ああ、そうか
BEHIND THE SCENES : VI.
(i) case of him
・アンドロニカスの組み分けは伝説的だった。
わたしはグラスを持ちながら、笑いたいのを必死で堪えている。
まさかあの子があんな風に帽子に語りかけるとは思わなかった。
子供というのは本当に、わたしたちの想像を超えた行動をするのだな。
「…何が可笑しい」
「いや…が…あまりにも可愛かったからね…」
セブルスが顔を顰めた。
うん、まあ、彼にとっては楽しいものではなかったろうと思う。
わたしはワインのボトルを彼に差し出した。
「要らん」
「そう言わずに。せっかくの宴会なんだから」
「貴様の酒など飲む気にならん」
セブルスは淡々とレタスを口に運んでいる。(相変わらず野菜好きだなあ)
わたしは久しぶりの豪華な食事なので、思い切り色んなものをパクついているけれど。
ああ、デザートが待ち遠しい。(今はカスタードが食べたい気分だ)
「…グリフィンドールか」
「うん?のことかい?」
セブルスはふんっと鼻を鳴らした。
どういう意味なのだろうか。
まさかあの子をスリザリンに欲しかったのだろうか。(まあ、無いだろうが)
「じき、わかる」
「……へぇ」
セブルスはここのところ、いつもそんな調子だ。
ホグワーツに着いて初めて彼の部屋に行った時もそうだった。
じきわかる。
何がわかるというのだろう。
「…………ルーピン」
フリットウィックが立ち上がった。
扉の方へ歩いていく。
「なんだい?」
「…………………」
セブルスは無言で顎をしゃくった。
フリットウィックの方を示している。
「だからなんだってい………え?」
ダンブルドアの手招きで、女性が、大広間に入ってきた。
「………あ、……」
黒いシンプルなスーツ姿をした女性だった。
髪が綺麗に波打っている。
――紹介しよう
ダンブルドアの声が遠くで聞こえるようだった。
「………?」
―・先生じゃ
だった。
そこに立っているのは間違いようもなくだった。
(じき、わかる)
ああ なるほど
そういうことだったのか
ダンブルドアがの経歴を述べている。
わたしの耳には届かない。
の背中しか、見えない。
*
「……」
彼女は足を止めた。
手を玄関ホールのドアのノブにかけていた。
わたしは生徒の波を必死に掻き分けた。
彼女を視界から失いたくなかった。
また、どこかに行ってしまうような気がした。
「リーマス」
彼女は薄っすらと笑った。
手首が動き、ドアノブを捻る。
待ってくれ
行かないでくれ
「…待って!」
わたしは彼女の手首を捕まえた。
ドアが軋んだ。
月光がホールを這った。
「リーマス」
「待ってくれ」
「生徒が」
「行かないでくれ」
行かないでくれ
どうか
きみがわたしの夢じゃないのなら
はわたしの手首を掴み返すと、反対の手で扉を押した。
されるがままに、わたしは彼女について玄関の扉をくぐった。
欠けた月が仄かに見えていた。
校庭の緑の草は今は黒ずんでいる。
小雨がわたしたちの体を打った。
彼女の手をわたしは掴んでいる。
夢ではない
幻ではないのだ
わたしは小さな彼女の体を抱き寄せた。
触れることができた。
生きた彼女を感じた。
「……無事だったなら!」
「リーマス」
「連絡をくれってメモがあっただろう……!」
12年前のことがわたしの脳裏に甦る。
大嵐の晩。ダンブルドアから連絡を受けたときのことだ。
わたしは待っていた。
彼女が帰ってくることを信じてずっと。
「…ええ、見たわ」
「だったら…!」
「…ごめんなさい…」
彼女を抱く腕に力を込める。
「…ダメだった」
「」
「もう、頑張れなかった。…ごめんなさい。
すごく迷惑かけちゃったね……わたし……」
彼女を抱く腕に力を込める。
「いいんだ」
「リーマス?」
「今…帰ってきてくれた…それでいいんだ…」
彼女の存在を腕の中に感じる。
「おかえり、」
「……ただいま…」
の腕がわたしの背中にまわされたのがわかった。
「ずっと待っててくれて…ありがとう」
いいんだ
きみが居てくれれば、それで
「おかえり」
おかえり、。
帰ってきてくれて、ありがとう。
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