「――……マクゴナガル先生…」
「お久しぶりです、。まさか女優になっていたとは…驚きました」
待って、わたしを置いていかないで、ねえ何がなんだかわかんない!
シーン3:フー・アイ・アム・イズ・ホヮット・ユゥ・ドゥ
混乱するを尻目に(尻目に見えているかどうかも怪しいが)2人はどこか緊張した面持ちで対面して座っている。
は出かけた時とは違って、テレビで着ていた服装そのままの姿であったから、
もしかして試写会終わって着替えもせずにそのまま帰ってきたのだろうか、と、は推測する。
「どうして先生が…なんて、白々しいですけど…でも、どうして先生が?」
「宛に出したフクロウが、家が見つからないと戻ってきたものですから。
、これほど厳重に結界の張られた家を探すのはダンブルドアでなければ難しかったでしょう」
「…忘れていました。でも、今日中にフクロウ除けだけは解除するつもりだったんです」
そうですか、とマクゴナガルが言い、そこでは改めて認識する。
マクゴナガルとの間で会話が成立していること。
結界とか、フクロウとか、ありえない単語が混じっていること。
つまり。
つまり、マクゴナガルは本当に魔法使いで、ドライフラワーが生き返ったような瑞々しさになったのも本当に魔法で、
ホグワーツも本当に存在して、そして、自分の母は本当に魔法使いで、自分は本当にその娘だということになる。
「ママ、魔法使いなの?」
「…そうよ」
「わたしも?」
「ええ、もちろん。だってわたしの娘だもの」
そこでマクゴナガルが、少し困惑した顔をする。
「、先ほどに聞いたのですが、この子の魔力は…」
「心配要りません、先生。この子は魔力を持っています。
3歳のときにちょっと封印したので、今まで表に出なかっただけです」
「なぜ封印を?いえ、確かにマグルの世界で暮らすのにしばしば魔力が暴走していては不都合かもしれませんが…」
ちらりと、がを見る。
「…この子が3歳のとき、庭で遊んでいて、うっかり道路に出てしまったんです。
そしたらちょうど車が通って…わたし、もうダメかと思ったんですけど…次の瞬間には、車が吹っ飛んでました。
わたしじゃないですよ、もう杖を折って4年目でしたから。いや、実際には折ったんじゃなくて仕舞っていただけですけど。
それで、まあ、このまま魔力を放っておいたらいつか誤魔化せなくなると思って…というのが理由です」
ちゃんと車は直したし運転手も記憶を修正しましたよ、とが言い添える。
は3歳の自分を思い出そうとしてみるが、まったく覚えていなかった。
「…は貴女に似ているようですね」
「わたしは車を吹っ飛ばした記憶はないですけど」
「そういう問題ではありませんが…いえ、そのような話をしに来たのではありません。
、実はダンブルドアから貴女にお願いがあるのです」
マクゴナガルが居住まいを正し、それにつられても背筋を伸ばす。
しかし頭の中ではさっきから話に出てくる『ダンブルドア』なる人物について想像を巡らせている。
「ダンブルドアは貴女に、ホグワーツで教授補佐をしてもらいたいと申しています」
「…なぜですか?」
「『防衛術』の今年度の教授ですが、」
コホン、とマクゴナガルが一拍置く。
そして少し眼差しを柔らかくして、困ったような表情を含んだまま微笑む。
「リーマス・ルーピンに内定しました」
は、隣に座っているの目がこんなに大きく開かれた瞬間を初めて見たように思った。
それほどまでにの目は驚きを湛えていたが、次の瞬間には懐かしそうに目を細めてしまった。
「…ああ…そういうことなら、補佐が必要にもなりますね…」
「それは、受けていただけるという意味に解釈しても構わないでしょうか?」
「―…の意思によります」
ふう、とサツキは溜息をついてから、を見た。
「ごめんね、。いきなりで訳がわからないと思うけど…
この世界には魔法が存在するの。実際にね。そしてわたしは魔女で、貴女にも資質がある。
けれど、それを強要したいわけじゃないの。嫌なら今までどおりに暮らせばいいわ。
だけどがそうしたいと思うなら、ホグワーツで魔法の勉強をすることもできる。今がそのチャンスなの。は…」
は一旦言葉を切る。
は、次に続く言葉に自分がどう答えるか、もう解っている気がしていた。
「…は、どうしたい?」
わたしは。
「わたし、ホグワーツに行きたい」
ママの卒業した学校を見てみたい。
『ダンブルドア』に会ってみたい。
わたしは、魔法使いになりたい。
は微笑んで、の頭をくしゃりと撫でた。
は、母が反対しないだろうことを解っている気がしていた。
「教授補佐を受けさせて頂きます、マクゴナガル先生。共々、お世話になります」
「…ええ、教師一同、みな貴女たちを心待ちにしていますよ」
自分の未来が魔法の道へ向かったことを確信し、は湧き上がる喜びをどう表現すればいいのか分からなかった。
ママと同じ学校。魔法使いの学校。ねえ、何がなんだかわかんない!
しかし現実にマクゴナガルは猫に変身して見せた。も魔法を使っていた。
いったい何がどうしてそうなったのかは理解できなくとも、これからどうなるかは理解できる。
たちまちに瞳を輝かせたを見て、の顔も綻ぶ。
その光景を見て、マクゴナガルは2人が親子であることを実感する。
親子なのだ。
家族なのだ。
そしてマクゴナガルは、欠落した部分に気付いている。
は、マクゴナガルが気付いていることを知っている。
「マクゴナガル先生、出来ればホグワーツでに姓を名乗らせたくないのですが…」
は突然のの言葉に、湧き上がっていた喜びが途絶えたのを感じた。
変わりにふつふつと浮かんでくるのは言いようも無い不安だった。
今までがそんなことを言ったことはなかった。
そんな言葉は、サマーキャンプや何かのスクールに申し込んだときに相手方から言われるものだった。
(ミス・と血縁関係にあるとわかれば、良くないことがおこるかもしれませんので。)
はいつも、そんな言葉を跳ね除けるを見ていた。
(はわたしの娘です。そのことについて隠すべき必要をわたしたちは感じません。)
「…もちろんです、。いえ…わたくし達としても、その方が安心です」
わたしは隠されなければいけないの?
ママの娘として生きてはいけないの?
急に不安そうな顔つきになったに、は申し訳無さそうな顔をする。
「あのね、。新聞にもテレビにも出てる脱獄犯がいるでしょう?
彼がどこから脱獄したのか報道されないことに気がついた?」
は静かに頷いた。
「彼は…魔法使いなの。あの監獄は脱獄不可能だって言われてたんだけどなあ…
…うん、それで…わたしはね、、…彼を、知ってるの」
が何を伝えようとしているかに気付いて、マクゴナガルは眉をひそめた。
「ホグワーツで……一緒に勉強したし、一緒に悪戯も、した。
彼がのことを知っているはずは無いけど、ほら、はわたしに似てるから…
もし苗字がおんなじだったら、わたしの娘だって、彼も気付くかもしれない。
気付いて、利用しようと近付いて来るかもしれない。危ないことに巻き込まれるかもしれない。
そんなことが起こらないとは言えないの。そんなことが起きてほしくないの。だから…ごめんね」
「…うん。わかった」
「それに教師と家族だってバレたら、みんなにエコヒイキって思われるかもね」
それはやだなあとが呟き、は微笑んだ。
マクゴナガルはがきちんと理解したうえで納得したことに驚いていた。
自分の娘に対して、子供扱いして誤魔化さずに説明しようとしたにも驚いていた。
そして、この親子には欠落した役割を埋めるほどの信頼があるのだと気付いた。
「ねえ、じゃあ『・アンドロニカス』とかどう?」
「なんでタイタス・アンドロニカスから取ってくるわけ?」
「じゃあ『・オセロー』とか『・リアー』がいいの?」
「悲劇ばっかりじゃん!」
のネーミングセンスに呆れた声を出すを見て、マクゴナガルは口元に笑みが浮かぶのを感じた。
大丈夫だろうと思えた。なら。なら。2人なら。
「、これから新学期までですが…」
「―ああ、はい。部屋があれば『漏れ鍋』に泊まろうと思ってますけど…」
「結構です。ダンブルドアもそうお考えで既に1部屋予約してありますから、準備が整い次第、出発して下さい」
マクゴナガルが立ち上がったので、も立ち上がる。
はどうしようか少し考え、に習って立ち上がる。
マクゴナガルは杖を一振りして服装を中世カトリック教徒から気品のあるローブに変えた。
「ミス・『・アンドロニカス』、新学期を楽しみにしていますよ」
そう言って2人に会釈するが早いか、マクゴナガルはぽっと音を立てて姿を消した。
結局アンドロニカスで決定してしまったらしいと感じながら、はに色々と質問したくてうずうずしていた。
今のは何ていう魔法?
漏れ鍋ってなに?
ホグワーツってどんなとこ?
「ほら、、支度して。明日はロンドンに行かなきゃ」
わたし、魔法使いになれるんだ!
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Who I am is What YOU do.
あなたが居るから、わたしが定まる。
わたしが居るから、あなたは生きる。
ちなみに『タイタス・アンドロニカス』も『リア王』も『オセロー』もシェイクスピアの悲劇。