その夜は雨で、風が強かった。 カボチャの仮装をした2人の子供が通りを横切って行った。 店のショーウィンドウは紙でできたクモが飾られていた。 愚かなマグルの世界は、彼らが信じてもいない世界を装っていた。 傍を通りながら、彼は目的と力と正しさとを感じていた。 こういった場合、彼はいつもそう感じていた。 怒りではない。それは彼よりも劣る魂のものなのだ。 勝利なのだ。彼はそれを待っていた。彼はそれを望んでいた。 「いい仮装じゃないか」 彼の、そのフードの真下の顔が見えるほど少年に近づいたとき、 彼は小さな少年のペイントを施した顔から笑顔が消え、恐怖が広がるのを見た。 子供たちは逃げ出した。 ローブの下で、彼はその杖を指で弄んでいた。 ほんのわずかな動きだけで子供たちを永遠に母親のもとへ辿りつけなくさせることができた。 しかし、いまはそんな必要は無いのだ。 彼は新しく、暗い通りをさらに進んでいった。 目的地が視界に入った。 忠誠の術は破られた。しかし彼らはそれにまだ気付いていない。 歩道を横切り、できるだけ枯葉を踏んで音を立てないように、 彼は生垣と同じ高さまで近づくと、中を覗いた。 カーテンは閉じられていなかった。 背の高い、眼鏡をかけた黒髪の男が、青いパジャマをきた息子を喜ばせようと、 色のついた煙を杖の先から出していた。 笑いながら、赤ん坊はその小さな拳で煙を捕まえようとしている。 扉が開き、彼には聞こえなかったが、何事かを言いながら、母親が部屋に入ってきた。 長い、暗褐色の髪が彼女の顔にかかっている。 男は赤ん坊を抱き上げ、彼女に渡した。 男は杖をソファの上に放り投げ、欠伸をしながら背伸びをした。 少し押しただけで、門は動いた。 しかしジェームズ・ポッターには聞こえていない。 彼の白い手がマントの下から杖を出し、玄関の扉へ向けた。 扉は勢いよい開いた。 ジェームズが玄関に走って入ってきたとき、彼は戸口に居た。 なんと簡単なことだろう、彼は杖すら持っていない。 「リリー!ハリーを連れて逃げろ!奴だ!行くんだ!走って!僕があいつを―」 あいつを食い止める、と。 杖も無しに! 呪文を発する前に、彼は笑った。 「アバダ・ケダブラ!」 緑の光が玄関を満たした。 それは反対側の壁に立てかけてあった乳母車を照らし、 手すりを避雷針のように浮き上がらせた。 そして、ジェームズ・ポッターは糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた… 上の階から、彼女の悲鳴が聞こえてきた。 いやしかし、彼女は恐れることなどないのだ… 彼は階段を上った。 彼女が部屋を立て篭もろうとしていることがわかり、かすかに愉快になった。 彼女もまた杖を持っていないのだ… 彼らはなんと愚かなのだろう。 そしてなんとも信用していたのだろう。 彼らの安全が友によって保たれていると? 今の今まで武器など要らないと? 気だるげに杖を一振りして、彼は扉の前に置かれた椅子や箱などをなぎ倒しながら扉を開けた。 彼女は息子を抱えて立っている。 彼の視界で、彼女は赤ん坊を背後のベビーベッドに寝かせた。 そして彼女はその前に立ち、両腕を精一杯広げた。 まるで、そうすることで助かるかのように。 まるで、視界から隠すことで彼女を代わりに選ばせようとするかのように。 「ハリーは、ハリーだけは、お願い、ハリーだけは!」 「どけ、バカな小娘が…どけ、さあ…」 「ハリーだけは、お願い、やめて、わたしを、代わりにわたしを殺して―」 「最後の警告だ―」 「ハリーだけは!お願い…お慈悲を…お慈悲を… ハリーは!ハリーだけは!お願いします…なんでもします…」 「どかんか―どけ、小娘―」 彼は彼女をベビーベッドから遠ざけることもできた。 しかしここで彼らを全員始末しておくほうが良いだろう… 緑の閃光が部屋中に満ちて、彼女は夫と同じように崩れ落ちた。 赤ん坊はこの間ずっと、泣きもしなかった。 ベビーベッドの柵を掴んで立ち上がり、興味深そうにこの侵入者の顔を見ている。 マントの下にいるのは父親で、もっとたくさん、キレイな光を見せてくれる、 そして母親は今にも立ち上がって笑ってくれる、おそらくそう想像していたのだろう。 彼は杖をとても注意深く赤ん坊の顔に向けた。 彼はこの、釈然としないほど危険な存在を消してしまいたかった。 赤ん坊は泣き始めた。 ジェームズではないことに気付いたのだろうと思われた。 彼はこの手のものが泣くのが好きではなかった。 孤児院でも小さな者が泣き言をいうことに我慢していられなかった。 「アバダ・ケダブラ!」 そして彼は打ち負かされた。 彼は何物でもなかった。痛みと恐怖以外の何物でも… 彼は自分をどこかへ隠さなければならない。 ここではない、赤ん坊の泣き喚くこの瓦礫の廃墟ではない、どこか、どこか遠く…… |