「あれま、珍しい」



特に何か目的があったわけでもなく主の様子見にと顔を出したら、珍しいものを見た。
陽の良くあたる廊下の縁に、幸村とが並んで座っている。これだけなら普段と変わらない光景だった。いつもと違うのは、くつろいだ様子で茶を啜っているのが佐助の主で、それに凭れてこくりこくりと舟を漕いでいるのがその奥ということだ。
佐助は屋根の上から庭先に降り立つ。すると幸村は小首を傾げて「何がだ」と聞いた。ほとんど無意識の独り言だったが、耳ざとい彼には届いていたようだ。



「逆だろ、いつもは。旦那が阿呆面して昼寝してて、姫さんが枕になってんの」

「阿呆とは何だ、あほうとは」

「あーはいはい、すんませんね。
 旦那はいつだって幸せそうなお顔でお膝を堪能していらっしゃいますとも」



佐助はからかい混じりの言葉を投げかける。幸村はむっとした顔で佐助を睨んだが、気を取り直したように茶を啜った後は反論もして来なかった。少しつまらないが、安心しきったの寝顔がどうしても視界に入るとなると、それも当然だと思う。



「……よく寝てるねぇ、姫さん。夜寝れなくなっちゃうんじゃないの」

「春眠暁を覚えずと言うからな、大丈夫だろう」

「しゅんみ…なにそれ」



幸村は「漢詩の一句だ」と答え、眉根を寄せて少し呻いた。作者名が思い出せないらしい。
佐助は作者名なぞに興味は無いし、漢詩自体にだって興味は無いが、春眠暁を覚えずとは巧く言ったものだなとは思う。主も作者名を思い出すことには早々飽いたらしく、また湯呑みに興味を戻したようだった。



「書庫に漢詩の手習い書があるだろう。気になるなら見てみると良い」

「いいよ、そんなの。俺様しのびだぜ?飯のタネにもなりゃしない」



そんなのは良いから、熱いお茶のおかわりか姫さんに被せる羽織りか、どっちを持って来れば良いのか答えて欲しいよね。佐助がそう言ったら、幸村は不意を突かれたように、ふっと笑った。揺れる肩が枕でも、はまだ目を覚ましそうにない。
















どっちも持って来いでござる