単純とか現金とかまあ色々と言われることは多いと思うけど、
でもやっぱり嬉しいことは嬉しいんだから嬉しい気分になってもいいんじゃないの?とわたしは思う。

ハーマイオニーと仲直りできて、よかった。
ほんとに、ほんとに、よかった。

裁判が気付けばあっという間に迫ってるとか、よくないこともいっぱいあるけど、
でもやっぱり嬉しいわけで、午後からの魔法史の授業も目が冴えてしまうくらいだった。(いつもならありえない!)











  シーン63:ノート・フロム・ジャック











ハーマイオニーと仲直りしてからの午後は、いい気分のまま過ぎていった。
レポートは出されなかったし、夕食だって文句なしに美味しかった。

は18時くらいにハリーとロンがハグリッドに連れられて出て行くのを見た。
きっと土曜日の晩のことの話だろうと思い、追いかけるのはやめる。

そのまま談話室に戻ると、ホグズミードのお知らせの掲示が張り出されていた。



「ホグズミード…いいなあ。
 ハーマイオニーは行くの?」

「ええ、そのつもりよ。そろそろ新しいインク瓶を買わなくちゃいけないし…
 、あなたまさか抜け出そうだなんて思ってないわよね?」



『まさか』に重点を置いて言われ、は「まさかぁ」とそっぽを向いた。

行きたいのは山々であるが、母にあれだけ心配をかけてしまった直後である。
もしホグズミードへ忍び込んだとバレたらまた心配をかけてしまうので、今回は断念だ。
シリウス・ブラック騒動が一段落するか、3年生になるまで大人しく待つとしよう。



「でも正直…遊ぶような気分じゃないわ。
 だって土曜日って、バックビークの裁判の日よ」



ハーマイオニーは心底憂鬱そうに言い、は「そうだね」と相槌を打った。

信じるしかない、きっと大丈夫。はそう念じながら、女子寮の階段を上る。
授業をサボってしまったのに、今日は一段と疲れた気がするのだった。















そして土曜日がやって来る。

はいつもより遅い時間に起きたが、まだ裁判が始まる時間ではなかった。
あくびをしながら談話室に下りると、そこには途方に呉れた顔のネビル・ロングボトムが居た。

どうして彼が同級生たちと一緒にホグズミードに行っていないのかといえば、
シリウス・ブラック侵入の糸口を作ってしまった合言葉放置事件の罰としてホグズミード禁止を言い渡されたからだ。



「あ、お、おはよう、ねえ、ハリーを知らない?
 図書館にレポートを取りに行ったのに、まだ帰ってこないんだ!」

「おはよ、ネビル。
 あのねえ、いま起きてきたばっかりなのにハリーがどうしたかなんて分からないよ」



「そうだよね」とネビルは恐縮したように言う。
はネビルと向かい合うようにソファに座ると、彼の手元を覗き込んだ。
不揃いな大きさのミミズのような字がのたくたしている羊皮紙は恐らく、レポートなのだろう。



「ハリーったら、なんだか今日は僕を避けてるみたいなんだ。
 4階の廊下で会ったときも急いでるみたいだったし…僕、なにか悪いことしたのかなあ?」

「よ、4階?……あー……きっとルーピン先生とかに捕まったんだと思うよ。
 大丈夫、嫌われたんじゃないって。ところでそれは何のレポート?」

「これ?これはルーピンのレポートだよ。
 吸血鬼について羊皮紙半巻き書かなくちゃいけないんだけど…」



『4階』という単語が出て、はハリー失踪の真相を悟った。
ハリーはきっと、その4階の魔女像のこぶからホグズミードに行っているに違いない。


はシリウスがハリーを殺そうとしているのではないと知っているのでまだいいが、
ハリーを心配している他の大人たちからしたらこれは由々しき事態だろう。
守ろうと必死になっているのに、その対象が自らフラフラと出歩いているのだ。

今までだったら、もその部分には気付けなかったかもしれない。
しかし大人が本気で心配しているということを知ってしまっては、ハリーの無用心さが少し歯痒い。


はそんな思考を振り払うように話題を変えた。
ネビルはレポートをに見せながら泣きそうな声で言う。



「ねえ、は吸血鬼について何か知らない?
 ニンニクは食べればいいのかネックレスにすればいいのか僕わからないんだ」

「た、食べても意味は無いと思うけど…
 マグルのお伽噺では持ってるだけでいいみたいよ」



「そうなのかなぁ」と言いつつも、ネビルはその意見をレポートに書いていく。
どうして1年生が3年生のレポートを手伝わなくちゃいけないんだと思いながらも、
はそんなネビルを黙って見つめた。

そういえば、ホグワーツに来る前の夏休みにもハリーの宿題を手伝ったことがあったっけ。
『ずいぶん昔のことみたいだなぁ』と思い、はこっそり笑った。



「ねえネビル、吸血鬼ってどんな感じなの?会ったことある?」

「あ、会ってたら僕、血を吸われてここには居られてないよ!」



ネビルは心底恐ろしいといったように言い、顔を青ざめさせた。
滅多にお目にかかれないという点ではマグル界も魔法界も違いは無いらしい。
ネビルは教科書をめくりながら、ふうふうと苦しそうに呼吸をしている。



「実在――の――吸血鬼。やだなあ、僕、こういう話は苦手なんだ…
 ええと……ハーバート・バーニー卿――19世紀……」

「1880年代に、ロンドンでマグルの女性を殺害したとして魔法省に捕獲される。
 マグルの間では“切り裂きジャック”として名を馳せた――って、切り裂きジャック!?」



教科書を読み上げるのを手伝ってみると、思いがけない情報があった。
は思わず素っ頓狂な声をあげ、教科書を食い入るように見た。



4.5  実在した(する)著名な吸血鬼
4.5.1 ヴラド・ドラクル(1390−?)
ルーマニア、トランシルバニア地方の領主。
マグルに発見、認識された最初の吸血鬼。

4.5.2 カーミラ・サングィナ(1561−1757)
美しさと若さを保つために、次々に女性を襲い、その血液で入浴した女性吸血鬼。
マグルの間ではハンガリー貴族の『エリザベート・バートリー』として有名。

4.5.3 アマリオ・レストート(1776−1977)
アメリカの吸血鬼。『吸血鬼の独白』の著者。
この本は読者を退屈させ、吸血しやすい状態にするため、現在は禁書とされる。

4.5.4 ハーバート・バーニー卿(1858−1889)
ロンドンにおいてマグルの女性たちを次々に殺害したとして魔法省に捕獲される。
マグルの間では『切り裂きジャック』として名を馳せた。若さ故の凶行とされるが、詳しい動機は不明。

4.5.5 ブロードウィン・ブラッド(1923− )
『荒野から来た吸血鬼』と呼ばれる。バス-バリトンの美声で歌手としても有名。
首筋に噛み付く直前にもその美声を披露する。





「へえ〜吸血鬼って作家とか歌手とかにもなるんだ。あ、エリザベート・バートリー!
 暗黒童話で読んだことあるけど……うわぁー、吸血鬼だったんだぁ…」



は少し興奮気味にネビルの教科書を読んでいく。
マグルのお話として有名な人物が次々に登場するので、驚きの連続だ。

と同じようにマグルとして育ったハーマイオニーならこの驚きを共有できるのだろうが、
残念ながら純血の魔法族のネビルはぽかんとしてを見ることしかできない。
吸血鬼たちは恐ろしい相手だが、その存在そのものは特に珍しいものではない。


ネビルが放心しているのに気付き、は慌てて教科書を返した。
取り繕うように笑うと、ネビルもこわごわと微笑む。よかった、完全に引かれたわけではないらしい。



「ご、ごめんねネビル!
 マグルの間でも有名な名前があったから、つい調子に乗っちゃって!」

「ううん、僕…3年生なのに1年生より知らないことばっかりだと思って…」



ネビルはしょんぼりしたように言う。
は「そんなことないよ!」と言いながら手をブンブン振った。



「それでもやっぱり、魔法界のことだったらわたしの方が知らないこと多いよ!
 確かにハーマイオニーは頭いいし、物知りだけど、ネビルだって何もないわけじゃないでしょ?」



がそう言うと、彼は少し考え込むように顔を俯けた。
しまった言い過ぎたかと思ったが、ネビルは「ありがとう」ともそもそ呟く。


それからはなるべく過激な意見は言わないようにして、
ネビルのレポートが出来上がっていく過程を見守る。

そろそろ昼になるころだろうか。
鳴りそうになるお腹を抑えながら、は窓の外を見た。



「―――ん?フクロウ?」



先日が破壊した窓ガラスは見事に修繕されていて、
そしてその外側には灰色のシマフクロウが談話室の中を伺うように漂っていた。

はネビルに一言断りを入れて立ち上がり、窓を開ける。
するとフクロウはサッと室内に飛び込んできて、天井近くを旋回した。

誰かに手紙を持ってきたのだろうと思ったので入れてやったのだが、
自身はフクロウが好きだと思ったことはない。(ヘドウィグは美人だとは思うが)
早く出て行かないかなあと失礼なことを考えていると、フクロウはの方に向かってきた。



「え、わたし?」



の足元にメモの切れ端のようなものを落とし、フクロウは小さく啼いた。
拾い上げてみるとどうやらからのようだった。
今すぐにも読もうとするの頭の横を、フクロウが綿毛でぺしりと叩く。

何を訴えているのかがよく分からないため、とりあえず「ご苦労様でした」と労ってみる。
フクロウは少し偉そうにを見たが、またしてもぺしりと叩かれる。

はフクロウなどは無視して、先に手紙に目を通す事にした。





 もう知っているかもしれないけれど、一応伝えておきます。
 バックビークの訴訟はハグリッド側の敗訴に終わりました。
 その場で処分されるのだけは阻止したのですが、
 他の部分ではルシウス・マルフォイの思惑通りです。
 バックビークは学校に連れ帰ることを了承させました。
 控訴裁判は期末試験後の予定です。
 不甲斐ない結果になってしまってごめんなさい。

                           ママより』




「バックビーク――え、うそ、なんでっ!?」



談話室中の目がに集まる。
『だからここでは読むなと言ったのに』と、フクロウは呆れた視線を投げて、飛び立って行った。



















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吸血鬼についての個人用メモかよとセルフツッコミ。
ハリポタウィキの情報を基に一部捏造しています。