A swarm of bees in May Is worth a load of hay; 月に一度の恒例行事がちょうど冬休みにあたったので僕は帰省しないことにした。 そうするとジェームズやシリウスやピーターも帰省しないで付き合ってくれると言った。 ありがとうありがとうと感動の一時を過ごした次の瞬間ジェームズはリリーの元へ走って行ったけどね。 どうやらリリーがさんに口説かれていたのが心底心配らしい。 仕方がないので僕とシリウスとピーターでの所へ行くことにした。 そして森の中を歩いている最中「そういえばホグワーツに入りたいって言ってたな」と僕は思い出した。 「冬休みになると人が居なくなるので遊びに来てみますか?」 「あの建物ですか!すごく行きたいです」 は虹色に透ける髪をふわふわさせて喜んだ。 そんなに喜んでくれるなら誘ってよかったなあと僕らは思った。 は毎回なにかお土産を持たせてくれるから今日のお土産も期待できるだろうなとも思った。 少し打算的な自分に気付いたけどそれはシリウスもピーターも同じだったみたいなのでスルーした。 「もうすごく嬉しいのでお礼にユニコーンでも捕まえて来ようかと思、」 「だからそれ犯罪なの!な?!」 シリウスのナイスつっこみには不思議そうな顔をするばかりだった。 妖精という存在に打算は通用しないという教訓かもしれない。 冬休みになった次の日の朝は玄関前に座り込んで待っていた。 別に日にちを約束したわけでもないから驚いたけど迎えの手間は省けたのでまあいいかと思った。 相変わらず真っ白い肌で不思議な色あいの髪で布を巻いたような服。 が歩むたびに廊下には氷の足跡がぱきんぱきんと残される。 ダンブルドアならまだしもフィルチには絶対に見つかっちゃいけないと思った。 「今日は小さい人間は居ないんですか?」 「休みだから小さいのも大きいのも居ないんだよ」 そう説明すると「そういえばそうでした」と納得したようにふわふわ歩いた。 肖像画の中からおじさんたちが「いよっ別嬪さん!」と声を掛けてくるが聞こえていないらしい。 僕は人差し指をくちびるにあてて彼らにしーっとしてみせた。見つかりたくないからね。 「すごいですねこんなに広い建物は初めてです」 「生徒とか、屋敷しもべ妖精とかも居るから」 「しもべ妖精?」 「うーんと掃除とか料理とかをしてくれる妖精で服をあげたら解雇っていう意味で……」 その他に外見的な特徴も説明する。 妖精仲間には残酷かなと思ってシリウスの家では首を刎ねる習慣だということは言わないでおいた。 「ホブゴブリンに似ているんですね」 「ホブゴブリン?」 「罪の無いいたずらばかりしますがミルク一杯で家事を手伝ってくれる妖精の一族です。 イギリスならパックやブッカブーなどの種類がいますがハウスエルフとは初耳でした」 がいつもこうやって披露してくれる妖精マメ知識は面白い。 それらは魔法生物飼育学では教えられないようなイギリス古来の妖精妖怪たちの話だった。 いつか彼女がフリットウィック先生に会ったら妖精同盟でも組むんじゃないかとひそかに思っている。 僕はを連れてようやくグリフィンドール塔入り口のある階に辿り付いた。 少し息切れしながら進行方向を見据えているとお馴染みの尻尾がちろりと見えた。 最悪のタイミングでミセス・ノリスにこのデート現場を目撃されてしまったようだ。 「最悪だ……」 「えっ私なにかしましたか?ごめんなさいこの足跡ですか?」 「いやそれじゃなくて……うんでもそれもちょっとあるけど…」 ミセス・ノリスあるところ二秒後にフィルチあり。 僕らはそれをいやというほど知っているので「急ごう」と言ってを急かした。 だけどはミセス・ノリスの後姿をじっと見ているだけで動かない。 「、」と声をかけて服を引っ張ると指先が壊死するかと思うくらい冷たかった。 「あの猫はだめですね」 「は?」 「なにか嫌なことを考えているような感じがするので少し捕まえてみましょうか」 そう言うや否やはさらりと髪をなびかせてしゃがみ込んだ。 そして混乱している僕を余所にの薄いくちびるは冷気のこもった空気を紡ぐ。 背中がぞくぞくした。思わず目をつむった。 目を開けたときには廊下はスケートリンクのように薄い氷に覆われていた。 うわっやっちゃった!と思ったけどやっちゃったものはまあ仕方ない。 ミセス・ノリスは廊下の角で氷に足を取られて動けずにいた。 「この猫はケット・シーの素質がありますね。 急に現れたり消えたり飼い主と会話をしているような姿は見たことありませんか?」 「え。あ。うん。しょっちゅうです」 「もう少し魔力が備わっているか怨念で死ねばケット・シーになれますよ」 「(怨念って怖いよそれ)、そうなんですか」 ケット・シーはメジャーな魔法生物なので僕でも知っていた。 ニーズルみたいに猫の姿をした妖精というかそういう存在だったはずだ。 長い耳を持っていて妖精の印の白い毛が胸にあるけど全体的には黒に近い緑色の大きな猫だ。 ミセス・ノリスがケット・シー。スクイブ・フィルチに半妖の猫。 すごくひどいことかもしれないけどお似合いだなあと思った。 ミセス・ノリスは足を動かそうともがいていてしばらくはフィルチに密告出来そうにない。 この隙にさっさと行こうと促すとは「そうですね」と立ち上がった。 太った婦人に合言葉を言って道を開けてもらいハシゴを上る。 は意外にもハシゴを器用に上ってついてきていた。 「ただいまみんな。お客さんを連れてきたよ」 「あっリーマスおかえ、ええええええちょっとさんなんで、」 ジェームズがココアを咽こみながらこっちを指差して驚いた。 そういえば彼は僕らがを城に誘ったときには欠席していたんだった。 「リーマスさん、」 「なんですか?あっどうぞ入って入って」 「溶けそうです…」 「ジェームズ暖炉消して暖炉!」 は口元に手をかぶせて気持ち悪そうに言った。 「吐きそう」と同じノリで「溶けそう」と言われてどうしようかと思った。 ジェームズはココアを暖炉の火にかけたけどそれで燃え盛る薪が消えるわけがない。 僕はポケットをひっくりかえして杖を探すけれどなかなか見つからない。 やばいやばいやばいが溶けちゃう。溶けちゃうってなんだよもうこの非日常! 「で、おまえら何やってんのよ」 慌てた僕らの背後から光がさっと奔って暖炉の炎にぶつかった。 たちまちに暖炉は鎮火してジェームズは窓を開けに走った。 振り返るととっても爽やかに寝癖をつけた黒髪ハンサムが杖を構えて立っている。 「ありがとうシリウスきみのスマートっぷりに神さまの贔屓加減をとても感じるよ」 「褒めるなら素直に褒めてくれ」 「じゃあもう褒めない。大丈夫?もう溶けない?」 「大丈夫です溶けないと思いますごめんなさい」 は窓ガラスにおでこをよせてふうと溜息をついた。 ばきばきと音を立ててガラスが凍るけどそれさえも気持ち良いんだろうと思った。 その代わり暖炉を消して窓を開け放った談話室で僕らは非常に寒い思いをしている。 赤を基調に整えられた談話室の中での白が目立っている。 でもそれはそれですごくきれいなので良いやと思うことにする。 「暖炉でこれだけなら、夏が来るとさぞしんどいでしょうね!」 「それはもう毎年死ぬんじゃないかと思う日々の連続です。 でもメイポールのお祭まで石になってはいけないので気合で頑張ります」 「妖精なのに意外と体育会系なんですねえ!」 眼鏡のレンズに吹雪いてくる雪をはりつけたジェームズが言った。 しかし僕はミセス・ノリスを捕まえたり素手で魚を取ったりとかのアクティブな姿も知っている。 「でも石になるって具体的にどんな感じなんですか?」 「ええと、まず溶けかけた身体に土や石を張りつけます。 次に残りの力をふりしぼってそれらを固めます。意外と単純な手順です」 ジェームズとシリウスはすごく微妙な顔をして「ははは…」と笑った。 しかし僕は最初からのアクティブな姿を知っているので「そうきたか」くらいにしか思わない。 「泥パックとかみたいですね」 「泥パック?」 「うん、泥を肌に塗る美容法」 「美容なら泥じゃなくてカルタゴベリーの実のエキスがいいですよ」 正直美容には興味ないけど後でリリーに教えてあげればいいかと思って僕は「そうですか」と言った。 妖精と人間では効く効かないが違うかもしれないけれど百聞は一見にしかずと言うしね。 談話室の外ではフィルチが「お、おおお!」と叫ぶ声がした。 きっとスケートリンクに足をとられたんだろうと思うと愉快だった。 「ねえ、ホグワーツでなにがしたい?」 「なんでもしたいです。なんでも見たいです」 が嬉しそうに言った。 校内探検でもすればミセス・ノリスのように新しい発見があるかもしれない。 ピーブズを氷漬けにするを想像してみることは簡単だった。 彼女は本当は冬の妖精じゃなくて氷の女王なんじゃないかなあと思ったのは秘密だ。 |