その日の午後はひたすらクァッフルを拾ったせいで、
へろへろになって眠ってからも、クァッフルを拾う夢を見た。
夢の中の練習では、ルールが改定されたんだ!とオリバーが叫んでいた。
次の試合からは、クァッフルを3つまで使っていいルールになるらしい。
つまり、練習でも3クァッフル・ルールを適用するので、
ミスキャッチで降ってくる量も3倍になる。
勘弁してよ!と思ったところで目が覚めた。
シーン33:その理由
やたら疲れる夢から覚めた時、時計の針は起きるべき時間よりも早い時間を示していた。
それでもはベッドから降りて、窓際へ静かに歩いて行った。
天候は、昨日よりも悪くなっている。
空は灰色の雲で覆われ、雨のせいでほんの数メートル先すらぼんやり霞んで見える。
厚手の服に着替えたあと、ブラシで簡単に髪を梳かして、は談話室に下りていった。
どうせ誰もいないだろうから、暖炉の前のソファを独占してやろうと目論んだのだった。
しかし、談話室には先客が居た。
「おはよう、ハリー」
ハリーはびっくりしたようにを見た。
彼もまさか、自分以外にこんな時間に起きてくる生徒が居るとは思っていなかった。
「おはよう、。随分早起きだね」
「うん……ほんとはもうちょっと遅く起きるつもりだったんだけど、
すっごい疲れる夢見ちゃって、それが強烈だったもんだから目が冴えちゃったのよ」
はハリーに『3クァッフル・ルール制定』の夢を話した。
ハリーはところどころで笑いながら話を聞いていた。
そのままくだらない話や授業の話をしながら過ごしていると、
あと30分もすれば大広間で朝食の用意が出来るだろう、という時間になった。
は再び窓から空を見上げた。
雨足は相変わらずだが、心なしか視界はすっきりしたように思える。
と、何気なく校庭の方を眺めたの視界に、黒いローブ姿の影が歩いているのが映った。
誰だろう、とは目を凝らす。
吸魂鬼、ではないだろう。あまり背の高くない人、のように見えた。
「ハリー、ねえ、あれ誰だろう?」
はハリーの注意を引き、校庭の人影を指差した。
うーん、と、少し考え込んでから、ハリーは閃いたように言った。
「先生じゃないかな?
たぶん、夜の警備が終わったんだと思う」
「うそ!」
は窓辺にかじりついて、その人影をよく見てみた。
言われてみれば、体つきや歩き方がによく似ていた。
母が夜の間、吸魂鬼たちと警備をしていることはも知っていたが、
こんな時間まで、しかもこんな天気でも行っているとは想像していなかった。
「は・のファンなのかい?」
「え?……あ、うん。そうそう!」
食い入るようにの姿を見つめるの姿に、ハリーが不思議そうに訊ねた。
は一瞬何のことかと思ったが、すぐに話をあわせた。
たしかに、母がテレビに出ているのを見るのは、好きだ。
つまり、ファンだとも言えるだろう。
ハリーは夏休みの間はマグルの親戚の家で暮らしていることを思い出し、
は「ハリーも好きなの?」と聞いてみた。
「うーん…僕は普通だけど、僕のイトコがファンなんだ。
先生が魔女だって知ったら、ショック死するかもしれない」
は、ハリーのイトコはハグリッドに豚の尻尾を生やされて以来、
魔法使いと聞くと真っ青になるということを聞いていたので、
母と自分がハリーの家に遊びに行く光景を想像してみて、笑ってしまった。
もし実現するとしたら、どんなに楽しいだろう!
「……先生はどうしてマグルの女優になったんだろう?」
「ど、どうしてだろうね?」
ハリーは難しい顔をしてを見た。
「僕だったら…たとえスターになれるとしても、魔法を捨てることは出来ないよ。
無名でも、貧乏でも、のママみたいに悲しい事件があったとしても……
僕はきっと、魔法使いでいられる限りは魔法使いとして生きていくだろうな」
は返事をしなかった。
ハリーは知らない。
が失ってしまった親友というのがハリーの両親だということも、
そこにシリウス・ブラックがどのように関係しているのかということも。
が黙ってしまったので、ハリーは内心慌てていた。
何とかして別の話をしなければと思い、少し前にハーマイオニーとした話を思い出した。
「えっと……は・に似てるよね」
「そ、そうかな?どの辺が?」
まるで母に似た顔を隠そうとでもするように、は顔に手を当てた。
どの辺っていうか、顔立ちかなぁ、とハリーは言う。
「で、でもわたしの方がちょっと鼻が高いと思わない?
それに…ほら!瞳の色も、わたしのほうがグレーっぽいし!」
なぜそんなに必死で否定するのかと訝りながら、ハリーはそうだねと同意した。
それからは今日の試合の話をして、2人は一緒に朝食へ向かった。
*
競技場に着いたころ、空模様は絶不調だった。
誰がいつ得点したのかを記録しておくための用紙を持ちながら、
はロンたちと一緒に一番良い席を陣取った。
傘で必死で庇うものの、雨粒は容赦なくの手の中にも降り注ぐ。
「もーっ、紙がヨレヨレになっちゃう!」
「、ちょっと貸してみて」
が苛立たしげに鉛筆で紙にグルグルと汚い円を描いたとき、
ハーマイオニーがそれを取り、杖で軽く叩いた。
インパービアス、という呪文が唱えられると、
記録用紙は相変わらずヨレヨレではあったが、それ以上水を吸うことはなくなった。
「元は大鍋にかける呪文らしいわ。煮すぎて底を焦がさないように、って。
いつだったか本で読んだの。使い道なんて無いと思っていたけれど、結構役に立ちそうね」
「うん!ありがと、ハーマイオニー!」
が意気揚々と記録用紙を構えて試合開始の合図を聞き逃すまいとしたとき、
ロンがとハーマイオニーの方を向いて、驚いたような呆れたような声で言った。
「どうしてそれをもっと早くハリーの眼鏡にかけてやらなかったんだ?」
「あ!」
とハーマイオニーはお互いに顔を見合わせた。
すっかり忘れていたが、ハリーはゴーグルもなく、眼鏡をかけたままプレーをするのだった。
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オープニング
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防水の呪文が鍋用だとかいうのは全くのフィクションですよ!