ルーピン先生の授業になった。
昨日の三年グリフィンドールの授業では、スネイプ先生にドレスを着せたらしい。
うちの授業でもしてくれないかなあ…指差して笑ってやるのになあ…



「じゃあ授業を始めるよ」



だけど先生が始めたのはまず『闇の魔術とは何か』ということだった。
1年生だもん。しょうがないけどね。わかってるんだけど。

でもやっぱり、ドレスのスネイプ見たかった!











  シーン18:アマルテアの優しい子猫 1











それからひと月ほど経ち、新入生たちも学校の雰囲気に慣れてきた。
それはもちろんだって同じことだった。
相変わらず学校の中で迷うことは多いものの、授業は楽しい。

はハーマイオニーの気持ちがよくわかる気がした。
今まで「魔法は存在しないもの」として生きていたのに、今はそれが目の前にある。
こんなにステキなことはないのに、どうして勉強せずにいられるだろう。(魔法史は別だ)
には魔法の才能が少しばかりあったようで、頑張れば結果が出るというのも励みになった。



は相変わらず姿をあまり見せない。
食事でいえば夕食しか現れず、授業でいえば5年生以上のときしか現れない。
もしかしたらの授業を受けられるかと思っていたには、少し残念だった。

たまに廊下で見かけると、たいていマグル出身の生徒たちに囲まれている。
サインをねだられている様だった。
そういう時は「今は女優じゃなくて先生だから」と、やんわり断る声が聞こえてくる。

ハーマイオニーも何度か物欲しそうにを見ていたことがある。
魔法族の子よりも成績がいいので忘れがちだが、そういえば彼女もマグル出身なのだ。
ブラックが逮捕されて親子関係を隠す必要がなくなったら、
ハーマイオニーにサインしてあげるように母に掛け合ってみよう、とは思った。
だからそれまではしがない娘で我慢してほしい。



そういうわけで、10月になって最初の週末。
は女子寮の自室を出て、ハーマイオニーの部屋に向かった。
浮遊呪文のコツを聞くつもりだったのだ。

彼女は紅茶のセットを前に腕をくんでしかめっ面をしていた。
入り口から首を伸ばしてみると、飲み干したカップをじっと見つめているようだった。



「ハーマイオニー?」



ハーマイオニーの肩がびくんと跳ねた。



「あっ…ああ、。びっくりしたわ、いつから居たの?」

「たった今。何してるの?」



ハーマイオニーはを招き入れ、滓が溜まったカップを見せた。
まさか飲めというのだろうか。は首をかしげた。



「何に見える?」

「え?」



なおも彼女はカップを差し出してくる。
ああ、飲み干したんだな。という以外に感想は何もない。



「……別に、何にも」

「犬は?」

「…………あー…えっと、ここをホラ、こうして見ると…少しは……」



はカップを受け取って様々な角度からそれを見てみた。
犬は見えてこないが、ひしゃげたケーキのようなものなら見えるかもしれない。

カップを返すと、ハーマイオニーは深く溜息をついた。



「そうでしょう?紅茶の葉っぱが何に見えようが、それってその人の主観じゃない。
 そんなことで人の生死を予言するなんて、バカバカしいにも程があるわ」

「…何かあったの?」



ハーマイオニーは恨みを込めた口調でトレローニーについて語りだした。

―あんなのはインチキだわ、それっぽく言えば誰にでもできるもの
―口を開けばグリム、グリム、グリム、なんとかの一つ覚えみたいにそれっばかり!

要するにトレローニーがハリーを死なせたがっているのが気に入らないらしい。
たしかにちょっと鬱陶しいかも、とは思った。
3年生になったら、占い学じゃなくて数占い学にしておこう。



「そしたらあの人、今度はネビルにむかって――」



(あれ?)


ハーマイオニーが腕を振り上げたとき、彼女の首もとがきらりと光った。
目を凝らすと、金色の鎖のようなものが掛かっているように見えた。



「ハーマイオニー、ネックレスしてる?」

「えっ!?」



鎖、とはハーマイオニーの首を指して言った。
ハーマイオニーは明らかに動揺している。



「えっ…ええ、まあ、そ、そうね、頂いたの…あの、ほら、誕生日に!」

「そっか、ハーマイオニー9月だったもんね。見せてもらっていい?」



ハーマイオニーはかなり躊躇いがちに鎖を持ち上げた。
するすると出てくるそれは結構な長さがある。
余裕で首2つくらいなら通せるかもしれない、とは思った。

チャーム部分が現れた。小さな金色の砂時計のようだ。
キラキラしていて、可愛らしい。



「かわいい!」

「そ、そうかしら?ありがとう」



かなり本格的に作られているようで、きちんと砂が入っている。
フレームに彫ってあるのは見たこともない文字のようだ。
もしかしたらハーマイオニーがたまに見ているルーン文字なのかもしれない。
読めないなりに、伝わってくるものがある。

はふと自分の懐中時計を思い出した。
この砂時計よりは大振りだが、長めのチェーンを通せばペンダントにできるかもしれない。



「わたしはねー、ママがくれた懐中時計なら持ってるけど、これがまた使えないの!
 文字盤ないし、指針もないし、それだったら砂時計がよかったなぁ…」

「文字盤も指針もないの?」



砂時計を仕舞いこみながらハーマイオニーが驚いたように言った。
は懐中時計が入っているかどうかポケットを漁るが、やっぱり飴しか入っていなかった。
そういえば昨日か一昨日かに枕元に投げたような気がする。



「持ってくる!」



物知りなハーマイオニーならあの役立たずについて何か知っているかもしれない。
なんたって実は魔女だったがくれたものなのだ。

は少し期待しながら自室に向けて走り出した。





















ハーマイオニーの部屋に戻るとクルックシャンクスが彼女の膝の上に乗っていた。
ラベンダーとパーバティは相変わらずトレローニーの部屋へ入り浸っているらしい。

はハーマイオニーに懐中時計を手渡した。
時計とは言ってもやっぱり指針はないし、文字盤もないのだが。


から時計を受け取ると、ハーマイオニーはそれを丹念に調べだした。
ひっくり返したり、裏蓋を外してみたり。



ハーマイオニーの顔が険しくなった。



「ハーマイオニー?」

、これはとても希少なものかもしれないわ」



彼女が言ったことを即座に理解できず、はぽかんと口を開けた。
希少なもの?…ってことは、高価なもの?
ハーマイオニーはお構いなしで立ち上がり、彼女のトランクを引き寄せた。



「何かの本で見たわ…『魔具とその歴史』…ううん、これじゃなくて…
 もっと軽い本だった気がするのよ…もっとくだけた内容の…これ!」



ハーマイオニーは次々に本を取り出し、傍らに山を作っていった。
最後に取り出したのは臙脂色のカバーの薄い本だった。
シンプルに『世にもレアな魔法グッツ ベストセレクション』と書いてある。



「面白そうな本だと思わない?いつかこれに載っている道具を再現してみたいと思って…
 ほら、『ホバリング・クォーツ』!この指輪をつければ体が浮くのよ……」



ハーマイオニーは嬉々としてページをめくっていく。



「その反対が『ディグ・ダグ・アンバー』って言ってね…って違うわ、そうじゃなくて…
 懐中時計…時計…ああ、これだわ!『うつせみの時計』!」



うつせみの時計?とが復唱すると、ハーマイオニーは頷いた。
読むわね、と説明を始める。



「『うつせみの時計』とは『移せ身』であり、『空蝉』である…
 時計に宿る魔力によってその魂を現世の身から守護獣の身に移す。
 主人の現世の身は守護獣によって守られ、ひと回転の間の加護を得る…」



空蝉?守護獣?惑星?

は呆然としたままハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーもいまいち意味を掴みかねているようだった。

たしかに挿絵はの持っている懐中時計と全く同じだ。
同じ。なのだが。



「…よくわかんないね…」

「そうね…」



ハーマイオニーはページをめくった。



「使い方が書いてあるわ!」

「本当?」



私が説明を読み上げるわ、とハーマイオニーが言った。
ありがとうと答えつつもは内心憤っていた。

ママめ、もっと早く教えてくれればよかったのに!



















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しかし悲しいくらい本のタイトルにセンスが感じられない。
ホバリング・クォーツは、指輪版のタケコ●ターです。