幸村嫁連載の拾玖話最終場面「どうぞ」を読んでから弐拾話のリンクをクリックする間で 『きっと次話では天覇絶槍が本領発揮するに違いない』と期待してたのにガッカリした。 そんな貴女のための破廉恥場面短文集(笑)←タイトル * ぬるいよ!(しょせんエムサの書くもんだよ!) * あえて『黒幸に逃げない』縛りで挑戦したよ! (一)一回戦! 「どうぞ」と、蚊の鳴くような小さな声が聞こえたとき、幸村は無意識のうちに呼吸を止めてまで 身構えていた自分に気付いた。息を吐き出す。少しだけ、心臓の打つ早さが穏やかになったような気がしたのだが、 気のせいかもしれない。 は口元を結び、伏せがちの視線を彷徨わせていて、幸村の手の中で所在無さそうにしている手は 先程まで眠っていたのもあってかぽかぽかしている。自分の手の届くところにが居る。まるで幾月にも感じるほどの、嫌で嫌で仕方ないと痛感させるほどの、 それほどの空白を乗り越えた褒美を与えられたかのように、いま、すぐ目の前に。 そのことは幸村に、急かされるような焦れったいような高揚感を抱かせた。 ほっと息を吐いたその動作のまま、彼は自分の唇が手中にあるすべらかな白い手の甲に触れるまで 首をもたげた。一度震えて逃げようとしたそれをしっかり掴み、指の間や第二間接の皺まで丁寧に丁寧に 唇をなぞらせる。 手が終われば手首へ、の腕を掴むのと反対の手で袂を押し上げながら前腕へ、肘へ、上腕へ。 決して舐めまわしたりなどはせずに、ただただ啄むように離して口付けてを繰り返す。 はかあっと顔が火照っていくのが分かった。 顔だけでなく、全身がそうなっているのかもしれない。幸村が愉しそうに嬉しそうに自分の腕を食んでいくのを 硬直した姿勢で見つめることしか出来なくて、もうじき今とは比にならない段階へと進んでいくということも 想像できない。 けれど幸村は止まらず、それは確実にこの時間が続くことを物語る。 伏せた瞼を縁取るまつ毛。首筋から流れ落ちてきての腿をくすぐる、伸ばされた部分の髪。 がそれらを見つめていると、ふと幸村が顔を上げた。 なにかを言わなければならないような気がしては咄嗟に薄く口を開くが、その意志が音となる前に大きな手がの顔の横をしっかり固定し、合わさった唇が僅かな空気の零れるのさえ許さなかった。 押し返したとて、いまさらこの屈強な胸板が退くわけがないのは分かっている。は幸村の着物の衿を握り、勢いに流されて自分だけ置いていかれまいと精一杯の抵抗をした。 頭部の角度は徐々に胴に対して垂直になっていく。それにつれて上顎と下顎の継ぎ目が緩んできたかと思うと、 片手でぐいとさらに角度を変えられ、開いた縁から舌先が入り込んできた。ざらざらしているようで、 ぬるりとしているようで、にはそれをどう形容したらいいのか分からない。ただ、熱い、それだけは分かる。 前回、をひどく怯えさせてしまったとき、が咽込んでいたのを思い出した幸村は、なるべく窒息させないようにと気を遣った。 浅く長く、深く短く、一拍置いて、深く長く。はぁ、とその度に音を立てて呼吸するは目に見えて脱力していき、幸村にとって従順なことこの上ない。 の顔をしっかりと支えていた手を片方だけ離し、そのまま首へ、うなじへ這わせていくと、 自分の着物の衿を握っていた白い指先がびくりと震えるのが分かった。分かったが、だからといって手を休めたりはしない。の浴衣は、ほどかれることを前提に着せられていたのだろうか、 首裏から胸元へ軽く引っ張りながら指で広げていくだけで簡単にずり下がってしまった。 冷め切った空気は肌を粟立たせる。 幸村はようやく口を離し、引く糸を舌先で絡め取った。 次なる獲物として薄く浮き出た鎖骨のあたりに噛み付きながら、片方の手で背を支え、もう片方で腹を撫でた。 少しの間なら訓練された忍相手にも立ち回れるであるので、そこらへんの深窓の姫君のように使えない肉ばかり纏っているわけではなかった。 しかし、というか、だからこそ、やわらかいところが一層にやわらかく感じられる。 「………ほんとうに、食えそうだな」 思わずそう言葉を零してしまうほど、やわらかく、あたたかく、甘く馨っている身体は、幸村のものと比べると まるで絹と麻ほどに違っていた。 こちらの身体には傷など無く、月に照らされるとすべらかな乳白色を呈し、髪や影の黒を浮き立たせる。 とりわけやわらかい胸部のふくらみを下から掬うように押し上げ、口元を持っていく。 これは何なのだろう。幸村は今までこんなに手触りの良いものを触ったことが無いように思う。 白玉や餅に似ている気もするが、それらは軽く突いただけで、こうも沈みはしなかった。 は喉を反らし、きつく目を閉じたまま、切れ切れの呼吸を繰り返していた。 どうしたらいいのか、なにも分からない。輿入れ前に教え込まれたような気もするが、すっかり忘れてしまった。 手はどこに置けばいいのだろう?どんな言葉を発すればいいのだろう? 黙々との胸をいじって愉しんでいるらしい幸村は、気まぐれに吸い付いてみたり 噛みつこうとしてみたりしながら、じわじわとその先端を目指していく。以前のように怒鳴られながら 組み敷かれることは怖いとしか思えないが、今のようにほとんど無言というのも不安になる。 なんでもいい、なにか言葉が欲しい。そうでなければ、顔が見えない今、 いつのまにか幸村と誰か別人が入れ替わっていたとしてもには分からない。 「っ、ゆき…」 幸村は顔を上げた。そうして苦しさを堪えているかのようなに気付くと、屈めていた背を伸ばし、よしよしと頭を撫でる。 なにか怖がらせるようなことをしてしまったのだろうかと思い、「俺が恐ろしいか?」と訊ねれば、は小さく首を横に振った。 その振動で、目尻に溜まっていた涙がぽろりと零れる。 怖いのは幸村ではなく、この行為そのものだとするほうが正しいのだろう。けれどがそう言ったとしたら、幸村は手を引くかもしれない。手を引かずとも、 後ろめたいと感じさせるかもしれない。『怖くない』とがただ一言を伝えるだけでそれは回避できるのに、 喉の奥の方で空気でも詰まっているのか、急き込む呼吸に隔たれて声が出ない。 「本当に恐ろしくはないのだな…?」 「ん、…」 の頬に残った涙の筋を舐め上げて、幸村が言う。 再びが小さく頷くのを見届けてから、その背と腰をひとかかえに抱きしめた。 肌蹴た部分から伝わる温度に鼓動が早まり、どうにかなってしまいそうに思う。 出来ることならもうこのまま離れたくない。離したくない。いっそ籠の鳥に、と思わないこともない。 もしが再び自分の手元から逃げ出すようなことがあれば、次に取り戻したときにはそうしてしまうかもしれない。 幸村がそう考えていることなどは微塵も知らないのだろうな、と考えながら、腰を浮かせて細い身体を下敷きにする。 「ならばしかし、少しは恐れた方が良い。男は、女子のこととなれば、狂う。 俺とて、に係ってはこうも形無しだ。政宗殿や慶次殿とて例外ではないかもしれん」 「け、慶さんはちが――ゎ、あ、!」 不愉快な名前を遮って、胸の先を引っ掻くように弄る。顔を赤くしたが口元を手で覆い隠すのを真上から眺めていると、憮然としかけた表情が少し緩むのが自分でも分かった。 意地が悪い、と思わないでもないが、どうしようもない。 着崩れた浴衣をかろうじて引き止めていた帯紐をほどき、しなやかな四肢の全貌を見下ろす。 「やだ、見ないで、や、」と哀願するの泣きそうな声にも、自制が効くどころか頭の芯が甘く痺れるだけ。 腕にも、胸にも、首にも、脇腹にも、髪にも。目に付くところ全てに手を這わせ、舌を這わせ、 跡を残す。膝の間を割って内腿を撫で上げたとき、の身体が竦むように震え、声を殺してそれに耐えているのが分かった。 指でも噛んでいるのか、口元を押さえている手は強張っている。 幸村は腿に掛けているのと反対の手でのその手を退かせた。ぽかりと空いた口元と、夜目にもわかるほど赤くしっとりした唇。 そこに自分の指を咥えさせてみれば、蕩けるように熱かった。 「我慢、するな」 「やっ…なにす――う、ぁ…」 「俺はその声、聞いていたい」 片手の指は舌先を抓み、もう片方は変わらずに腿を撫で上げる。 下肢のその付け根へと近付いていくと、の歯が幸村の指を掠め、時に噛んだ。 その度に全身が燃えるように熱くなる。熱くて熱くて、邪魔な着物など破ってでも脱ぎ捨ててしまえと、 ひとかけらだけ残った理性さが語りかけてくるほどだった。 (二)二回戦はじまるよ 焦がすような熱がひとしきり鎮まって、お互いに無言ではあったが静寂に包まれているわけではなく、 未だ整わないの呼吸には時折すすり上げるような音が混じって聞こえていた。 幸村に残っているのは満足感と高揚感と眠気、付け加えるのなら僅かに燻る熱っぽさくらいだろうか。 はぼんやりとした表情で、流感にでも罹ったのだろうかと心配になるほど瞳を潤ませている。 たしかに蒲団にも浴衣にも構わずにしたが、まさかその所為だろうか。幸村は暑いくらいだと思っていたし、 今もうっすら汗ばんでいるくらいなのだが、は寒かったのかもしれない。 心配がまた更に少し深まった幸村は肩までしっかり夜着を掛けてやるが、ちらりと見上げてくるのうっすら上気した表情に、やはり暑いのかとよく分からなくなる。 とりあえず水でも飲ませたほうがいいだろうと思い、水差しを探した。ほどなく、 佐助に預けた書状を書いていた文机の傍に水差しの乗った盆が見つかる。 それを取りに行こうと幸村は立ち上がりかけたが、ぐっと裾が引かれる重みを感じて、中腰のまま動作を止めた。 「……どこ行くの…?」 何事かと見れば、が幸村の着物を掴んでいた。肘をつき、上半身を浮かせているせいで、せっかく掛けてやった夜着も 肩から落ちてしまっている。その表情は悲痛で、泣きそうだった。 「どうした?」 「どこか、行くの?」 「何処にも行かぬ。ただそこの水差しを…」 ほれ、と指を差して視線を誘導すると、は安心したように息を吐いて手を離した。 「よかった」と呟くのが聞こえたので、何を案じていたのかと訊ねると、言いにくいのかごにょごにょと言葉を濁す。 「……わたしが、その…上手にできなかったから、呆れて……どこか、行くのかと、」 「馬鹿なことを!」と言いそうになって、慌てて口を噤む。 だがやはり、馬鹿らしい心配だ、という思いは消えない。 自覚したのはつい最近だとしても、幼少のころからずっとだけを想っていたのだ。あわや手放さざるをえない寸前まで追い込み追い込まれ、 “紆余曲折”以外に表現できないほどの経過を辿り、ようやく全て自分のものだと言える関係になったというのに。 それまで幸村がどれほど苦心したか、も知らないわけではないはずなのに。 自分はそんなに男振りが無いと思われていたのかと考えると、哀しくもあり、腹立たしくもある。 しかし、ここで声や態度を荒げてもを無意味に怯えさせるだけだと学習したので、努めて平静を装った声を絞り出す。 「俺は別に、色狂いというわけではないのだから、技巧云々など知らん。 ただ…ただ、俺はが欲しいと思った、思っている。今でさえ足りぬと思うほどに、」 「た、足りない?」 掠れた声をひっくり返らせて、は驚いたように言う。 この夜が始まってから初めて普段と同じ姿を見せたに、幸村の苛立ちが収まっていった。 先程の言葉だって、間をおいて考えてみればいじらしいではないか。 いじらしい。かわいらしい。 うずうずと湧き上がってくる気持ちに押し負け、幸村は夜着を取り払った。 そのままの上に覆いかぶさるようにして距離を詰めると、「足りぬのだ」と囁く。 最中にも何度か香った甘い匂いを鼻腔に感じる。そうだ、これはの愛用する香の匂いだった、とようやく思い出した。 「いつの間に此れほど破廉恥な男になってしまったのか、自分でも皆目分からぬ。 だがが横に無いと昼も夜も落ち着かぬし、傍にあるだけでも物足りん。こうしているのが一番良い」 「え、と…」 「に満足していなければ足りぬなどとは思わんはずだ。そうであろう? ……先程までのは、初夜に為し得なかった契りの代わり。さて次は…慶次殿が来た日の続きとするか?」 ともあれ、空白を埋めるにはこの夜だけでは到底足りないのだろうが。 期待ハズレでゴメンヌ! 今後、予告無しで気まぐれに濃度が上がったり下がったりするかもしれない。 |