それから二週間くらい経っても、わたしはまだ『ハーマイオニー彼氏説』にドキドキしている。
だって、だって、ハリーやロンにも言えないような相手って、誰?

すごく年上?それともすごく年下?
まさかスリザリン?

最後の可能性は無いだろうなあと思いながらわたしは談話室へ向かっている。
ちなみに今日の夕食はグリフィンドールのクィディッチ・チームと一緒に食べた。
つまり今は双子にサンドイッチされている。(またしても…!)











  シーン20:キャッツ・アンド・ラット











談話室が騒がしい。どうにも浮かれているように感じる。
何事だろう、と思ったの耳に「10月末、ハロウィーンに第1回ホグズミード」という声が聞こえた。
なるほどそれで浮かれているのか。は納得した。



「ゾンコの店に行かなくちゃ。『臭い玉』がほとんど底をついてる」

も行くか?」



フレッドが肖像画の穴を上ったあと、ジョージがに言った。



「行きたいけど、わたし1年生」

「そんなもんどうにでもなるさ」



ジョージがに手を差し伸べた。
彼らと一緒になると、いつも上りやすいようにエスコートしてくれるのだ。
背が高いわけではないのでありがたいが、少し恥ずかしい。



「じゃあ、補習も罰則もなかったら連れて行ってね」

「何だ、はそんなの喰らってんのか?」

「わたしじゃなくてフレッドとジョージのことだもん」



このやろーとジョージがの頭をこつりと小突いた。
相変わらず手加減されていて、ちっとも痛くは無い。
痛くは無い、が、いつも痛がるフリはしている。



「うわぁーん!ジョージに殴られた!痛い!死んじゃう!ハリー助けて!」



はハリーたちが3人で座っている暖炉に近いソファに走り寄った。
背後では俺が悪かったーというジョージの声がした。
しかしすぐに漫才になってしまうことを知っているので振り返らない。



「ハリー!…あれ?ごめん、元気ない?疲れてる?」

「ううん、大丈夫」



ハリーは力なく笑った。



「ただ、僕がホグズミードに行けるかどうかを運命付ける言い訳を考えなきゃ」

「…そっか。ダンブルドア先生に頼むの?」

「まさか!マクゴナガルだよ」



そんなのどうにでもなる、とジョージが言っていたことを思い出した。
しかしとハリーでは場合が違う、ということになるだろうか。
ブラックがハリーを狙っている(らしい)のだから。

としてはできればハリーがホグズミードに行ければいいと思っている。
同級生たちがみんな行ってしまうのに残るのは寂しいだろう。



「こんなのはどう?サインはあぶり出しで書かれていたの。
 だからハリーは許可証を暖炉にかざしたけど、燃えちゃった」



ハーマイオニーが何か言おうとして口を開いた。
の言い訳のバカらしさを批判するためか、
ハリーをホグズミードに行かせようとすることを批判するためか。

しかし彼女はクルックシャンクスが膝に飛び乗ってきたので口を噤んだ。
クルックシャンクスは大きなクモを咥えている。



「わざわざ僕たちの目の前で食うわけ?」

「ああああ、ま、まだちょっと動いてる…」



もわざわざ言うなよ!とロンがの口を塞いだ。
クルックシャンクスはゆっくりとクモを噛んでいる。

ネコは好きだ。たしかに好きだ。(そりゃ一番は犬だけど)
しかし食事の光景をまざまざと見せ付けられるのは耐えられない。

はハリーたちの傍を離れ、フレッドとジョージの元へ行くことにした。



「おお、戻ってきてくれたのか」

「だってクルックシャンクスがクモ食べててちょっとエグいんだもん…」



はフレッドに差し出されたチョコレートを素直に受けとって食べた。



「太るぞ」

「ひどい!」



リー・ジョーダンも加え、しばらく4人でくだらない話をしていると、
不意にハリーたちのソファが騒がしくなった。



「放せ!この野郎!」

「ロン、乱暴しないで!」



ロンが自分のカバンを振り回していて、そのカバンにはクルックシャンクスがへばりついている。
一見しただけでは悪者はロンだったが、カバンから何かが放り出されたことでそれは逆転した。

スキャバーズだった。

スキャバーズはそれはもう命がけで逃げ、クルックシャンクスはスキャバーズを追った。
ジョージが手を伸ばしたが捕まえられず、2匹は談話室中を走り回った。


ついにスキャバーズが古いキャビネットの下に潜り込み、追いかけっこは終わった。
クルックシャンクスはキャビネットの前でじれったそうに伏せている。

ロンとハーマイオニーがそれぞれのペットを何とか抱き上げた。



「その猫をスキャバーズに近づけるな!」

「ロン、猫はネズミを追いかけるものだわ―」

「その猫はオカシイんだ!スキャバーズがカバンの中だって言ったのを聞いてたんだ!」



周りがくすくす笑っているのにも構わず、ロンは大声で怒鳴り続けた。
クルックシャンクスはおかしい。スキャバーズがかわいそうだ。

は居た堪れなくなった。この場合、どっちもどっちだろうと思う。
猫がネズミを追いかけるのは確かに自然なことだけれど、
ペットなら飼い主であるハーマイオニーにはちゃんと躾ける責任がある。
しかしロンだって一方的に責めるだけの権利なんて無いはずだ。



「クルックシャンクス、どうしたの?」



ロンが男子寮に戻っていき、は立ち尽くすハーマイオニーの傍に寄った。
抱えられているクルックシャンクスの頭を撫でれば、彼は何かを訴えるようにを見つめてくる。

そうだ、とは思い立った。
ハーマイオニーに耳打ちする。



「―あのね、わたしが時計で猫になってクルックシャンクスに言ってみる。
 どうしてスキャバーズを狙うのかって。できれば止めてくれって」



ハーマイオニーは静かに頷いた。



「―わたしの部屋に連れていくね。同室の子たち、みんなここに居るみたいだから。
 えっと…15分くらいしたら迎えに来てくれる?」



ハリーがちらちらとこちらを窺っていた。
ハーマイオニーは再び頷き、クルックシャンクスをに預けた。

そのままはクルックシャンクスを抱いて女子寮へ戻り、
ハーマイオニーは今のことについてハリーと話をしようとソファへ戻った。





















(―で、どうしてスキャバーズばっかり狙うのか教えてくれない?)



は子猫の姿になり、自室でスキャバーズと向かい合っていた。
ちなみに同室の子が戻ってきても怪しまれないように、
自分の体の方には「2匹の猫とくつろいでるように振舞って」と命令をした。
おかげで自分に自分を撫でられるという奇妙なことになってしまったのだが。



(……あれは、ネズミじゃない)

(ネズミじゃない?)



クルックシャンクスはそのブラシのような尻尾をパタリと振った。
肯定の意味だったのだろうか。



(ネズミじゃないなら…何なの?)

(ヒト、だ)



は琥珀色の瞳を細めた。
にわかに信じられる話ではない。



(ヒトが、ネズミに化けてる)

(まさか……アニメーガス?)



それはマクゴナガルが家にやって来たときに知った言葉だ。
人の体から動物の体へと杖無しで自由に変身する術―動物もどき。

しかしそれには魔法省への登録が必要なはずで、
そんな魔法使いがこんなところでペットになっているとは考えられない。



(…シリウスは、あいつ、探してる)



クルックシャンクスはの目を見て言った。
人間である自分の体が、猫である自分の耳の裏を掻いた。

そうか猫はこんな風にされると気持ちいいのかと思ったが、
思ったが、思ったまま聞き流せればよかったのだが、
ネコ科の聴力は、それを許してはくれなかった。



(…………えっと?)

(シリウスは、ネズミ、探してる。も、協力してほしい)



そんなバカな!


は叫んだつもりだったのだが、ニャァー!という声が響いただけだった。



















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