ブナの木、芯はローレライの喉笛、30センチ、握りやすい。
わたしの記念すべき1本目の挑戦は、オリバンダーさんの頭に花を咲かせることで終わった。
オリバンダーさんは2本目をどれにすべきか考えている。
ハリーはオリバンダーさんを見て笑いそうになるのをこらえている。
花咲かせたまんまでいいのかなあ…
シーン9:カドゥケウスの伝令 3
「こちらをどうぞ」
続いては、樫の木・ドラゴンの爪・43センチ・扱いにくいが戦いやすい―
これは店の壁に亀裂で壮大な紋様を描くだけで終わった。(扱いにくいのに戦いやすいって、どういうこと?)
「いけませんな、では次」
クヌギ・キルケの髪・20センチ・防衛術に最適―
これは照明器具を残らず破壊した。
「いけませんな、次」
スギの木・バイコーンの尾・28センチ・冬はあまり調子が出ない―
これはさきほどの亀裂を噴水に変えた。
「いけませんな、次」
楢の木・河童の皿・33センチ・魔法生物に対して特に有効―
これはオリバンダーの頭から黄色いヒヨコを大量に発生させた。(巣だったの?)
「難しいですな、次」
マホガニー・キメラの蹄・36センチ・よくしなる―
これは今までのものよりマシで、バチバチと杖先から光の鞭のようなものを出した。
しかしオリバンダーはから杖を取り上げる。
「違いますな、次」
次、次、次、……
と、これはいいんじゃないかと思うような効果が表れても、オリバンダーはから杖を奪う。
は最初のうちはそれぞれの杖の長さまで覚えていたが、
何十本、と振らされるうちに最初の方の記憶はかなりおぼろげになっていた。
助けを求めてハリーの方を見ても、ハリーは苦笑しかしてくれない。
「では…あれを試してみますかな」
そう言うと、オリバンダーは店の奥の方へ姿を消した。
自分に合う杖なんて無いんじゃないかと、は不安になる。
「ハリー、わたし入学できないかも…」
「大丈夫だよ。僕だってこれくらいたくさん試したよ」
ハリーの言葉でなんとか持ち直し、オリバンダーを待つ。
オリバンダーはほどなくして蒼いビロードに包まれた箱を持って現れた。
「棕櫚の木・対のコカトリス・27センチ…
全ての杖の中でも最も優れた反応速度…お嬢さんの血筋にかけてみましょう…」
オリバンダーがビロードとその木の箱の蓋をも取りさり、に杖を渡す。
は、その杖に思わず魅入ってしまった。
すっと伸びた線に、艶のある胴。
握った瞬間に、の中で血が沸きあがるのを感じた。
これは、今までと違う。
が杖を振ると店の中には柔らかい風が巻き起こり、風が通った所は嘘のように美しくなっていく。
4本目の挑戦で出現した噴水からは水がとまり、2本目の挑戦で大幅に抉れた壁をも元通りにした。
3本目の挑戦で破壊された照明器具はその形を取り戻したし、ヒヨコも消えた。
「すごい……すごい!」
最後にオリバンダーの頭から花が跡形もなく消えてしまうと、
はいま起こったことがまるで夢の中の出来事のように感じられ、思わずハリーの方を向いた。
今の、夢じゃないよね?の目はそう語っている。
「さすがです、お嬢さん…お見事でした」
「わたし、この杖に気に入ってもらえたんですか?」
その通りです、とオリバンダーは答えた。
ハリーも笑顔で見ている。
「この杖の芯であるコカトリスは、鳥の胴を持ち蛇の尾を持つ生物です…
その吐息や視線を浴びた者はたちまちにコカトリスの餌食となるのですが…
知っていますかな、お嬢さん。コカトリスは、バジリスクとも呼ばれることがあるのです」
「バジリスク!?」
はもちろん知らなかったのだが、驚きの声をあげたのはハリーだった。
「バジリスクは大きな蛇のことじゃないんですか?」
「そちらもバジリスクです、ポッターさん。
もちろんです…あなたがお倒しになったのも間違いなくバジリスクでございますとも…」
には何の話かわからない。
「しかしコカトリスがバジリスクであることもまた間違いございません。
この杖は対となる2羽のコカトリスの尾を縒り、その羽を合わせたものが芯となっております。
お嬢さん、ご存知でしょうか、2匹の蛇と双翼とを象った杖が、古代に何と呼ばれていたか―?」
「わ、わかりません」
にはこの話がどこへ繋がるのかがわからない。
「――『カドゥケウス』、と呼ばれておりました、お嬢さん。
杖は力を、蛇は知恵を、翼は勤勉を表すと言われております。
そしていまお嬢さんを選んだこの杖は、大昔の杖職人ミゲーレ・パンサが、
伝令の神・ヘルメスの杖であるカドゥケウスを模して作った……と言われております」
話のうちの半分ほどしか理解できなかったが、それでもこの杖がすごいということはにも伝わってきた。
「神々の指令を託けるのがヘルメスの仕事でございますから、
当然、模した杖であろうともその速度は他の杖にひけをとりませぬ…
いやはや…やはりお嬢さんには良い魔力が備わっているようですな。
これほどの魔力、保持なさるのに苦労しなすったでしょう?」
「え…そ、そうですか?」
は3歳で最初で最後の魔法を使って以来、に魔力を封印されていたのだという。
苦労もなにも、こないだまで知りませんでした、とも言えず、は言葉を濁す。
もしかして封印してたから行き場がなくて膨張して…とか、そんなこともありえるのかな?とも思う。
(しかしそんなラップをかけてレンジで温めたような話が魔法に対しても有効なのかどうかは知らない)
「あの、いくらですか?」
はハリーに預けていたバッグから小切手帳とボールペンを取り出す。
値段を記した紙が見当たらないらしく、オリバンダーはしばしお待ちを、と言って再び店の奥へ消える。
やっと自分の杖を手に入れることが出来た。
しかも何だかよくわからないけど相当すごいものを。
はだれかれ構わず自慢したい衝動にかられる。
毎晩、寝る前にきれいに磨こう。ワックスとかつけて。
でも磨くのにはあのビロードはキレイすぎてもったいないから、別のもので……
「お待たせ致しました。9ガリオンと7シックルです」
「あの、小切手でもいいですか?」
構いません、とオリバンダーが言い、その間にハリーは一足先に店を出た。
「ご両親に――いえ、・にオリバンダーがよろしく言っていたとお伝えくだされ、お嬢さん」
「え?」
母親に似ている、と言われてはいたが、実はは半分信じていなかった。
オリバンダーはもうかなり年に見えるので、別の人と間違えている可能性だって否定はできないのだ。
しかし今、オリバンダーは『・』の名前を出した――
サインは『・アンドロニカス』となっているのにも関わらず。
じゃあ、本当に気付いてたんだ……
オリバンダーがテレビを見てを知ったということも考えられないので、結論はそうなる。
ぽかんとしているを、ガラス越しにハリーが不思議そうに見ている。
「あ…伝えておきます…」
ではなくアンドロニカスです、と答えることもできず、はそう返事をした。
蒼いビロードに包まれ、杖が仕舞われた華奢な木の箱を受け取り、は店の外へ出た。
「何の話をしてたの?」
「あー…ママの名前を言い当てられて、びっくりしたの。
わたし半信半疑で、似てる似てるって、別の人と間違えてたりするんじゃない?なんて思ってたから…」
「じゃあ本当に覚えてたんだ」
「そうみたい」
すでに夕陽に変わりつつある空の下、とハリーは今日の目的を果たし、帰路についた。
←シーン8
オープニング
シーン10→
↓反転で杖の解説
全体的にテキトーでごめんなさい…(でも楽しかった)
1本目(ブナの木、芯はローレライの喉笛、30センチ、握りやすい)
→たぶん、唯一マジメに考えた杖。喉笛がえぐい。
最初はローレライじゃなくてウンディーネだったけどウンディーネは歌わないことに気付いた。
2本目(樫の木・ドラゴンの爪・43センチ・扱いにくいが戦いやすい)
→長いので魔法を使うときは扱いにくいです。
戦うときには突き刺す武器になるので戦いやすいのです。
3本目(クヌギ・キルケの髪・20センチ・防衛術に最適)
→ホメロスの『オッデュセイア』が元ネタ。
キルケがオデュッセウスを殺そうとしたとき蝋燭を消した気がするので(うろ覚え)
オリバンダーの店の照明器具は、ぜんぶ破壊される運命になりました。
4本目(スギの木・バイコーンの尾・28センチ・冬はあまり調子が出ない)
→スギの木は春に花粉を撒き散らしてがんばっているイメージなので(よく知らん)
冬にはあまり調子がでません。最初はユニコーンだったけど何となく角は2本になりました。
5本目(楢の木・河童の皿・33センチ・魔法生物に対して特に有効)
→なんか楽しくなってきた頃。河童の皿をどうやって杖の芯にしたのか私が知りたい。
河童なので魔法生物にクリティカル。ヒヨコもたぶん魔法生物です。
6本目(マホガニー・キメラの蹄・36センチ・よくしなる)
→疲れてきた頃。かなりテキトー。いちばんテキトー。
カドゥケウス
→オリバンダーさんの言う通り。
ただし、以下は展開のネタバレも含むので気になるひとだけどうぞ。
実はママの出身寮はレイブンクロー。なので、『翼』=『勤勉』。
『蛇』と『力』=パパからの遺伝。の組み分けに影響します。