「あれ?、君もしかして髪を切った?」
今まさに自身の傍を通り過ぎたばかりの少女に向かって、ハリーは問いかけた。
はその声に振り返ると、ぱっと表情を明るくする。
その様子から、ハリーは自分の疑問が正しかったことを確信した。
実はあまり自信は無かったが、当たったなら結果オーライである。
「そう!そうなの!
いつもママの髪を切ってる美容師さんがやってくれたの。
でもあんまり長さは変わってないのに、よく気付いたね」
「うん、ロンだったら気付かなかったと思うよ」
確かにロンなら、がドレッドヘアーにでもしない限り髪型に注目することは無さそうだ。
リー・ジョーダンの髪型を自分の顔に当てはめてみて、妙に納得してしまったは小さく笑った。
いつか、一度くらいは挑戦してみてもいいかもしれない。
きっとは面白がってくれるだろう。
「ハリーは髪型変えないの?
ブロンドのハリーとか、見てみたいかも」
「ブロンドはちょっと…
でも、このクセ毛がどうにかなるなら試してみたいよ」
ハリーにとって“金髪”から連想されるのはプリベット通りの叔父一家である。
ダドリーとお揃いの自分がどうしても想像できず、苦笑いで首を振った。
けれど、もしもこの利かん坊の髪がさらさらのストレートヘアになるのは歓迎だ。
ハリーが自分の髪をいじりながらそう言うと、は興味深そうに顔を寄せた。
「ママのコテを借りてみるとかどう?
あとはストレートパーマか、…髪まっすぐの呪文…?」
「そんな呪文あるのかい?」
「んん…無いこともなさそうかな、って。
あ、じゃあシワ伸ばしの呪文!」
さも名案かのようには言うが、
シワ伸ばしの呪文が髪にも効くものなのか、ハリーには甚だ疑問である。
強くうねる黒い髪はもはや彼のトレードマークにも数えられるほどなのだ。
はハリーの髪に指を通らせ、軽く引っ張った。
ハリーは少し前に屈んでの好きなようにさせる。
「すごく傷んでるとかいうわけじゃなさそうなんだけど…
根元から伸ばさないとすぐに丸まっちゃうのね」
「さあ、よく分からないよ」
さほど強くない力といっても、髪を触られるのはくすぐったい。
ハリーは身を捩るようにして「くすぐったいよ」と訴えるが、には聞き流されてしまった。
そのうちは両手でハリーの髪をいじりだし、ほとんど鼻先をくっつけるようにしてつむじを覗いた。
指に加えて吐息までがくすぐりをかけてくるようで、ついにハリーはの手を捕まえた。
「君わざとやってるだろう?」
「ハリーのために真剣なわたしの態度を疑うなんて、ひどいわハリー!」
ぐすぐすと泣き真似をするだが、口元は笑っているのが丸見えである。
『バレてるぞ』という意味を込めて、ハリーはわざと厳しい口調で「」と言った。
は白々しい泣き真似を止め、舌先を覗かせた悪戯っぽい笑いを浮かべる。
「だって気になるんだもの。ねえ、やっぱりママかルーピン先生に頼んでみない?
試しにブロンドにしてみてください、って」
「ブロンドは嫌だって言ったじゃないか!」
はあくまでブロンドにこだわるらしい。
ハリーの反論も制止もさらりとかわしてドアまで辿り着くと、
「ママ!ルーピン先生!」と言いながら廊下へ飛び出して行った。
ハリーは苦笑いで一息吐いたあと、を追うべく部屋を出た。
♪
入れ違いにやって来たは、そこに極めて複雑な表情のシリウスを見つけた。
「誰か呼んだ?」と声を掛けても、彼は「ああ…」と上の空な返事しかしない。
「ハリーに罪は無いんだ、何も悪くない。
ただジェームズが俺の娘に手を出しているように見えるせいなんだ…」
「誰が誰の娘ですって?」
「俺にとっては実子だからいいんだ!
ああ…くそ、ジェームズ…!俺はどうしたら…」
「とりあえず水でも被って頭を冷やしたらどう?
手伝ってあげるわ。アグアメンティ」
キ ュ ー テ ィ ー ・ ブ ロ ン ド
(だからブロンドは嫌だって言ってるじゃないか!)
依子さんへ!リクエストありがとうございました!
ロケーションについては母娘家でもグリモールドのブラック家でもお好きなようにご想像ください。