それから汽車は順調に旅を続けて、窓の外はもう景色が見えないほど暗くなった。
ジニーが戻ってこないけど、フレッドとジョージは心配してないみたいだった。
「いいか、、組み分け帽子を被るときはお辞儀をするんだぞ」
「そうだ、それで、大きな声で挨拶をするんだ」
「態度が悪いとスリザリンだぞ!」
「帽子に噛み付かれるぞ!」
「うそだぁ!」
もうすぐ、駅に着く。
シーン15:ハロー! 1
汽車がホグズミード駅に到着し、たちはホームに降り立った。
ホームは狭く、大人数が移動するのは不可能なように見えた。
あちこちでネコやフクロウの鳴き声がする。
ここで転んだら踏み潰されそうだな、とは思った。
雨で滑りやすくなっているのだ。気をつけなければ。
「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」
大きな声がした。
あとでね、と言って双子と別れ、は声の方向へ進んだ。
はハリーからハグリッドについても聞いていた。
大きな体で、髭や髪が顔を覆い隠していて、ぱっと見はとても恐ろしい。
しかしその内側はとても純情で優しく、少しうっかりしているのだという。
ハリーの言った通りだ、とは思った。
ランプを持った巨体は、何も知らなければ恐怖でしかなかっただろう。
しかしハグリッドの「足元気ぃつけろ」という声はとても優しい。
どれくらい歩いただろうか。
険しくて狭い小道を、他の一年生と連れ立って降りていく。
みんな黙っている。緊張しているのだ。
誰かに話しかけたかったが、汽車の中ではずっと双子と一緒だったので知った顔がない。
「あれがホグワーツだ!」
角を曲がったとき、急に道が開けた。
眼前には大きな湖が黒く浮かび上がっていて、向こう岸の高い山の上に城が見えた。
大きいものから小さいものまで様々な大きさの塔が立ち並んでいる。
窓は煌いていて、夜空がそこまで下りて来ているようだった。
おお、という一年生の声が上がる。
ここからはボートで進むようだ。
はハグリッドのボートに一番近いものに乗り込んで湖を進んだ。
転覆したらどうしよう、と思わせながらもボートは無事に対岸についた。
途中の崖下で頭を打ちそうになったが、とっさにかわした。
一行は石段を登っていく。
やがて大きな木の樫の扉の前についた。
ハグリッドが扉をどすんと叩く。(もはや殴ると言ってもいいような勢いだ)
すぐに軋んだ音をたてて扉が開き、「ハグリッド!ご苦労さま!」という声が聞こえた。
ハグリッドのすぐうしろに居たは声の主を見て驚いた。
恐ろしく小さなおじいさんだった。
髪はくしゃくしゃで真っ白に輝いている。
「フリットウィック先生、イッチ年生です」
「よしよし皆さん!中に入ってください!」
キィキィした声でおじいさんが喋った。
彼も教授であるらしい。
一年生たちはなんとか小さな部屋におさまりきった。
「ホグワーツ入学おめでとう!」
フリットウィック先生が組み分けについて喋りだしたが、の耳にはほとんど入らなかった。
先生の声は甲高かったし、何よりもどくどくと打ち付ける自分の心臓の音がうるさかった。
帽子をかぶる。それだけだとわかってはいるが、どうしても緊張してしまう。
できればグリフィンドールに入りたい。みんなで遊びたい。
ああ、本当にお辞儀をするべきだろうか。
「さて皆さん、それでは行きますよ!」
はお辞儀についての説明を聞き逃してしまったようだ。
どうしよう、と思いながらはフリットウィック先生について大広間への扉を通り抜けた。
まさに幻想的な光景だった。
蝋燭が何千本と宙に浮かび、上級生を照らしている。
天井は星空を映しだしていて息をのむほど美しい。
そして上座には教職員が座っている。
は教職員席にルーピンを見つけた。
相変わらずボロボロでくたびれていたが、見知った顔を見つけることで想像以上に安心できた。
ルーピンの隣に座っているのは黒ずくめの男の人だった。
は直感で悟る――魔法薬学だ!
そうしている内にフリットウィック先生がスツールを置いた。
その上には帽子が乗せられている。
あ、と思った時には帽子は歌いだしていた。
ぱっくりと裂けた部分が口なのだろうか、は帽子を凝視した。
他の一年生も同じように帽子をじっと見ていて、歌などあまり聞こえていないようだ。
ただし上級生はくすくす笑いながら見ている。
なるほど、緊張も解けた2年目からは余裕を持って歌を聴くことができるだろう。
喝采の拍手では我に返った。
帽子の歌がおわったらしい。
「それではABC順に名前を呼びます!呼ばれたら座って帽子を被ってください!
えー、では―――アンドロニカス・!!」
え?
の頭の中は真っ白になった。
自分が「・アンドロニカス」であることをすっかり忘れていた。
Andoronicus.
そうなのだ。トップバッターなのだ。ではなくて。
これでは他の人がお辞儀をするかどうか確かめることが出来ない。
はぎくしゃくと歩き出した。
誰かが助けてくれないだろうか、と視線をあちこちに泳がせる。
(ルーピンがと目が合ってすこし微笑んだがお辞儀についてのアドバイスはなかった)
――いちばん端のテーブルで双子が何やらジェスチャーをしている。
スツールの真横に立ち、帽子を手に取ったに、双子の姿が見えた。
その意味するところはやはり、汽車の中で言っていたことだろう。
(態度が悪いとスリザリンだぞ!)(帽子に噛み付かれるぞ!)
「………っ、よ!よろしくおねがいしますっ!」
頭を下げ、同時に帽子をうやうやしく頭上に掲げながらはできるだけ大きな声で言った。
だからグリフィンドールに入れてください!
噛み付かないでください!
大広間中が爆笑につつまれるのを聞きながら、は椅子に飛び乗ると帽子を耳の下まで下げた。
(―――ハッハッハ!元気のいいお嬢さんだ!)
だってそうしなきゃ噛みつかれるって…
(―――そんなことを言うのは双子のウィーズリーだね?)
(―――心配しなくても、私は噛みついたりしないよ)
だまされた…!
(―――イヤイヤ、大いに結構。君の将来が楽しみだ)
(―――さて君は…おや、・の娘だね。それに……)
それに?
(―――ふむ、まあいい。君が・の娘であることに変わりはない…)
(―――さてどこに入れたものか…レイブンクロー…いやそれとも…)
グリフィンドール!
(―――…なるほど…グリフィンドール…確かに…素質はある)
(―――君はグリフィンドールがいいのだね?後悔しないね?ならば…)
「グリフィンドール!!」
は帽子を勢いよく頭から引き抜いた。
グリフィンドールのテーブルで見知った顔が手を叩いて大喜びしていた。
ロンとジニーは顔中を笑顔でいっぱいにしているし、
フレッドとジョージは立ち上がって指笛を吹き鳴らしている。
騙されたことなどすっかりどうでもよくなって、は立ち上がった。
グリフィンドールに入れた。
そのことだけが頭の中をめぐっていた。
「よう!サイコーだったぜ!」
「ああ、本当にやるとは思わなかった!」
「やっぱり騙したのね!」
双子にエスコートされながら、はグリフィンドールのテーブル席についた。
ちゃっかりとフレッドとジョージはを挟むようにして座った。
正面の席はジニーだ。胸をおさえて笑いを噛み殺している。
はきょろきょろと見回したが、ハリーが見つからない。
いやそれにハーマイオニーも見当たらない。
「あの2人はマクゴナガルに呼ばれてるんだ」
「何かあったの?」
さあね、とロンは肩をすくめた。
想像しても仕方がないので、も周りの生徒と同じように組み分けを見守ることにした。
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