すみません…!