CLUE --
I.a thing that helps provide an answer to a question
II.an explanation or reason for something that is difficult to understand



























     オルフェウス   1-19.CLUE


























クリスマス休暇が終わって数週間、
カレンダーは今年に入って初めての月末を目前にしている。



1月30日。
つまり、私の17歳の誕生日。



クィディッチも無ければやり残しているレポートも無い、
静かな土曜日の朝を迎えて、私はゆっくりと目蓋を持ち上げた。
カーテンはきっちり閉めて寝たはずなのに朝日が眩しい、なんて、呑気に思いながら。


このカーテンを開けたら、実家の両親や友達たちからのプレゼントが届いている。はず。
ああでも、フクロウの扱いにいまだに慣れられないとぼやいていた両親のことだから、
朝一番には間に合っていないかもしれない。その時はきっとお昼ぐらいに着くだろう。
ペチュニアはどうかしら、今年も近所のドラッグストアの鉛筆でも送ってくるのかしら。


きっとやアリスは素敵なものを送ってくれているんだろうと寝惚けた頭で思いながらカーテンを引く、
の、だけれど、なぜかカーテンはびくともしない。







「え?ちょっと、なんで、」







力任せに引っ張ってもどうにもならなくて、私はどうしようかと途方に暮れる。

せっかくの誕生日、しかも成人を迎える日だっていうのに、
今日は一日中ベッドの上で過ごさなきゃいけないの?
お腹が空いたり、お手洗いに行きたくなったりしたらどうすればいいのよ!

けれど、カーテンが開かない限りはここから離れられないのだから、どうしようもない。
というより今日でこの状況が解決するという保証なんてないのだし、
下手をすれば明日も明後日もこのままかもしれないという可能性だって否定出来ない。


そこまで考えて、ふと、そうなる前にに助けてもらえばいいんだわ、と気付いた。
ああまったく、こんなに当たり前のことに気付かないなんて、
きっと頭がまだ眠っているんだろうとしか思えない。







、ねえ起きてる?なぜかカーテンが開かないのよ。?」







からの返事はない。

寝起きの良いだから、熟睡していても声がすれば起きるくらいなのに、
今日に限ってはその声さえも届かないほどぐっすり眠っているらしい。

仕方がなく、アリスやメアリにも同じように声を掛けるけれど、やっぱり返事は無い。
まるでグリフィンドール女子寮のこの部屋に居るのは、この世界で目覚めているのは、私だけみたいに。



うすら寒い感じがして、私は顔をしかめた。

馬鹿げている。いくらなんでも、私以外の世界中の人が誰も居ないなんて、
そんな馬鹿げた話、有り得るわけがない。(あるいは、そう思いたいだけ?)





いったいどうしたらいいのかという、諦めに似た思いを感じていると、
ふと視界の端が眩しいことに気が付いた。まあ、眩しいというのは言い過ぎかもしれないけれど。

けれどとにかく、カーテンの要塞に閉じ込められたようなこの薄暗さの中では、
少しチカチカしている程度でも夏の地中海の日差しのように思える。

そっちの方、つまり枕元のほうに視線を遣ると、
オレンジやピンクに色を変えながら光る文字(で、いいのよね?)が、宙に浮かんでいた。









    グッモーニンそしてハッピーバースデー、リリー!


    もしこのメッセージに気付く前にカーテンを開けようとして、
    『閉じ込められた?』って不安にさせちゃってたらごめんね!
    実はいま、リリーのベッドのカーテンはこのメッセージを読まないと
    開けられないような魔法がかかっているのです。
    リリーが本気出したら解除できちゃうかもしれないけど、
    親友の可愛いイタズラだと思ってとりあえず指示に従って下さい。

    さて指示というのは、リリーに宝探しをしてもらうことです。
    わたしたち(わたし、リーマス、シリウス、ピーター、ジェームズ)からの
    リリーへの誕生日プレゼントが、校内のいたるところに隠されています。
    最後の隠し場所に来れたら……その時はお楽しみ!

    もし『付き合ってらんない!』と思ったら、杖でこのメッセージを叩いてね。
    すぐに魔法が解けるから。その代わりペナルティーとしてプレゼントの一部はダメになる、かも。

    わたしたち、リリーが来てくれるのを待ってるよ!
    さあ準備はいい?合言葉は「クロックムッシュ」!


    大親友のちゃんより


    追伸 苦情は全部ジェームズにね!









最後までその文字を読み終わると、どこからともなく私の杖が降ってきて、私の手元に納まる。

文字は今では薄いゴールドになっていて、
私がこれを読んだときに杖が降ってくる仕掛けだったんだろうと予測できた。
ひとりではこんなに複雑な魔法を組み立てられないと思う(ごめんなさいね、)ので、
やっぱりポッターとかポッターとかブラックとかが絡んでいると思って間違いのだろう。







「宝探しって……私、今日から成人なのに…」







そんな子供じみたこと、と切り捨ててしまうのは簡単。だけれど。


もう1度、からのメッセージを読む。
気になるのは「その時はお楽しみ」の部分と「ダメになる、かも」の部分。
いったい最後の隠し場所に何があるって言うのかしら?
ダメになる、かも、って、どうしてそんなに曖昧なのよ!


私は杖を握って、少し考えた。
このままリタイアするのもいいし、反対呪文を片っ端から試すのでもいいし、
もういっそ、このイタズラに乗ってしまうのでも、いいかもしれない。
全ては私の選択次第で決まるなんて、中途半端に責任が重い。







「………まあいいわ。その案、に免じて乗ってあげましょう」







そうよ、だって、もしダメになるのがやリーマスからのプレゼントだったら、勿体無いじゃない?

何に対して合言葉を言えばいいのか解らなかったので、
とりあえず杖の先を眺めながら「クロックムッシュ」と呟く。

すると途端に金色の文字が弾けて煙が上がり、『』という文字の形になって、消えた。




急いでカーテンに手をかけると、さっきまでの抵抗が嘘だったみたいに開く。
恐る恐る両足を踏み出せばそこは、当たり前だけど昨夜と何も変わらない女子寮の景色がある。
ただ違うのは、きれいにラッピングされた箱や包みがいくつか私のベッドの足元に置いてあること。







「おはよう、リリー。誕生日おめでとー」


「ありがとうメアリ。あの、私、あなたを起こしてしまった?」


「え?何で?」







眠そうな目で、メアリが自分のベッドからカーテンを開けて出てくる。
彼女はさっき私が呼び掛けたことに気付いていないようで、不思議そうに私を見ている。
単にメアリが鈍いのか、それともカーテンを固定するときに
防音の魔法と併用したのか、どちらか迷うところ。(だけど多分、後者ね)


着替えの服をトランクから出そうとしたとき、
カーテンをきっちり閉じてあるサツキのベッドが、ふと目に映った。
まだ私を不思議そうに見ているメアリはとりあえず気にしないことにして、
私はのベッドのカーテンを勢いよく開ける。







    第1チェックポイント☆


    リリー、怒ってる?
    唐突にこんなこと始めてごめんね!
    リリーのご機嫌取りに、この前のジャムマフィンを贈ります。
    備えあれば憂いなしって言うし、冒険中の食料にでもしてください。
    プレゼントはまた別にちゃんとあるからね!
    じゃあ、最後の場所で待ってます。
    第1チェックポイント担当は、でした。


    第2ポイントへのヒント:お腹空いたなあ







「リリー、なにそれ?っていうか、もう起きてるんだ?」







そこにあったのは、さっきと同じ筆跡のメッセージと、
簡単にラッピングされた、手のひらに乗る大きさの紙袋。
いつもならここで眠っているはずのは、居ない。







「……えぇ、ポッターたちとどこかに隠れているみたい」


「えぇっジェームズがと浮気?」


「どうしてそうなるのよ?そんなの私が許すわけないじゃない!
 そもそもね、浮気っていうのはしっかりした本命がいる人の行いを言うのよ」


「いるじゃないのー、しっかりした本命。ねっ、リリー!」







メアリを軽く睨んで、私は紙袋を開ける。
メッセージ通り、中にはマフィンが入っていた。まだ暖かいのが2つ。







「あちらがどうかは知らないけれど、私の本命はよ。
 お菓子作りが得意とかいろいろ……文句のつけようが無いもの」


「あたしじゃないの?
 あたしもチョコレート溶かして固めるくらいならできるよ!」


「それ、いつかリーマスにカカオ侮辱罪で怒られるんだから」


「罰金はチョコ3年分、とか?なんか、お腹空いてきたなあ。
 こんな話ばっかりしてるからかなあ。リリー早く大広間行こうよー」







第2ポイントのヒントは『お腹空いたなあ』







「……そうね、行きましょう」







待ってなさい、、リーマス、ピーター、あと残り2人。
途中でギブアップなんて、絶対にしてあげないんだから!






















+






















同時刻:必要の部屋







「おいっ起きろ!始まったぞ!」


「えっ………あ、うん。おはよう、ございます、ジェームズ、ポッター」


「うんおはよう、きみは寝起きが良くて素晴らしいね頭は寝てるみたいだけど。
 ほらほら起きろこの犬野郎!リリーがついに動き出したんだよ!」


「いって!蹴るなよ、起きるから!朝っぱらからうるせーな!」


「うわっきみなんでそんなに髪がサラサラなんだい?
 雑魚寝したときくらいクルクルに寝癖をつけるとかしろよ空気読めよ!」


「お、おはよう……ジェームズ、シリウス、あんまり騒ぐとリーマスが……」


「きみたちかまれたいの」


「ごめんなさい!」


「なんでオレまで!」


「噛む?え……何が?」


は気にしないでいいよ。
 ああもう、きみたちがうるさいから目が冴えちゃったじゃないか」


「いててててっリーマス、ちょっ、僕の足踏んでるんだけど」


「えっそれはごめん、寝起きで視界が霞んでいるんだと思うけどどうなんだろうね」


「わかった!リーマスの凶暴なウサギのこと?あの子元気?やっぱりまだ噛むの?」


「うん、噛むね。特にこういう肉系は大好きだね。
 ほらシリウス、ジェームズ、寝袋を片付けないと朝ごはんの準備が出来ないよ」


「あー!それ、オレが朝飯用にキープしてたローストビーフ!
 お前ぜったい視界良好だよ、どうせならパセリ食えよ!あ、ごめんなさいそれ以上食わないで!」


「頑張らせていただきますリーマスさん!
 だから僕のサンドイッチは食べないで――ってあああ!」


「あ、ごめん、これジェームズのだったの?
 いやなんかね、リリーとメアリが大広間に行くの見てたらお腹空いちゃって……」


「こら、地図のせいにしないの」


「お前なんか確信犯でしかも進行形でオレのぶん食ってるくせに自分のこと棚に上げやがって!
 も『えへー』なんて笑ってないでそこの肉食獣止めてくれ!」


「おっと!視界が霞んでシリウスのコーヒーに砂糖を20グラムほど入れてしまったよ。ごめんね」


「うわっなんか砂糖が飽和してる。
 シリウス、これ飲めるの?味がどうこうとかいうより人体的に」


「……飲める、わけ、ねーだろ……」


























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1月30日 百合と仕掛け人 それぞれの騒がしい朝