CLOCKWORK --
I.smoothly,according to plan
II.the inside of a clock,its mechanism



























     オルフェウス   1-20.CLOCKWORK


























朝、アリスとメアリと席に着いた大広間で。
座った途端、私のお皿に浮かび上がってきたのは、例の文字。
ちなみに、たちの姿はどこにも無い。







    第2チェックポイント


    やあリリー、誕生日おめでとう。
    『きちんと朝食をとる』、やっぱりこれは基本だよね。
    17歳、大人になってからも、そういうことをきちんと大切に出来る人で居て下さい。なんてね。
    さてぼくからのプレゼントの隠し場所は、『幸運』が教えてくれるでしょう。
    何のことかって?それを考えるのがこの企画の醍醐味だよ。
    まあでも、まだ第2ポイントだからね、簡単だと思うよ。
    それでは、健闘を祈ります。
    第2チェックポイント担当は、リーマス・ルーピンでした。


    第3ポイントへのヒント:天文学のレポートは終わったかい?







そして、デザートとして私の前に現れたフォーチュンクッキーの中にあった
『隠し場所は、厨房』という指示に従って厨房へ入ると、
しもべ妖精たちが『ハッピーバースデーリリーエバンズ!』と大合唱してくれたあと、
コック長がリーマスからのプレゼントを渡してくれた。

中身は飴細工のペンセット(飴で手紙が書けるんですって!)だった。





























昼前、メアリに泣きつかれて助っ人に行った図書館。
リーマスの言葉を思い出して、館内を少し探してみると、
天文学の棚の片隅にきらきら光る、あのオレンジ色。







    第3チェックポイント


    誕生日おめでとう、リリー。
    えっと……何を書いたらいいんだろう?
    僕からのプレゼントは、この棚から金星の軌道を30日分辿ったところにあるよ。
    リリーならこんな指示でも分かっちゃうんだろうなあ……すごいや。
    えーと、あとは何だっけ?とにかく誕生日おめでとう!
    レポートを書きながら待ってるよ。シリウスかジェームズか教えてくれないかなあ……
    第3チェックポイント担当はピーター・ペティグリューでした。


    第4ポイントへのヒント:イカ墨って整腸作用があるんだよ!って、ジェームズが…





天文学の棚から指示通りに金星軌道30日分を進むと窓際にぶつかり、
近くにあった机の下にピーターからのプレゼントが置かれていた。

中身はプトレマイオス式の望遠鏡(これが必要なのはむしろピーターね!)だった。
ヒントのところに何か不愉快な文字が見えた気がするけれど、無視することにした。





























お昼過ぎ、イカ墨を求めて湖のほとりへ。
一体どこで何をしているのか、たちは昼食にも姿を見せなかった。
見渡す限り白雪で埋め尽くされた光景に息を呑むけれど、葉の落ちた木の幹が、わずかに瞬いている。







    第4チェックポイント


    どーも、お誕生日おめでとーございました。
    おい知ってるか?巨大イカってもしかしたらゴドリック・グリフィンドールが
    動物もどきになってる姿かもしれないらしいぞ。何でライオンじゃねーんだって話だよな。
    ちなみにプレゼントなら、この前のチェスの仕返しに、ちょっとばかし難しいとこにある。
    ゴドリック・グリフィンドールからプレゼントを貰えたら
    寮生としてこれ以上名誉なことはないよなあ。ま、女子首席なら余裕だろ?
    第4ポイント担当、シリウス・ブラック


    第5ポイントへのヒント:7階の廊下の『バカのバーナバス』は、マジで、バカだ。







無視しようかとも思ったけれど、ブラックが用意したものだから、
もしかしたらすごく貴重な本とかだったりするかもしれないと自分を励まし、
巨大イカの足先に結びつけられた『水中でしか読めない水インク』で書かれた
難解な古代ルーン文字の書物を手に入れたのは、1時間半にも及ぶ大苦戦の後だった。

あとで覚えていなさいよ、ブラック。(何が『動物もどき』よ!)





























日も傾いてきたころ、7階の廊下。
談話室で身体を温めてから階段をいくつか上り下りして目当ての場所に着くと、
トロールにバレエを教え込もうとしているバーナバスのタペストリーがあった。
本当に馬鹿だわ、と一瞬納得しかけたとき、タペストリーの横に求めていた筆跡。








    第5チェックポイント!


    やっほーリリー!
    帰らずにここまで来てくれたんだね!
    良かった良かった、ゴールは『目の前』だよ。
    さて、シリウスの意地悪問題のあとだから、簡単にしておくね。
    わたしからのプレゼントは、合言葉が出してくれるよ。
    第5チェックポイント担当はでした。


    ラストポイントへのヒント
    心の中で「ハッピーバースデー」って呟きながら、このメッセージの前を3回通りすぎてみてね







そして私がその場で「クロックムッシュ」と呪文を唱えると、小さな包みが降ってきた。
開けてみると、小さな石の耳飾り。同封されていたカードには
「マグルのお店で買ったピアスをタリズマンみたいにアレンジしたの」という解説がされている。
サツキらしい、シンプルだけど凝ったデザインが気に入って、私はそれを大事にポケットへ仕舞った。



さて残るは最後のヒントだけなのだけれど、正直、今までのヒントより具体的なのに意味が分からない。
けれどこの先にやリーマスが居るのだから、と言い聞かせ、
私は3回、「ハッピーバースデー」と念じながら壁の前を横切った。

すると、さっきまでただの壁だったところに、扉があらわれている。

きっと今までのパターンからするとこの扉に入れという意味なのだろうけれど、
ポッターたちが絡んでいると思うと、安全面の観点で少し不安がある。
いきなり落とし穴、とか、虫トラップ、とか。ありえないという保証こそ、ありえない。

少し躊躇ったあと、私は意を決して、ドアノブを掴んだ。
だってもし罠があっても、全部切り抜けてポッターを減点すればいい話だわ!



でも、驚いたことに、罠はひとつも無くて。







「ゲームクリアおめでとう、リリー!」












目の前には、花の海が溢れていた。












「―――ポッター!」


「いやー、もうちょっと時間かかるかと思ってたけど、さすが女子首席!さすがリリー!」







花の海が視界から下がると、そこには花束を抱えた眼鏡男の姿があった。
その背後にはもはや見慣れたポッター一味の顔ぶれがあって、そしてその中に、の姿。

部屋は花やモールで華々しく飾られていて、
中央に置かれたテーブルには宴会の時のような料理が所狭しと並べられている。

それらはとても数十分なんかじゃ準備できそうにないほど賑やかで、
ああだからは朝早くから居なかったのね、と私は納得するのだった。
寝る前に「おやすみ」の挨拶をしたのは確実だけど、もしかしたら夜中から抜け出していたのかもしれない。
そうだとしたら、なんて無用心なのかしら!男ばっかりのなかに女の子がひとり、だなんて。
(まあでもブラックが居るから大丈夫だったとは思うけれど)(良い意味でも、悪い意味でも!)







「………花をどけてちょうだい、ポッター。通れないわ」


「君に受け取ってもらえるまでは動かないよ。
 今回は少し強気な僕で攻めることにしているんだ」







能天気な笑顔でポッターは言い、私に花束を突き出してくる。
攻めるって何よ、と言い返そうと思ったけれど、
やブラックがポッターの背後で意味深に笑っているのが見えたからやめておいた。
仕方ないわね、と呟いて、私はその花束を受け取る。だって花に罪はないもの。







「それで、“お楽しみ”っていうのはこのパーティーみたいな騒ぎのことなのね?」


「そうだよ、夜中から泊り込んで頑張ったんだから!
 この期に及んで『やっぱり帰る』とか言わないでね、リリー」


「………言おう、かと思っていたんだけれど。
 でも言わないでおくわ、せっかくやリーマスが準備してくれたんだから」







はポッターの背後から出てきて、私の手を引いて部屋の中央へ進んだ。
そこには普通の椅子のなかにひとつだけ豪華な細工の施された肘置き椅子が混じっていて、
案の定というかなんというか、私はそこへ座らされた。

するとすぐに、目の前にお皿やナイフやグラスが準備されていく。
ブラックがギャルソンのようなポーズでわざとらしくそんなことをするもんだから、
なんだか似合いすぎていて悔しい気がしてくる。

私の次に、リーマス、ピーターが着席して、
最後にブラックがちゃっかりの隣に座るのを見届けると、ポッターがコホンと咳払いをした。







「―――さて、お姫様、」


「気持ち悪いわ」


「こんな時くらいいいじゃないか!
 で、リリー、食事の前に、君に渡したいものがあるんだ」







私は花束をとりあえず膝の上に置いて、ポッターがポケットから包みを取り出すのを見た。
その包みはやけに細長い長方形の箱だったから、とりあえず、その、指輪……とかではないと思う。
(ああいやだ!これって自意識過剰っていうやつかしら?)

差し出されたからには受け取らないわけにはいかなくて、
花束のときと同じような展開だわ、と思いながら、私はそれを受け取った。

「開けてみて」とポッターが促してくる。
この前みたいに悪戯グッズだったら今度こそ口なんかきいてやらないと決意し、私は蓋をそっと持ち上げた。


中から現れたのは、ピンクゴールドのボディにラインストーンで飾られた腕時計。
ムーブメントの蓋の部分は花の形をしていて、それを閉じれば、パッと見では時計だとは分からないかもしれない。







「君のご両親はマグルだから知らないかもしれないけれど、
 魔法界の古くからの慣習として、成人の贈り物は時計だと相場が決まっているんだ」


「そう……なの?」







テーブルの上のキャンドルの灯りで、ラインストーンがきらきらと輝く。
派手すぎない繊細なデザインに見惚れて、私は思わず指を伸ばした。







「“君が大人になったこの『時』を祝福し、
  そしていつまでも変わらない、幸せな『時』を過ごすことができますように”」


「え?」


「そういう意味を込めて贈るんだよ。普通は親から子供へ、なんだけどね。
 でもさっきも言った通り、君のご両親はこの風習を知らないだろうと思って」







ポッターは私の手から時計を取ると、反対の手で私の腕を持ち上げて、時計をつけた。







「このご時世、マグル出身の君はたくさん嫌な思いをしているかもしれない。
 だけど僕らは――僕は、君に出会えてほんとうに幸せだと思っているよ、リリー・エバンズ」


「…………ポッター?」


「魔法界に来てくれてありがとう、リリー。
 願わくはこの時計が、この素晴らしい『時』を、一生刻み続けますように」







そうしてこの男は、私の手の甲に唇を落とした。


突然のことに頭が真っ白になるけれど、私は反射的に手を引っ込めた。
「何をするの!」と言おうとしても舌がうまく回らなくて、「な、な、な、」と繰り返してしまう。







「ジェームズ!抜け駆け禁止!
 リリー、それ私が選んだんだよ!眼鏡に騙されちゃダメ!」


「ちょっと!それはまだ内緒だって!」







異議を申し立てる弁護士のように、が机を軽く叩いて言う。
ポッターは慌てての方を向いて黙らせようとするけれど、
リーマスやブラックは「もう何でもいいよ」といった表情で目の前の料理を眺めている。
とポッターの「天パ!」「言わないで!」というやり取りを聞いていると、
私の内心も十分に落ち着きを取り戻すことができた。







「―――はいはい、分かったから落ち着いて、
 私、が選んでくれる物って、とても好きよ。それから、ポッター、」


「え、僕?な、な、何だい?」







ポッターが間抜けな声を上げて振り向く。
私は手元の時計をキャンドルにかざしながら、ポッターのほうを見ずに言った。









「―――素敵な贈り物を、ありがとう。
 私が魔法界にいて嬉しいって言ってくれて、私も嬉しいわ」










ねえ、だから、いつの間にか『リリー』なんていう風に
ファーストネームで呼ばれていることにも、文句を言わないでいてあげるわ。


























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1月30日 ジェリリ一歩前進

*巨大イカ動物もどき説についての解説(クリックで展開)