天蓋付きのベッドはふかふかで、とっても気持ちよかった。
同じ部屋になった子と少しだけ話をして、わたしたちはランプを消した。
(明日の朝は一緒にご飯行こうね)(道わからなかったらどうしよう)
グリフィンドールだ。
わたしハリーたちと一緒の寮に入れたんだ!
シーン17:レディ?
翌朝、はまたしても双子にサンドイッチされながらの食事となった。
談話室に降りた途端に担ぎ上げられ、ここまで連れてこられたのだった。
一緒に居た部屋の子たちは呆気に取られながらもついてきて、今はの正面側に座っている。
「普通に案内してくれればよかったのに…」
まあいいじゃないか、と言ってフレッドは笑った。
ジョージはこれでもかという量のベーコンをの皿に盛ってくる。
「ジョージ、食べきれないよ」
「まあいいじゃないか。俺たちのことめっちゃ気に入ってんだ。
何たって、帽子に挨拶したイッチ年生だからな…ジニーですらやってくれなかった」
が反論しようとしたところで、マクゴナガル先生が時間割を配り始めた。
フレッドがに一年生の時間割を渡し、
ジョージはハリーたちのほうに三年生の時間割を渡していた。
「、一時間目からスネイプか!」
「えぇ!?嘘!」
確かに一時間目は『魔法薬学』となっている。
最悪だ、よりによって記念すべき第一回目からスネイプだなんて。
はベーコンを掻きこんだ。
*
地下牢教室は異様な雰囲気を醸し出していた。
ヌメヌメしていそうなものがつまったビンや、怪しいものがたくさんある。
スネイプが出席を取り始めた。
「・アンドロニカス……ああ、この授業では教科書に頭を下げて懇願しなくて結構だ」
スリザリンから(ひょっとしたらグリフィンドールからも)笑い声が聞こえた。
頼まれたってアンタに頭を下げるなんてことするもんか――は歯を食いしばった。
スネイプはマントを翻して材料の棚に近づいた。
いかに魔法薬学が高尚な学問かということを演説している。
にはスネイプの言葉が右から左へ抜けていくようだった。
「―きみたちが真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えてきた間抜けどもより
諸君がまだましであれば少しは理解することもできるであろうが……・アンドロニカス」
「え?」
来た、とは思った。
(アスフォデルの球根の粉末とニガヨモギは『生ける屍の水薬!)
(モンクスフードとウルフスベーンはトリカブト=アコナイト!)
(ベゾアール石は解毒剤でヤギの胃袋!)
はハリーから教えられたことを頭の中で唱えた。
どうか質問がこの3つのどれかでありますように!
「『生ける屍の水薬』は―」
「ア、ア、アスフォデルの球根の粉末とニガヨモギです!」
スネイプは憎らしそうにを見た。
「―その2つが材料だが、アンドロニカス、この薬を煎じる際の理想的な中間段階を述べよ」
そんなの知らない!とは思った。
『生ける屍の水薬』の完成状態がどんなものかも知らないのに、
いきなり中間状態について聞かれてもわかるわけがない。
(どうしよう、どうしよう、わかりませんって言うの、なんか、イヤ!)
なんとかしてスネイプをぎゃふんと言わせたかった。
どこかで見たことは無いだろうか、誰かが言っていたことはないだろうか。
は必死で記憶を辿る。
あ!
が借りてきた本をハリーに見せたときのことを思い出した。
そうだ、あの本でハリーは『生ける屍の水薬』についても調べていた。
課題の薬と比較する、という設問があったはずだ。
思い出せ、思い出せ、『水薬』の中間状態は――
「『クロスグリ色の滑らかな液体』……です」
スネイプは不満そうに鼻を鳴らした。
正解だったことをは悟った。
「……結構。それでは各自、板書を取りたまえ」
その日の授業はニキビを治す簡単な薬を調合した。
の薬はまあまあ満足のいく仕上がりだったが、
他の生徒(グリフィンドールもスリザリンも)はほとんど出来上がっていないようだった。
1点くらいもらえるかな、と思ったが、やはりスネイプはグリフィンドールに加点はしなかった。
まあいい、これから頑張って加点せざるを得ないような成績を修めよう、とは思った。
少し、魔法薬学が好きかもしれないと思った。
「アンドロニカス」
薬品棚に材料を戻していると、スネイプが小声でを呼んだ。
他の生徒は気付いていないようだ。
なんですか、と返事をする。
「…きみの母に本を早く返すよう伝えたまえ」
「え……」
するとやはり、が本を盗ってきたのはスネイプからだったのだ。
は申し訳ない気分になった。
「す、すいません、言っておきます…!」
地下牢を出るとき、は気付いた。
スネイプは自分がの娘だということを知っているんだ。
授業はどれも刺激的で、楽しかった。
マクゴナガルの変身術ではマッチを針に変えた。(は色しか変えられなかったが、それでも上出来だった)
フリットウィックの呪文学では、まだ板書ばかりだ。(なのでは激しい睡魔に襲われた)
スプラウトの薬草学は妙なキノコの収穫をした。(おいしそうだった)
天文学は夜空がとても綺麗だった。
ただし、魔法史はにとって休み時間となっていたが。
に会うことはほとんどなかった。
『防衛術』の高学年の授業で決闘の模擬をしたくらいらしい。
「すっげー迫力だったんだぜ!」と双子がに教えてくれた。
一年生の『防衛術』は金曜日の最後の授業だった。
いよいよ明日だ。
マルフォイが手を包帯でぐるぐる巻きにして昼食の場に現れた。
痛そうに顔をしかめているが、うそ臭さがぷんぷんしていた。
「わたし、アイツほんとに嫌いよ」
「うん、最低だ」
が顔を歪めてハリーに言うと、ハリーはさっきの魔法薬学でのことを話し始めた。
どうやらスネイプは今日もスリザリン贔屓を炸裂させたらしかった。
なんてイヤな奴だろう、とは思った。
ホグワーツ特急での出来事はまだの記憶に新しい。
自分だってあんなにビクビクしてたくせにハリーをバカにするなんて!
「シリウス・ブラックが目撃されたって」
知ってる?とハリーがに聞いた。
は初耳だった。知らない、とハリーに答える。
「マグルの女性が目撃したって。この近くらしい…
は何か…知らない?その、僕とブラックのことで…」
ハリーは声を落としてに訊ねた。
ロンとハーマイオニー以外でウィーズリー夫妻が話していたことを知っているのはだけだ。
「マルフォイが僕にやたらと突っかかるんだ。まあ、それはいつものことなんだけど…
でも今回は『知らないのか』とか『自分だったらブラックに復讐する』とか…何なんだろう?」
「ハリーがブラックに何かされた覚えがないなら、昔のことなのかも…
ねえ、ブラックってたしか34歳くらいだよね?」
ハリーはうん、と頷いた。
『たしか』と冠したものの、はブラックの年齢は確実に34歳だと知っていた。
だって彼は、と同級生だったのだ。
話に聞く限り、ハリーの両親も生きていればそれくらいだったはずだ。
何か関係があるのだろうか?
「マルフォイの出鱈目かもしれないけど、わたしも調べてみるね」
ありがとう、とハリーは言った。
ロンやハーマイオニーはこういう反応はしてくれなかったな、と思った。
もちろんそれは一年生のときにマルフォイに騙されてフィルチと鬼ごっこをした経験があるからだ。
それはわかっている。はそこまで知らないから真剣に受け止めてくれるのだ。
それでもやっぱり心配してもらえるのは嬉しい。
「は次の授業はなに?」
「飛行訓練なの!」
はたちまち顔を輝かせた。
漏れ鍋に泊まっているときからずっと、はこの授業を楽しみにしていた。
ハリーと一緒にダイアゴン横丁でファイアボルトを見ては、飛ぶ自分を想像したものだった。
さすがに最初の授業からクィディッチはさせてもらえないだろう。
それでも箒に跨って飛ぶということは、子供なら一度だって夢に見たことがあるだろう。
「僕は『防衛術』だ」
「いいなあ」
わたしも三年生がよかった、とは言った。
が同級生だったら、どうだろう?とハリーは思った。
賢者の石のとき、地下へ一緒に来てくれたんだろうか。
秘密の部屋のとき、一緒にバジリスクと戦ってくれたんだろうか。
「うん、が僕らと同じ学年ならもっと良かった。
でも今は友達なんだから、どっちでもいいよ」
それは紛れもない本心だ。
ホグワーツに来て、たくさん友達ができた。
ダーズリーの家では考えられなかったことだ。
が同級生ならよかった?たしかに良いに違いない。
けれど、それならロンやハーマイオニーだってダーズリーの近所に住んでいればもっとよかったんだ。
「ありがと。わたしもハリーと友達になれたからよかったよ」
の笑顔がハリーの心に焼きついた。
いくらマルフォイが憎たらしくても頑張っていける、とハリーは思った。
←シーン16
オープニング
シーン18→