杖を買ったあとは『漏れ鍋』に帰ったけれど、ママは戻っていなかった。
しょうがないからハリーと夕ご飯を食べて、次の日の計画を練った。

次の日からはマダム・マルキンの店に行ったり、
フローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行ったりして、
新学期用に、制服とか教科書とか、必要なものをたくさん買った。


ほんとはいけないんだろうけど、魔法の練習もした。(ウィンガーディアム・レヴィオーサ!)


ハリーの1年生のときの話と、2年生のときの話を聞いた。
どんな友達がいて、どんな先生がいるのかも聞いた。
わたしはどうやら、ウィーズリー兄弟と気が合いそうだということがわかった。
でもだったらみんなと仲良くなれるさ、って、ハリーは言ってくれた。(嬉しい!)

魔法のスポーツのことを教えてもらった。(『クィディッチ』!)
チェイサー、キーパー、ビーダー、シーカー。
ハリーの試合のことも、勝敗から詳細まで全部聞いた。



そんな風にして、夏休みはあっという間にすぎていく。











  シーン10:野良猫よ、闘志を抱け 1











夏休みの最後の週がやってきた。

はここ数週間のうち、と過ごすよりもハリーと過ごす時間の方が格段に長かった。
ハリーは親友たちにのことを手紙で話していたので、
彼らがダイアゴン横丁にやってくる日にはみんなで会おう、ということになった。

にとっては願ってもないことだった。
これまで話の中でしか知らなかった『ロン』や『ハーマイオニー』に会える。
『双子』や『パーシー』や『ウィーズリーおばさん』と会うことができる。
それに『ウィーズリーおじさん』に会ったら、魔法を使わない生活についていっぱい話をしたい。




その日になると、期待に胸を膨らませたはハリーと一緒にダイアゴン横丁へ繰り出した。






「ハリー、こっちよ!」



ハリーにとっては聞きなれた女の子の声がパーラーの方から聞こえてきた。
ハリーは首をめぐらせ、そこに思ったとおりの赤毛とふわふわの栗毛を見つける。
ロンとハーマイオニーだ。
こっち、との服の裾をすこし引っ張って促し、2人はパーラーへ向かう。



「ここに居ればあなたを見つけられると思って…あら?」



久しぶりだの何だのとすこし言いあっていると、ハーマイオニーがを見て首をかしげた。
ハリーの影に隠れるように立っていたに気付いたのだった。



「こんにちわ、あなたが・アンドロニカスさんね?ハリーから聞いてるわ」

「うん!あなたはハーマイオニー?ハーマイオニーって呼んでもいい?」

「もちろん!シェイクスピア同士、仲良くしましょう」



ハーマイオニーはにっこりと笑った。
よかった、仲良くなれそうだ。は胸をなでおろす。



、こっちはロンだよ」

「よろしく、ロン。あ、ロンって呼んでいい?」

「ぜんぜんオッケーさ。ハリー、この子のどこがフレッドとジョージに似てるっていうんだ?」



いい子そうじゃないか、とロンが言う。
あなたお兄さまをバカにしちゃいけないわ、とハーマイオニーがたしなめる。



「バカにしちゃいないさ…悪魔のようだ、って思ってるだけで」

「―それで、どこを見る?」



放っておけばいつもの論争が始まってしまうので、ハリーがあとをつぐ。



「わたし、誕生日プレゼントを買いなさい、って両親にお金をもらったの。
 それで、ハリーやロンみたいにフクロウを買いたいのだけど…」

「うちのエロールは家族用だけどね」

「じゃあ、ペットショップ?」

「そうね。いいかしら、?」



なんだか話に聞いていた姿そのままだな、と3人を見てくすくす笑っていたは、
ハーマイオニーがちゃんとのことを気にかけてくれたので、ますます嬉しくなった。
仲間に認めてもらえたような気がしたのだ。

うん!とは元気よく返事をする。
『あの』手紙以来、じつはフクロウをあまり好きになれないことなんてこの際気にしないことにした。






ペットショップまでの道中、4人は色々な話をした。

のママはどんな人?とロンが聞けば、ヘンなひと、とは答えたし、
どう変なのかとハーマイオニーが訊ねれば、今までの出来事を事細かに答えたりした。
(―それで、晩御飯はイワシだったの。あれだけ観察してたのに、よくそんなこと出来ると思わない?)
(きみのママ、サイコーだ!)





ペットショップに着くと、ハリーとロンはロンのペットのネズミを店員に見せようとカウンターの方へ行った。
できればネズミよりは別の生き物を見ていたかったので、はハーマイオニーのあとをついていく。



「どんなフクロウにするか決めてるの?」

「それが、決めてないのよ。
 どんなフクロウがおすすめですか?なんて、マグルのペットショップで聞けないじゃない?
 動物園か自然公園に問い合わせて下さい、って言われるのが目に見えてるわ…」

「そうかも」



2人はフクロウのゲージをとりあえず端から見ていくことにした。

これはどう?といくつかのゲージの前ではハーマイオニーに聞いてみるが、
羽の模様が趣味じゃない、だとか、顔立ちがちょっと怖い、だとか、
なかなかハーマイオニーのお眼鏡にあうフクロウと出会えない。



「―クルックシャンクス、ダメ!」



フクロウのコーナーの終わりまで来てしまったとき、カウンターが騒がしくなった。
ロンとハリーはきょろきょろしているし、店員は慌てふためいている。
よく見れば騒動の中心ではオレンジ色の毛の塊が俊敏に動き回っている。



「…何を騒いでいるのかしら?」

「モップが暴れはじめちゃったんじゃない?」

「『魔法使いの弟子』?」



そうそう、とは言う。



「んん…そういうわけじゃなさそうね…あら、スキャバーズが…」



女の子2人がそんな会話をしているうちに、男の子2人は小さな影を追って店を飛び出てしまった。
オレンジ色のものは店の出口を睨みつけたまま唸り声をあげている。



「ネコ!」



毛の塊に見えたものは、その動きを止めるとネコの姿をしていることがわかった。
はネズミよりフクロウよりネコが好きなので(一番は犬だけれど)、それに近寄る。
ハーマイオニーはフクロウをもう一度じっくりと見なおしている。



「ネコちゃん、あのネズミはロンのだから食べちゃだめなんだって。
 おまえ、野良?…なわけないか、この店に住んでるの?」



なぁ、とネコが答える。
いや、返事をしたわけではないのだろうとわかってはいる。



「クルックシャンクスだっけ?ヘンな名前ねえ。
 でもわたしなんて『アンドロニカス』よ?『アンドロニカス』。縁起悪いと思わない?」



なぁ、とネコが答える。
店員がちらちらと様子を伺っている気配を感じ、は居心地が悪かった。
不細工なネコを抱き上げようか放っておこうか迷っていると、ハーマイオニーがやって来た。



「ハーマイオニー、フクロウじゃなくてネコはどう?」

「ええ?でもネコじゃあ手紙は……」

「クルックシャンクスはお利口さんですから、手紙も渡せますよ」



店員がここぞとばかりに話しかけてくる。



「喋れないにしても、人間の言葉だって大方は理解できますし、
 勉強の邪魔をするようなことは絶対にしない、と断言できます」



褒められていることを知ってか知らずか、クルックシャンクスは尻尾をぱたり、と動かす。
そのタワシのようにもじゃもじゃした尻尾は、の心をがっちりと掴んでしまう。
ヘンなもの好きの母の血が遺伝してしまったんだなあ、とは思った。



「不細工ねえ、クルックシャンクス。すごいかわいい」



はしゃがみ込んでクルックシャンクスの頭を撫でる。
クルックシャンクスは嬉しいのか嫌なのか目を細めた。



「この子、もう長いこと店にいるんですが、誰にも引きとってもらえないんです…
 お利口さんすぎるんですかね、とてもいい子なんですが…」



店員の言葉を受けて、ハーマイオニーはまあ、と呟いた。
そして座り込んでしまったのそばに同じようにしゃがんで、クルックシャンクスの顔をみつめる。

確かに不細工だが、愛嬌がある。とハーマイオニーは思った。
きっと、ずっと一緒にいたら大好きになるだろう。
それにが撫でているのに暴れもせず、人懐こさだって見て取れる。



「―あの、」



手紙を送りたければ、学校のフクロウを借りることだってできる。
ハリーに頼んでヘドウィグにお願いすることだってできる。
なら、わたしに出来る事はなんだろう?

ハーマイオニーは自問する。
答えは簡単だった。



「わたし、この子がいいです。この子にします」



ハーマイオニーの決断の早さに驚き、は思わず彼女の方を見た。
ハーマイオニーは決然として店員を見つめている。



「ありがとうございます…クルックシャンクスをお願いしますね」

「はい、もちろんです」



かっこいい、とは思った。



















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