むかつく!むかつく!なんなのあのロンの態度!
「、どうしたの…?」
「ロンが、むかつくの!」
ハーマイオニーが慌てて人差し指を唇に当てて見せる。
わかってる、ここは図書室だから静かにしろっていうんでしょ?
でもね、でも、治まりきらないんだよ…!
「そりゃあ、ファイアボルトで舞い上がってたのかもしれないけどさ、
でもバックビークのことだって大事でしょ?」
というか命がかかってるんから、バックビークのほうが大事じゃん!
シーン54:リトル・ミス? 1
のホグワーツ1年目のクリスマス休暇はこうして気まずいまま終わりを迎えた。
ハリーとロンは図書室に姿を見せなかったし、
ハーマイオニーも彼らにバックビークのことを思い出させようともしなかった。
授業が始まってしまえば1年生といえども忙しいもので、は時間に追われる日々を送っていた。
次々に教えられる新しい呪文や魔法薬、それと同時に襲い掛かってくるレポート課題。
加えて先日のクィディッチ杯レイブンクロー対スリザリン戦は僅差でスリザリンの勝利に終わり、
グリフィンドールが優勝できる確率もまた高くなった。
そうなるとキャプテンがジッとしているはずがない。
グリフィンドールチームの練習は週に5回に増やされた。
なりゆきではあるがマネージャーなので、当然も練習に参加する。
クァッフルを拾い、厨房から選手のためにドリンクを調達してくる。
マネージャー業というのも意外にハードな仕事なのだ。
より疲れているのはハリーだった。
週5日の練習に、週1回のルーピンとの特訓。
それでもハーマイオニーに比べたらずいぶんとマシに見えるというのだから凄い状況だ。
「はい、おつかれさま」
「…」
ある日、練習が終わり、は厨房から貰ってきたスポーツ飲料のようなボトルをハリーに差し出した。
ハリーは少し驚いたようにを見た。クリスマス休暇のあの日以来、まともに話をしていなかった。
「ファイアボルトはまだ帰ってこないの?」
「ああ、うん…」
ふぅん、とが言う。
ハリーは胃が攀じれるような気分だった。
「あの、僕、に謝りたいんだ。…先生のこと」
「どうして?」
はびっくりしたようにハリーを見た。
にしてみればあれはロンが謝るべきことなので、ハリーに謝られる筋合いはない。
そもそも彼らはとの親子関係を知らないはずなので、謝ってくるはずがないのだが。
「僕、この前じつは先生と話す機会があったんだ。ルーピンの特訓のあとで。
そのとき先生は、絶対僕にファイアボルトを返してくれるって言ってくれた。
絶対、完璧な状態で僕がプレーできるようにするから、って」
「……だから言ったじゃん」
「うん、の言った通りだった。
それに先生、僕に箒を貸してくれるって言ってた。
ファイアボルトが戻ってくるまで備品の『流れ星』に乗ってたんじゃ勘が鈍るだろうって」
「うそ!」
は心底驚いたような声を出した。
が箒を持っていたとは、ちっとも知らなかった。
ママめ、わたしにも乗せてくれればよかったのに!とは内心思う。
ハリーはそんなの心の葛藤を知らないので、
「うそじゃないさ!」と箒の性能を詳しく教えてくれた。
「ティンダーブラストっていう、1940年ごろに造られてた箒なんだ。
コメットとかクリーンスイープよりは遅いけど、すごくバネのある種類でさ…」
「…でも1940年って…」
50年も昔の箒が現在の箒に敵うのだろうか。
ハリーはの言わんとしたことが解ったらしく、「まあ、うん」と苦笑を返す。
それでも、チョウチョに抜かされるほどノロマな流れ星よりはマシかもしれないじゃないか。
「……まあ、いいけどね。
ハリーがちゃんと試合に勝ってくれるんなら、どんな箒でも」
「もちろんさ!」
ハリーが言い、お互いに顔を見合わせて笑った。
それからは双子に激を飛ばしていたオリバーへドリンクを渡すためにハリーと別れた。
ハリーは更衣室へ戻っていく。少しは仲直りができたのかと思うと、気分が軽かった。
*
それでも、そんな和解があったのにも関わらず、図書館にはとハーマイオニーの姿しかなかった。
泣きそうになりながらも、ハーマイオニーは宿題の山と裁判記録とに奮闘する。
生類憐みの令とかいうユニークな日本の法律はひとまず忘れることにして、
も分厚い羊皮紙の束を丁寧にめくっていく。
たいていは魔法生物が有罪となる不条理な現実を思い知らされるばかりだ。
「やあ、また調べ物?」
「セドリック」
史料の棚と机とを往復している途中、すぐ傍で優しい声がした。
がそちらに顔を向けると、イエローのネクタイをしたセドリックが立っていた。
は持っている裁判記録を見せながら、肩をすくめてジェスチャーをする。
「学期初めの頃のマルフォイとヒッポグリフの事件、知ってる?」
「まあね、そのお陰でうちはグリフィンドールと試合することになったわけだし」
「あー…そういえばそうだったね…」
そしてそのお陰でハリーのニンバス2000が粉砕される羽目になったのだ。
マルフォイがしでかすことには、いつだって余計な結果がついているような気がする。
「セドリックはまさか、バックビークが悪いだなんて思わないよね?」
「うーん…どうだろうね。僕はその場に居たわけじゃないから、なんとも言えないけど…
あ、でもマルフォイの怪我が大袈裟すぎるっていうのは思ってるよ」
が嫌そうな顔をしたのに気付き、彼は慌てて言い添える。
はそれに気付かなかったことにして、羊皮紙を抱えなおした。
自分だってその場には居なかったけど、バックビークが悪いわけじゃないことくらい解る。
「…じゃあそれでその…ヒッポグリフを庇うために探し物を?」
「そうよ。だってこのままじゃ、バックビークが殺されちゃう!」
憤然として言い切るに、セドリックが苦笑を零す。
「それは…すごく、残酷なことだよね。
でも僕は……言いたくはないけど、相手が悪すぎると思う」
「……マルフォイだから?」
「そう。…えっと、きみはマグル出身なんだっけ?」
「え?そうよ。でもママが実は魔女だったの。
あ、パパのことは聞かないでね!」
突然の話題の転換に首をかしげながら、が答える。
セドリックはその後半の言葉に不思議そうな表情をしたが、詳しくは追求しなかった。
「じゃあ知らないかもしれないけど、マルフォイ家っていうのは魔法界でも名家なんだよ。
大昔からずっと魔法使いだけの血筋で、大抵はスリザリン出身なんだ。
今の当主はたしか、ホグワーツの理事を務めていたこともある人物のはずだよ」
「…じゃあセドリックは、偉かったら何しても良いって言うの…?」
「もちろんそんなことは無い。僕だって、不正は不正で摘発されるべきだと思う。
だけど正しいから勝てると思っていたら、予想もしない結果になるかもしれない。
女の子がそうやって傷付いてしまうのは、あまり見たくないよ」
は釈然としない調子で曖昧に返事をした。
マルフォイ家が名家だというのは、あの屋敷の大きさからして予想はしていた。
それでも、正しいことが権力に負けてしまうのなんて、絶対に許せない。
「……わたしがマルフォイみたいに凄い家のお嬢様だったらよかったのになあ…
そしたら言ってやるの。いつもマルフォイが言ってることを、そっくりそのまま。
『父上に言いつけてやる!』ってね!あ、『パパに告げ口してやる!』のほうがいいかな?」
が残念そうに言うと、セドリックは口元を押さえて笑った。
肩が小刻みに震えていて、大笑いしたいのを必死で耐えているのだとわかる。
「どうせわたしは“お嬢様”ってガラじゃないですよ」とが拗ねたように言うと、
「ごめんごめん」と苦しそうな声が返ってきた。
「でも、マルフォイ家以上の名家となると限られてくるよ。
そうだなあ…クラッブやゴイルの家はどちらかといえば下だし…
せめてレストレンジか、一番効果がありそうなのはブラック家かな?」
「ブ、ブラック!?」
マダム・ピンスの鋭い視線が突き刺さる。
セドリックが人差し指で「静かに」というジェスチャーをした。
は口をぎゅっと噤んで、こくこくと頷く。
内心はあまりの衝撃で動揺していて、心臓は狂ったようなリズムで打っている。
いま、いまなんか、ありえない名字が聞こえたような…?
「あの、ブラ、ブラックって、まさか、」
「ごめん、逃亡犯なんか例に出すべきじゃなかったね」
セドリックが非常に申し訳無さそうに言う。
は引き攣った笑顔で「きにしないで」と言うことしか出来なかった。
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