おとなの、ひみつ。











  BEHIND THE SCENES : LVIII.











親愛なるパッドフット



あなたが去ってからのこちらの動きを報告しておきます。


ムーニーの例の病気のことが、どこかの黒い蝙蝠のおかげでバレてしまいました。
おかげさまでムーニーは再び無職です。蝙蝠には水をかけてやりました。

彼さえよければ、うちに来て娘の相手をしてもらえないかなと思っています。
その場合、家政夫として雇うべきでしょうか、それとも家庭教師として雇うべきでしょうか?
給料にだいぶ差がつくので、結構真剣に悩んでいます。あなたの意見はどうですか?

まあ、それはともかく、彼のところにも寄ってみて下さい。
餓死させないでね。過労死とか衰弱死もダメよ。


わたしと娘が親子であることもバレました。
これは娘のウッカリのせいなので、水はかけないでおきました。
これから大変になると思うけど、まあ自業自得というやつです。

それに、「娘はやらん!」というセリフを言ってみたかったので、
堂々と干渉できる立場になったのはある意味ラッキーでした。
スリザリンからもモテるようなので、母親って心配事が絶えません。


あなたの名付け子は、それはもう見事に落ち込んでいます。
手紙を書くなりなんなりして、励ましてあげなさいね。

名付け親らしい事をしたいなら、ホグズミードの許可証がお勧めです。
提出用書類を同封しておくので、来学期までに仕上げてください。


スキャバーズの元飼い主は元気です。
ちゃんと回復したから、心配しないで。

ただ、ペットが居なくなったショックはあるみたいです。
ネズミは懲り懲りでしょうから、フクロウでも見繕ってくれませんか?
わたしでは無理です。なぜなら未だにフクロウの良さがわからないからよ。
あんなモコモコしたもの!絶対に鷹やら鳶やら鷲のほうがカッコいいに決まってます。


もし隠れる場所に困ったら、わたしの昔のアパートを貸してあげましょう。
鍵は掛けてないはずです。場所は覚えているでしょうね?
12年も無人だったので埃御殿になっています。目くらましにはもってこいです。
でもついでに掃除をしてくれたらとってもとっても助かるわ。

いよいよダメそうなら、うちに来てください。
元闇払いが本気で仕掛けた結界が何重にもなっている家です。
魔法省にはぜったい見つかりません。かなり頑張りました。
ただし直接訪問されたらおしまいなのがネックです。


とりあえず一度は、ゴドリックの谷に寄るのでしょう?
わたしも元気でやっていると、2人に伝えてください。
できれば、教師の任期が終わったらすぐに元の仕事が始まるので
しばらく会いにいけそうもないことを謝っていた、とも。


副校長も、あなたのことを信じると言って下さいました。
次に会うときにはお説教が始まることを覚悟しておいたほうがいいでしょう。


さて、こちらの目立った動きはこんな感じでしょうか。
どこかで捕まってさえいなければ、返事はなくても構いません。



旅路の平穏を祈って
あなたの鷹より






は禁じられた森の近くで、指笛をピュイっと鳴らした。
すると、それに応えてアカトビがサッと舞い降りてくる。

トビの嘴に書き終えた手紙を入れた封筒を加えさせ、背を一度撫でる。
嬉しそうに目を細めると、トビは高く舞い上がった。

はそれを見送り、最後の仕事へ向かう。
ホグズミード駅から汽車が出るまで、あと30分。















愛しの鷹へ



きみが相変わらず元気なようなので、まずは一安心だ。
このトビは昔からよく懐いていたあのトビか?でかくなったもんだな。


さてムーニーの件だが、家庭教師として雇うべきだろうと思う。
きみも何度か我々の寮へ来たことがある身なのだから、
彼の整理整頓能力の局地的な壊滅さ加減は分かっているだろう?
水まわりの掃除をさせると天下一品だが、四角い部屋を丸く掃除する奴だ。

とにかく、あいつの所にも寄ろうと思う。
俺の貯金を崩してでも餓死はさせないから安心しろ。

余談だが、蝙蝠に水は手緩いと思うぞ。次は樹液でもかけてやるべきだ。


あの子が色々な寮に友人を持つのは、ごく自然なことだと思う。
ほぼ1年を過ごし、あの子の人間的な魅力はよく分かったからな。

ただ、俺の家のことで何かしらトラブルに巻き込まれやしないか心配だ。
特にマルフォイの息子には気をつけろ。俺はあのガキだけは嫌だぞ。
別紙にあの子へのメッセージも同封するので、渡してやってくれ。


名付け子には、ちょうど手紙を書いていたところだ。
許可証はありがたく使用させてもらう。さすが教師だな。

その手紙を運ばせるフクロウを見つけたので、
それをスキャバーズの元飼い主に譲るというのはどうだろう?
ただ、どうにも落ち着きが無いのが心配だ。

フクロウの良さについてはまた議論する必要があるようだな。
もちろん俺は猛禽類も好きだが、フクロウだって悪いもんじゃないぞ。
あのフワフワが嫌なんだったら、犬を枕にしていたのは矛盾していないか?
とりあえず、あの子にはその習慣が遺伝していないことを願うばかりだ。


きみの昔のアパートは覚えている。
鍵をかけていないのか?相変わらず無用心な奴だ。
掃除も、余裕があればしておこう。
俺は掃除に関してはムーニーより評判がいいんだ。

ただ、きみの家に行けるかどうかは分からない。
行ってみたいのが本音だが、これ以上迷惑をかけるのは忍びないのでな…
その結界、アパートのほうには張ってないのか?
呪文を教えてくれると助かるんだが。


ゴドリックの谷にはちょうど行って来たところだ。
きみからの伝言も、きちんと伝えておいた。
たぶん2人とも、分かってくれているさ。
嫁さんのほうは、きみの活躍を楽しみにしているかもしれないし。


副校長のことは覚悟しておこう。
あの人、説教し始めると3時間は止まらないからな……


こちらでは、ヒッポグリフも元気でやっている。
もしハグリッドも事情を知っているのなら、そう伝えて欲しい。


終わりになってしまったが、今回のことで、どうかあの子を叱らないでやってほしい。
あの子は本当によくやってくれた。優しくて、賢い、本当にいい子だ。
多少無茶もしたかもしれないが、あの子はただ、巻き込まれただけなんだ。

きみが引っ叩きたりないのなら、俺は何度だって頬を差し出そう。
だから次に会うときには、今度こそきちんときみに触れることを許してほしい。



きみとあの子の幸せをいつも願っている
パッドフット






シリウスは返事をねだるように嘴を鳴らすトビに、「もう少し待ってくれ」と頼んだ。
そして少し考えて、インクをもう一度つける。


追伸:
あの子の誕生日はいつなのか知りたいんだが、教えてくれないか?
どんなものが好きかも教えてくれるとありがたい。



書き足すと羊皮紙を折り畳み、封筒に入れる。
トビの嘴に挟み、別の封筒を小さなマメフクロウの嘴に挟む。

2羽の鳥を大空へ放してやると、バックビークが鳴いた。
「よしよし」と嘴を撫でてやると、満足そうな表情になる。



「バックビーク、おまえも、俺の娘に助けられたんだってな。
 あの子はいい子だっただろう?お前もそう思わないか?」



バックビークは翼をばたつかせた。
シリウスにはそれが「その通りだ」と言っているように見えた。



「さあ、次はムーニーのところに行こうじゃないか」



















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