ママによる恥ずかしい『親子』バレのあと、
ルーピン先生はいつの間にか学校から居なくなっていた。

ハリーはそれを見送ったって言ってたけど、いつ行っちゃったんだろう…?
できるならわたしも見送りたかったと、思う。

先生が人狼かどうかなんて問題じゃなくて、
わたしたちみんな、先生のこと大好きだったのに。


……大広間でママが起こしたあの騒ぎも、本当は目くらましだったのかな、なんて、思ったり。











  シーン80:ホーム 2











それから1週間が経ち、学期の最後の日になった。

この日には試験の結果が発表され、は『魔法史』を「A、まあまあ」でパスしていたことに驚いた。
やっぱり、あの噂は本当だったのだろうか?
それともビンズ先生があの壮大なロマンスを気に入ったのだろうか?

『防衛術』や『天文学』に一番上の成績である「O、おおいによろしい」がついていた。
その他は平均して「E、期待以上」である。なかなか良い成績ではないだろうか?

ちなみに『魔法薬学』も「A」だった。不可じゃないだけマシだろう。



シリウスとバックビーク(ついでにペティグリュー)が姿を消したあの夜、
本当は何が起こったのか、それを知っている人間は限られていた。

この1週間というもの、生徒たちは好んでそれを話題に上げた。
どうやってシリウスは逃亡したのか、噂はたくさんあったが、真相に近いものは無かった。


ドラコ・マルフォイは噂をするのではなく、怒っていた。
ハグリッドが委員会の目を盗んでバックビークを逃がしたに違いないと言っているのだ。

つまり、自分や父親が森番なんかに出し抜かれたことに憤っているのだ。
バックビークそのものについてはまったく興味がないのだと思うと、腹立たしい気分にもなる。


ルーピンが居なくなったあとは、が『防衛術』の授業をした。

もう夜警の必要もないし、魔法薬学の手伝いも必要ないので、
以前より健康的な美しさが戻ってきたようだった。

周りの男子生徒がをどこかウットリと眺めているので、
はすこしくすぐったい気分になる。



ハリーは目に見えて落ち込んでいた。
成績に1つの不可もなく、名付け親を安全なところへ逃がす事にも成功したのに、
彼はそれを自信にするどころではないようだった。

ハリーに言わせれば、ダーズリー家を出るチャンスだったのだ。
そして新しい環境で、もっと幸せな日常を過ごせるはずだった。
それを逃してしまったショックは、には計り知れない。


夕食の宴会は、真紅と金色で彩られた。
今年の寮杯もグリフィンドールが優勝したのだが、
主にクィディッチ杯優勝の貢献が大きいというので、
マネージャーのもどこか誇らしい気分になろうともいうものだ。















翌朝、ホグワーツ特急がホグズミード駅を発車した。

コンパートメントには、ハリー、ロン、ハーマイオニー、
そして『ブラック襲撃の可能性』を考慮して同乗を指示されたが居る。
本当なら見回りも仕事の範囲らしいが、そんな襲撃の可能性は皆無なので、
は堂々とここで昼寝をしているというわけである。



「僕はさ、未だに信じられないんだぜ、ハーマイオニー!
 『逆転時計』のこと、どうして僕らに一言も言ってくれなかったんだい?」

「マクゴナガル先生との約束だもの、誰にも、絶対に、口外しないって!
 まあ、は知っていたけど……でもどういうものかまでは知らなかったわ」

「うん、わたし……何でそこまで気付かなかったんだろ?」



ハーマイオニーは「それで普通よ」と言った。
彼女は『マグル学』と『占い学』の履修を取り消し、普通の時間割に戻すらしい。

ハリーはぼーっと窓の外を見ていた。
たちは何とかハリーを元気付かせようと、彼に声を掛ける。



「ハリー、元気出せよ!僕、“話電”するから、泊まりにおいでよ!
 クィディッチのワールドカップがあるんだ、パパがチケットを取ってくれるよ!」

「うん、絶対行くよ」

「うちにも!うちにも来てね。それがダメならわたしとママがドライブしに行くから!
 うちの車ね、カッコいいのよ。赤くて、……ママ、何ていう車種だったけ?」

「……えー?……うん…ポルシェ、911、カレラ……」



寝言のようなの言葉に、ハリーとハーマイオニーが「ポルシェ!」と声を上げた。
ロンは分からないらしく、「うちはフォードだよ!」と言っている。


車内販売の魔女がやって来たときは、が全額出してくれた。
ハリーたちは恐縮しながらも色々な種類のお菓子を買い、ランチを交換しながら食べた。
ただし医務室で山のように食べさせられたため、チョコレートは無しだ。



陽も落ちるころになって、窓の外に小さな灰色の影がぴょこぴょこ浮き沈みしていることに気付いた。
ハリーが立ち上がって窓を開けると、それが小さいフクロウだということがわかる。
身体が本当に小さいため、汽車の気流に巻き込まれてしまうのだ。

フクロウの真下には、大きな猛禽類が翼を広げて低空飛行していた。
まるでフクロウが力尽きたときのための防護ネットのようだ。

ハリーは手を伸ばし、スニッチを掴むかのようにフクロウを引き寄せた。
下から猛禽が押し上げてくれたおかげで、意外とあっさりとフクロウは保護される。

猛禽はアカトビのようだ。
翼の先の白と胴の赤褐色の対比が美しいそれは一時期「絶滅危惧種」にも指定されていた鳥である。

フクロウとアカトビはそれぞれ手紙を咥えていた。
フクロウのものはハリー宛、アカトビは宛である。


ハリーが手紙を開封し、「シリウスからだ!」と叫んだ。
たちは驚き、手紙を見ようと手元を覗き込む。
だけは、自分の手紙を読んでいた。



ハリー、元気にしているか?

わたしもバックビークも無事に隠れている。この手紙が第三者の手に渡ることも考慮し、 詳しい所在は明らかにしないでおこうと思う。

吸魂鬼たちはまだわたしを探しているだろうが、ここにいれば見つかることは無い。 もうすぐ何人かのマグルにわざと目撃させるつもりだ。 そうすれば、ホグワーツの警備は解かれるだろう。

さて、いくつか未解決のまま終わらせてしまったことを釈明しよう。

まずファイアボルトだが、あれを贈ったのはわたしだ。クルックシャンクスが注文を届けてくれた。 名義は君だが、金庫はわたしのものだ。君の名付け親からの13回分の誕生日プレゼント だと思って受け取って欲しい。

次に、君が伯父さんの家を出たあの夜、君を驚かせてしまったことも詫びなければならないな。 あの時はただ、北へ向かう旅をするまえに君を一目見ておきたかっただけなんだ。

必要ないかもしれないが、来年の君の学校生活が楽しくなるよう、あるものを同封しておいた。 よければ活用してくれたまえ。

用事があれば、手紙をくれ。君のふくろうがわたしを見つけるだろう。
わたしもまた、手紙を書くよ。

シリウス




同封されているあるものとは何だろう?
ハリーが封筒をさぐるのを、ロンとハーマイオニーは興味津々で見守った。

やがて出てきたのはシリウスのサインがされた「ホグズミード許可証」である。
更に追伸に「このフクロウをロンにプレゼントする」と書かれていたものだから、
ロンはクルックシャンクスに動物もどきじゃないか確かめさせたり、有頂天だ。



「ママのは、誰からだったの?わたしの知ってる人から?」

「だーめ。オトナのヒミツ!」



の手元を覗き込もうとしたが、サッと隠されてしまった。
「ケチ!」と呟くと、小さな羊皮紙の切れ端を渡される。


  、きみには本当に世話になった。
  改めて礼を言う。ありがとう。
  また近いうちに会えることを楽しみにしている。



はビックリしてを見た。
はゆったりと微笑んでいる。



「ママ、これって――」

「裏面も読んだ?」



は慌てて羊皮紙をひっくり返した。
ハリーたちはそんな親子を興味深そうに見ている。


  もしわたしのこと(つまりブラック家関連のこと)で
  なにか言われるようであれば、すぐに教えてくれ。
  「娘はやらん」と殴りに行ってやる。



「このネタいつまで引っ張るの!?」と、
は顔を真っ赤にして羊皮紙を握り潰した。















汽車はキングズ・クロス駅9と4分の3番線に到着した。

は警備の仕上げに、と、柵を通る全ての生徒を見送る仕事があるらしい。

ハリーや、ロンや、ハーマイオニー、ジニー、ロミルダ、
ネビル、セドリック、たくさんの友人たちがの前を通り過ぎて手を振っていく。



「ねえママ、」

「なーに?」



はトランクを足元に転がしながら、呟くように言った。

この喧騒に流されての耳に届かなかったら聞かないでいようと思ったのに、
にはしっかりと聞こえていたようだ。



「わたしのパパってさ、シリウスなのかなあ?」

「……まあ、可能性は五分五分ってとこだけど……」



フレッドとジョージが恭しくお辞儀をしながら柵を通り抜けて行った。
はそれを呆れた視線で見送る。



「でもね、、知ってる?
 ほぼ8割か9割のこどもはね、親と同じ寮に組み分けられるものなのよ」

「へぇー、そうなんだ…」



のトランクに入っている制服のネクタイは、赤と橙だ。
たしかシリウスも、「昔はグリフィンドールだった」と言っていた。

はふと思った。
そういえば、の寮がどこだったかを聞いたことはなかった。



「シリウスはグリフィンドールだったんでしょ?
 ………じゃあ、ママは?どこだったの?」



柱に設えられているランプの光が、の横顔を照らした。
はそのスッと伸びたまつ毛を下から見上げる。


いつの間にか、9と4分の3番線は無人になっていた。


は自分の荷物を持ち上げ、柵に向かって歩き始めた。
もそれに倣い、トランクを持ち上げて、の後を追った。

さんざん気をもたせた割には、の返事はごく短いものだった。







「―――レイブンクロー、よ」























 ←シーン79   オープニング   Camera-Action-Part Ending.




ありがとうございました!