最初は色んな種類の花にしようって計画だったけど、
それはちょっと呪文が複雑になるらしくて、わたしのハイビスカス案は却下されてしまった。
じゃあ何の花にしようか?って悩んで、15分。
やっぱりイギリスなんだし、これでしょ!ってことで、最後は満場一致。
さあみなさんご一緒に、
「オーキデウス、レッドローズ!」
シーン66:ランカスターの誇り 2
「選手は寝ろ」とオリバー・ウッドの号令がかかり、選手以外だけが残された。
さきほどまで騒がしかった談話室も、いまでは静かな興奮に満ちている。
これから、選手に内緒での花作りが始まるのだ。
赤いバラはかつてランカスター王家が象徴としていたモチーフであり、
現在においてはイングランドの国花でもある。
グリフィンドールチームに特別ランカスター王家と由縁があるわけではないが、
ヨーク王家を打ち破りその後の絶対王政を築いたという、強く気高い印象にあやからない手はない。
赤いバラの花束をイメージし、杖を振る。
そうすると杖先から、パッと炎のように花弁が舞うのだ。
最初のうちはいびつな花束しか出なかったものの、繰り返し練習するうちに形も整っていく。
上級生は下級生たちに呪文の指導をし、談話室を埋め尽くすほどの花が作られた。
パーシーはその几帳面さを買われ、合格ラインに達するものと達しないものの振り分けを担当している。
そうして合格ラインに達した花は茎の刺抜きを施され、装飾品に変わっていく。
各人が持ち寄った、中くらいの大きさのバスケットをおなじみの魔法で拡張し、
鮮度を保つ魔法のかけられた赤い花たちをそっと重ねる。
明日はこれを持って、競技場の入り口でハッフルパフとレイブンクローを味方につけるのだ。
箒に乗って試合に出ることは出来なくても、グリフィンドールは全員がひとつのチームだった。
*
そして翌朝。
空はスッキリと晴れ、風もなく、絶好の試合日和である。
、ハーマイオニー、ジニー、その他グリフィンドール女子たちは、
互いの髪に赤い花を編み込んだり飾りあったりして準備を整え、観客席に居た。
男子たちはローブの胸元に付けるだけに留まったが、一部のお調子者は頭にもつけていたりする。
それはグリフィンドールの観客席だけに留まる話ではなかった。
いつもならイエローとブルーで彩られているはずの席にまで、赤い花が咲き乱れている。
結論を語るなら、赤い花で観客席を埋め尽くす作戦は成功したのだ。
すでに優勝の可能性のないハッフルパフやレイブンクローの生徒たちは
どうやら「どうせならグリフィンドールが勝ったほうがマシ」だと思っているらしく、
競技場の入り口で花を配りながら作戦の説明をすると嬉々として協力してくれた。
特にセドリックやチョウ・チャンなど、かつて戦った相手が中心になって協力してくれたので、
狙い通り、観客席の4分の3は真紅に染まっている。真紅、勇気の色に。
『――さあ、グリフィンドールの入場です!ポッター、ベル、ジョンソン、スピネット、
ウィーズリー、もひとつウィーズリー、最後にウッド、非常に優秀なチームです』
リー・ジョーダンの解説が始まると、スリザリン側から嵐のようなブーイングが起こった。
彼らはみんな緑のローブを着ていて、銀色の蛇をあしらった旗を振っている。
スネイプまでおそろいのローブを着ているのだから団結力ではあちらのほうが上かもしれない。
続いてスリザリンが入場してきた。
リーの言う通り『腕よりデカさを狙った』ようなチーム編成に、は呆れてしまった。
もとから体格が良いわけではないシーカーのドラコ・マルフォイが極端に小さく見える。
フーチ先生がホイッスルを口に咥えた。そろそろ試合が始まる。
は手元の時計に視線を注いで、そのときを待った。
45秒、47秒、キャプテンが握手をする、55秒、58秒、
秒針がきっかり頂点に達したとき、選手が飛び立った。
『――まずクァッフルはグリフィンドールから。行けっアリシア!
っと、スリザリンのワリントン選手がブロック、ボールは奪われました。
そのまま飛んで行きま――こりゃ痛い!ジョージ・ウィーズリーのブラッジャーが激突!』
誰から誰にボールが渡ったか、出来る限りは記録用紙に書き留める。
ジョージのブラッジャーがぶつかったあと、クァッフルを拾ったのはアンジェリーナだった。
上空では、ハリーとドラコが箒で競い合うように飛んでいる。
『さて拾ったのはアンジェリーナ・ジョンソン!ブラッジャーをかわした!
いいぞ!そのまま!行けっ――ゴール!やった!グリフィンドール10対0!先制点!』
ワッと観客席が盛り上がる。
が、スリザリンのフリントがアンジェリーナに体当たりをし、たちまち非難の声に変わった。
おかえしとばかりにフレッドがビーダーの棍棒をフリントの後頭部に投げつける。
「スリザリン、相手チェイサーに故意にダメージを与えたペナルティー、
グリフィンドール、相手チェイサーに不意打ちを食らわせたペナルティー!」
フーチ先生のホイッスルが鳴り、ペナルティーが告げられる。
ペナルティ・スローはアリシアが行うようで、彼女が他のメンバーより前に出た。
観衆はみな息を飲んで見守る。
アリシアがスローしたクァッフルは右へ、
そしてキーパーは左へ飛んだ。
赤い皮のボールがゴールポストをくぐり、競技場が割れんばかりに揺さぶられる。
グリフィンドール生たちは余っていた花をハグリッドの大きな背中に貼り付けながら歓声を上げた。
次のスリザリン側のペナルティ・スローはウッドのファインセーブに終わり、
試合開始からまだ間もないのに、グリフィンドールは20対0とリードすることになった。
『――さてゲーム再開です。クァッフルはグリフィンドール、いやスリザリン、
いや、またグリフィンドールが取り戻しました。ケイティ・ベルです!
いまのは非常に良い動きでした!そのままフィールドを飛ん――あいつめ!!わざとだな!!』
リーが怒鳴ったのはモンタギューの仕業に対してだった。
あろうことか「クァッフルと間違えた」などと言い訳しているが、ケイティの頭を掴んだのだ。
フーチ先生はこの行為にもペナルティを与え、グリフィンドールの得点は30点になった。
ハリーは相変わらず上空を旋回していたが、ふと何かに気付いたかのようにスリザリン側のゴールへ向かった。
観客たちはスニッチが見つかったのかと思い、ざわついた。まだ50点差はついていないのだ。
しかしそれは陽動だったようで、動きにつられたスリザリンのビーダー2人が衝突事故を起こした。
リー・ジョーダンはマイク越しに「ハッハー!」と鼻で笑う。
『――またまたボールはグリフィンドール!ジョンソン選手がクァッフルを持っていますが
どうもフリントがマークしているようです。いけっ、奴の目を突いてやれ!あ、ほんの冗談です、先生。
ああだめだ、フリントがボールを取りました。頼むぞウッド、頼む、ブロックだ――』
ウッドはブロックしきれなかった。クァッフルがグリフィンドールのゴールをくぐる。
スリザリンから大歓声が上がり、リーはマイクで悪態をつきまくった。
スリザリンはどうやら、クァッフルを奪うためには手段を選ばないことにしたらしい。
恐らくグリフィンドールが早々と得点を決めていくのが癪に障ったのだろうが、
「ブラッジャーと間違えた」と言ってアリシアを棍棒で殴ったのにはほとほと腹が立つ。
ジョージがアリシアの仇を取ろうと、ビーダーの顔面に肘鉄を食らわせたので、
またしても両チームにペナルティ・スローが与えられた。
はスコアを記録しながら、ペナルティの多さにうんざりした。
これから先、この試合を越えるほど泥仕合になることはないのではないかと思うほどだった。
スコアは40対10。まだグリフィンドールが優勢だ。
『――気を取り直して行きましょう、ボールはグリフィンドールです。
ベルからジョンソン、そして再びベル、素晴らしいパスワークです!
そのまま、そこだ!ケイティ!ゴール!!スコアは50対10!』
けれどこの試合は喜んでばかりもいられない。
スリザリンから報復されかねないというので、ケイティの周りを双子がぐるぐる廻って警戒する。
すると今度はその隙を突かれ、ウッドがブラッジャーで狙い撃ちされてしまった。
彼は箒から落下こそしなかったが、かなり苦しそうだった。
フーチ先生が怒ってホイッスルを吹く。
お決まりのパターンになりつつあるが、ペナルティ・スローが与えられた。
それをキッチリと決め、スコアは60対10。
スリザリンのボールから試合が再開するが、フレッドがすかさずブラッジャーを叩き込み、
ワリントンの腕からクァッフルを取り落とさせた。
それをサッと拾う、その影は赤。アンジェリーナだった。
彼女はそのまま肩越しにクァッフルを投げ入れ、ゴールを決めた。
スコアは70対10。ついに60点差がついた。
観客の目が一斉に上空へ向けられ、シーカーたちを見た。
ハリーは少し視線を廻らせ、ハッとしたように急上昇を始めた。
『――ポッターに何やら動きがあるようです!スニッチか?スニッチなのか?
いま何か光ったような気がしますが――何してやがる、あの野郎!!』
ハリーがより一層加速をかけたが、たちまちに失速してしまった。
ファイアボルトの尻尾を、ドラコが掴んでいたのだ。
そしてそれこそがリーの度を越えた暴言の引き金となったのだが、
マクゴナガル先生の制止の声は聞こえてこなかった。
リーと一緒になってドラコを罵倒していたのだから当然である。
アリシアがペナルティ・ゴールを狙ったが、わずかに軌道が逸れた。
グリフィンドールの選手たちはみな頭に血が上り、集中力が途切れようとしていたのだ。
逆にスリザリンはドラコのファウルに活気付き、有頂天である。
モンタギューがクァッフルを奪うようにして突進し、ゴールポストを割る。
70対20、点差がまた縮まってしまった。
スニッチは姿を消してしまったようだが、ハリーはドラコをぴったりマークしていた。
これ以上こいつをスニッチに近づけてなるものか、とハリーはドラコの進路を阻む。
『――アンジェリーナ!アンジェリーナ・ジョンソンがクァッフルを奪いました!
厳しいマークがついています、行けっ!決めろ!アンジェリーナ!』
スリザリンの選手は、なんとキーパーまで一緒になってアンジェリーナのマークをしていた。
厳しい状況だが、逆に言えば、これさえ切り抜ければ確実に得点が出来る。
固唾を呑んで観衆が見守るなか、突如、弾丸のようにアンジェリーナに向かってくる影があった。
その影は、箒の柄にぴったりと身を屈め、真紅のユニフォームを風に靡かせたハリーだった。
襲い掛かるファイアボルトに恐れをなし、アンジェリーナをマークしていた選手たちが散り散りに逃げていく。
今ではもう、ノーマーク状態だ。ハリーはサッと身を翻し、大きく弧を描いて旋回する。
『――ゴール!!アンジェリーナ、ゴール!
ハリーとファイアボルトのナイスフォローで、グリフィンドール、80対20!』
「待って、あそこ、マルフォイが!!」
それは誰が発した声だったのか分からないが、観客たちはドラコのほうに視線を向けた。
勝ち誇った顔で彼が急降下する先に――金色の、きらめき。
ハリーは既に超加速を仕掛けていた。
単純なスピードで見るなら、ファイアボルトが負けるわけはない。
しかし、この距離だ。
たちは手を握り合って祈った。
間に合え、間に合え、いっそドラコが箒から落っこちてしまえ!
スリザリンのビーダーが打ったブラッジャーをかわし、ハリーは更に加速する。
その影がドラコに追いつく、並ぶ、ハリーは両手を離し、思いっきり身を乗り出した。
そして、
「―――やった!!」
急降下から反転したハリーが高々と腕を掲げている。
一瞬遅れでその意味を理解し、観客席は爆発したかのような歓声に沸いた。
「やった!やったわ!優勝よ!わたしたちが優勝よ!!」
ウッドが泣きながらハリーを抱きしめている。
フレッドとジョージがその肩を叩き、アンジェリーナたちがピッチを凱旋した。
誰彼かまわず抱きつき、グリフィンドール応援団たちは喜びを分かち合った。
そうして選手たちが地上に降りてくるのを待って、フィールドに雪崩れ込む。
ハグリッドは「バックビークにも教えてやらにゃ」といそいそと戻っていく。
マクゴナガル先生はウッドに優るとも劣らない号泣を披露していて、
パーシーまでもが飛び跳ねて喜んでいる。
とハーマイオニーとロンは、肩車で運ばれていくハリーと目が合った。
かける言葉さえ見つからず、4人はただニッコリと笑いあった。
最後には、こうして正々堂々と戦う勇気が優るのだ。
そう思うと、晴れやかな、誇らしい気分だった。
そしてダンブルドアが優勝杯をウッドに渡したとき、
観衆は一団となって胸につけたバラの花飾りを投げ上げて祝福した。
青く澄んだ空に、真紅の花が咲く。
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