クルックシャンクスは全体的にとってもオレンジだ。
健康そうというか、でもどっちかっていうと毒々しい感じ。

クルックシャンクスの尻尾は、もじゃもじゃしている。
それがピン!と逆立っているものだから、もうビン洗いのブラシとかにしか見えない。

クルックシャンクスの足は、がに股だ。
持ち上げようものならその形がよくわかる。

つまり、クルックシャンクスは不細工なのだ。
でもそこが魅力なので、ブサネコ、ブサネコ、といじめたくなってしまう。











  シーン11:野良猫よ、闘志を抱け 2











「不細工だけど、愛嬌があるわね」

「ブサイクだからかわいいんだよ!」



とハーマイオニーは、クルックシャンクスについての語りながら店を出た。
これだ、と思うようなフクロウがいなかったのは残念だったが、
この不細工なネコに出会えたので結果としてはよかったとハーマイオニーは思った。

しかし、問題がないわけではない。



「ロンは嫌がるでしょうね…」



問題はロンのペット、ネズミのスキャバーズである。

いま2人がクルックシャンクスと一緒に店を出るようなめぐり合わせになったのも、
元はといえばクルックシャンクスがスキャバーズを追い掛け回したのが発端だった。
ハーマイオニーには、このあとのロンの様子が予想できる。



「ロン、怒るかな」

「おそらくね。…その狂ったネコを追い返せ、とか言い出すに決まってるわ」



はそんなロンの姿を想像してみた。

スキャバーズを精一杯クルックシャンクスから遠ざけつつ、
ロン自身はネコなんかに屈しないぞという視線を投げかけ、
それでいて口ではハーマイオニーに文句をまくし立てる。



「顔をさ、耳までまっかにするんだよね」



ハーマイオニーは思わずふきだした。
どうやらハリーはそんなに細かいところまでに教えていたらしい。















「そのネコを近づけるな!」



とハーマイオニーの予想は的中した。

ロンは顔を赤くしてハーマイオニーに文句を言っている。
ハリーはその横で信じられない、という顔でクルックシャンクスを見ていた。
恐らく、ハーマイオニーの「かわいいでしょ」という発言を受けての表情だろう。


とハーマイオニーがクルックシャンクスを連れて店から出てすぐ、
ハリーとロンがもがき暴れるスキャバーズを捕まえて戻ってきた。
彼らはハーマイオニーの腕の中の不細工なネコを見て、一瞬固まった。
ハーマイオニーはそのネコを飼うことに決めた、と2人に告げた。


それから自分の想像通りにロンが喋る様子を、は黙って見ていた。



もこいつに何とか言ってやれよ!」

「え?クルックシャンクスはかわいいよ?」



論争のネタが尽きたのだろうか、ロンはに話を振った。
突然だったので、は思わずずれた答を返してしまう。



「いいじゃない、スキャバーズはあなたの男子寮、クルックシャンクスは女子寮よ!
 クルックシャンクスはお利口さんなんだから、あなたこそちゃんとしてなさいよね」



今回もハーマイオニーの貫録勝ちだな、とハリーは思った。

今までの2年間で、ハリーは会話のパターンを把握してしまったように思えた。
ロンが文句を言い始めても、ハーマイオニーがそれに屈することはほとんどないのだ。
がいれば少しは違う流れにもなるかと思っていたが、どうやらそんなに甘くはないらしい。


しかしこのネコのどこがかわいいのか、それだけは理解できそうにもない。















漏れ鍋に着き、ハリーとウィーズリー氏が会話をしていると、バーに入ってくる一団があった。
5人全員が燃えるような赤毛なので、一目で家族だということがわかる。

はハリーの背後からウィーズリー氏をちらりと見た。
もうかなり寂しくなっているとはいえ、かすかに残っているその毛もまた赤い。
ということはこの一団はウィーズリー一家なのだとは気付いた。



「ハリー!」



その一団から、赤毛のひとりが兄と思われる人物を肘で押しのけて飛び出てきた。
ぱっと見て判断するなら、ハリーたちよりも年上のように見えた。



「お懐かしきご尊顔を拝し、なんたる光栄―」

「ご機嫌うるわしく恭悦至極に存じたてまつり」



はアッと息を呑んだ。
全く同じ顔をした赤毛が2人、ハリーの手を握り合おうと争っている。

ということは、これが噂の双子のウィーズリーなのだ。

双子は標的をウィーズリー夫人に変えた。
夫人は彼らを制すと、さきほど双子に押し分けられた男の子を指差した。
その胸には銀色のバッチが輝いている。


あれがパーシー。
あの子はジニー。


実際のウィーズリー家の面々が、ハリーから教えられていた人物像に当てはまっていく。



「あいつをピラミッドに閉じ込めてやろうとしたんだけど、ママに見つかっちゃってさ」

「閉じ込めようとしたの!」



ハリーに話しかけていた双子の片方の言葉に、は思わず声をあげた。
ピラミッドに閉じ込めようとした?
はエジプトに行ったことがなかったのでわからなかったが、
閉じ込められたらきっと死ぬほど怖いだろうということだけは想像できた。



「パースなら閉じ込めても大丈夫だったさ!
 多少暗かろうが、なんたって彼はその胸に輝くバッチをつけているからな」

「そうさ、その為に暇さえあれば磨いてるんだから。
 ところで君、誰だい?」



同じ顔が再び現れた。



「フレッド、ジョージ、この子はだよ。
 僕と同じようにここにずっと泊まってたから、仲良しになったんだ」

「あの、・アンドロニカス、です。
 フレッドとジョージのこと、ハリーから聞いてたけど、本当に面白いね!」



ハリーがを双子に紹介し、も簡単に自己紹介をした。
は2人と握手をしたが、どっちがフレッドでどっちがジョージかはわからなかった。



「じゃあはジニーの1つ下の学年なんだな」

「うん。いろいろ教えてね」

「任しとけ。裏道、裏技、なんでも来いってな!」



例えば、とフレッド(もしくはジョージ)がまさに彼らの武勇伝を語ろうとしたとき、
それはウィーズリー夫人のゴホン!という咳払いで中断されてしまった。
夫人は目で双子と荷物とを交互に見ている。
(はやく荷物を片付けろ)という意味だろう、とは思った。



「おっと、お母上がおかんむりだ」



いつの間にか他のウィーズリー兄弟たちは各自の部屋へ戻ったようで、
バーに居るのは気付けばとハリーと双子と夫人だけになっていた。

フレッドとジョージは母親のもとへ駆け寄り、それぞれの大荷物を抱えた。
満足そうに頷くと、夫人はさっさと階段を上っていった。

手伝うよ、と言って、ハリーは双子の傍へ行った。
もハリーと同じで自分の荷物は無かったので、手伝おうと3人に近づいた。


しかし男の子が3人も居れば、が手伝うまでもなく荷物を運べるようだった。
仕方がないので、は最後尾について階段に足をかける。



?」

「ママ!」



2つか3つほど階段を上ったとき、マグル側の店の入り口からの声がした。
先を行く3人に一言断って、は一気に駆け下りるとの元へ走り寄った。



「よかった、ここに居て。夕食に行きましょう」

「えぇ?ここでウィーズリーさんたちと食べようよ」



の顔が曇った。



がお母さんと食べたくないって言うんなら、ひとりで食べに行くもん」

「そういう意味じゃなくて!」



唇を尖らせて拗ねた顔をするを、は軽く睨んだ。

は明日からはホグワーツで助手をすることになっている。
親子関係を伏せての着任なので、親子だけで食事ができるのは今日が最後なのだ。
明日からは「教授」と、「生徒のアンドロニカス」として振舞わなければならない。

ウィーズリー一家との夕食は確かに魅力的だが、はそのことも十分わかっていた。

ハリー達とはこれから1年、同じ学校に通うことができる。
たとえグリフィンドール寮になれなくても、友人として食事をする機会もあるだろう。



は何が食べたい?」



押し黙ったに、が微笑んだ。
は、が一緒に食事に行くことを嫌がったわけではないことをきちんと理解していた。
も、がわざとそう言ったに過ぎないことを知っていた。



「…フレンチ以外」



ただしあの面倒くさいコース料理だけは御免だ!という思いを込めてを見た。



















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