わたしが帽子に妙な挨拶をしたからだろうか。
その後の組み分けでも、何人かがお辞儀をしたり挨拶をしたりしていた。
ああ、どうしよう、みんなごめんね…!
結局ハリーとハーマイオニーが来たのは最後のひとりがハッフルパフに組み分けられた後だった。
シーン16:ハロー! 2
「あーあ、組み分けを見逃しちゃったわ」
ハーマイオニーが残念そうに言った。
マクゴナガルはきびきびと教員席に戻っていく。
ハリーはグリフィンドールの席にがいるかどうか首を伸ばして探した。
「今年は見物だったんだ。2人とも惜しいことしたなあ」
「見物ってどういうこと?」
ロンが指でこっそりと双子の方を示した。
「だよ。双子にサンドイッチされてる。
グリフィンドールだったんだけど、もう凄いのなんのって…」
「何なのよ?」
ハーマイオニーがじれったそうに訊ねた。
「、帽子を被る前にお辞儀して挨拶したんだ。帽子にだぜ!
つられて何人かおんなじように挨拶した奴もいたけどがやっぱ一番だった」
「まあ!」
ハーマイオニーが『なんだってそんなことしたのか全くもって理解できない』という感じの声をあげた。
それはハリーとしても同じ気分だったが、およそ1ヶ月一緒に居ただけあってそこまでの衝撃ではなかった。
ハリーにとっては何よりもがグリフィンドールだったことの方が嬉しかった。
「それで、何だったんだ?」
「ああ、マダム・ポンフリーが…」
ロンがハリーにこっそりと聞いた。
ハリーが耳打ちで説明しかけたところで、ダンブルドアが立ち上がった。
さすがに校長の話の最中に私語をする勇気はない。ハリーは言葉を切った。
「新学期おめでとう!皆がご馳走でボーっとなる前に、ひとつ深刻なお話がある」
ハリーは吸魂鬼がコンパートメントに入ってきたとき以来、初めて安心できた。
ダンブルドアは咳払いをして言葉を続けた。
「皆も知っての通り、我が校はアズカバンの吸魂鬼を受け入れておる。
魔法省の用事で来ておるのじゃ。吸魂鬼たちは学校への入り口をすべて固めておる」
ダンブルドアが吸魂鬼たちのことを嫌っている、ということをハリーは思い出した。
話題が話題というのもあってか、ダンブルドアの表情は心なしか暗いようだ。
「あの物たちがおる間は、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。
変装やイタズラに惑わされる相手ではない―『透明マント』ですらじゃ」
ハリーとロンはちらりと視線を交わした。
さらりと付け加えられた言葉だったが、誰に向けてのものかは瞭然だ。
「一人一人に忠告しておこう、皆に危害を加えるような口実を作るでないぞ。
まだ到着しておられんが、実は今年は1人、補助の先生を招いておる。
その先生には吸魂鬼のパトロールもお任せすることになっておるのじゃ。
男女の新任の首席よ、その先生に協力してくれるよう、頼みましたぞ」
パーシーがふんぞり返るのがわかった。
ハリーにはがきょろきょろしているのも見えた。
「楽しい話題に移ろうかの」
ダンブルドアは言葉を続けた。
「その助手の先生とは別に、もう2人、新任の先生を迎えることとなった。
まずルーピン先生。『闇の魔術に対する防衛術』の担当をしてくださる」
あまり気のない拍手がおこったが、ハリーたちは力一杯手を叩いた。
ルーピンの汽車での行動は、この教科を担当するのにふさわしいと思わせるものだった。
やっとマトモな先生が来た、と思ったとき、ハリーはスネイプの表情にギョッとした。
いつも以上に憎らしそうな目をしている。
しかし今回のその視線の先はハリーではない。ルーピンだ。
またしても『防衛術』の担当になれなかったので、恨めしさもひとしおなのだろうか。
「もうひとりは『魔法生物飼育学』のケトルバーン先生の後任として、
ルビウス・ハグリッドが森番の仕事に加えて教鞭をとってくださることになった」
手足が一本でも残っているうちに、ということらしい。
はその表現に恐ろしいものを感じたが、他の皆はそうでもないようだ。
はちらりと再び辺りを窺った。
を探していたのだ。
『まだ到着していない』とはどういうことなのだろう。
は手を打ちつけるように拍手をするハリーと目が合った。
グリフィンドールだったよ、という意味をこめて少し手をふると、ハリーも笑顔を返した。
「さあ、宴じゃ!」
ダンブルドアの掛け声と共に、の目の前の金色の食器に食べ物が溢れた。
ゴブレットには飲み物が満たされている。
目を見張るほど豪華な夕食だった。
*
デザートもほとんど食べ尽くした頃、教職員テーブルでフリットウィックが立ち上がった。
先生はとても小さいので気付いた生徒はあまり居なかったが、はしっかりと目撃した。
同時に、ほんの少しだけ大広間の扉が開かれ、ギッという微かな音が漏れた。
フリットウィックは扉に近寄ると、何やら手振りをしながら職員テーブルの方を指差している。
誰かと話をしているようだった。
まさか。とは思った。(だとしたら、大遅刻だ!)
不意にダンブルドアが立ち上がり、扉に向けて手招きをした。
の懸念は現実となった。
生徒が何事かと見守る中ようやく姿を現したのは、母、・だった。
黒のワイドパンツに、オフホワイトのカッターを着ている。
髪は結ったりせずに流れるままにしていて、足の動きと一緒になって背中で揺れていた。
・だ!という声が、どこかのテーブルから聞こえてきた。
同時にざわめきが大広間を満たす。
―・だ!本物だ!
―だれ?有名人?
「あー、オホン!静かにしてもらえんかの。さきほど少し触れた助手の先生を紹介しよう。
君たちのなかには彼女を知っておる者もおるじゃろうが―・先生じゃ」
教職員テーブルには向かわず、は組み分けが行われたあたりで佇んでいる。
「先生はホグワーツのOGで、卒業後は闇払いとして活躍なさっておった。
ご家庭の事情から今はマグルの世界で女優をしておるが、実力は折り紙付きじゃ。
先生には主に『防衛術』の高学年の授業での補佐と、夜間の警備を担当して頂く」
ぺこり、とがお辞儀をした。
一部の生徒が熱烈な拍手をした。恐らくマグル出身の生徒たちなのだろう。
は顔から火がでるかと思うほど恥ずかしかった。(まさかこんなに遅刻するなんて!)
「さて、宴もここまでとしようかのう。
さぞかし満腹で頭がぼーっとしておることじゃろう、それ、駆け足!ゆっくりおやすみ!」
明日の授業が終わったら真っ先に文句を言いに行こう、と決心しては席を立った。
ダンブルドアの言う通り、お腹がいっぱいで頭がぼんやりしていた。
ハリーとロンとハーマイオニーがハグリッドにおめでとうを言っていた。
1年生に『飼育学』がないのが残念だったが、少し安心でもあった。(手足残らないかもしれないし)
が玄関ホールに向かうのが見えた。
もうパトロールでもするのだろうか、と思った。
は人ごみに流されるようにしてグリフィンドール塔へ歩いていく。
「フォルチュナ・マジョール、たなぼた!」
パーシーの声が響いた。
は『太った婦人』の肖像画の奥の穴を登りながら溜息をついた。
明日の朝飯を食べるために、大広間へ迷わずたどりつける自信がないのだった。
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