V.

ある年の5月。朝刊が巨悪の瓦解を報じる一方で列挙されていた名前のリスト。そこにあったよく知る名前は、少女らしいものを好む彼女の母親によってつけられた、正直ちょっと擁護しきれないようなただひとつの名前。ただし、もう僕の知る名前そのものではなくなってしまっている。その名前を支配する見知らぬファミリーネームの所為で。
彼女が勝ち取った新しい家名、それと同じものをリストから探す。と、探すまでもない。彼女の名前の隣にあるではないか。レムスだかリーマスだか知らないが、僕の幼馴染をあっという間に連れ去ってしまった憎い野郎であることに変わりは無い。

数年前は、僕が獲得し得なかった主席というタイトルを手にした同級生が、その端正な顔立ちを無残にするような傷を負って担ぎ込まれたこともあった。それから、そうだ、厳格なる副校長が年甲斐もなく決闘したとかで搬送されてきたこともあっただろうか。世界は相変わらず、僕や僕の同輩を残して進んでいる。

「君の検死なんかしたくないと、言ったと思ったんだけどなあ」

その朝、ホグワーツから届いたたくさんの棺桶。そのひとつに、彼女は納められていた。棺の蓋を開けると、穏やかな顔で瞼を下ろしているニンファドーラ・ルーピンの身体が目に入る。その頬を撫でて、ついでに何かに引っ掛けて出来たのであろう傷を塞いだ。組んだ両手のところでランプの光がきらりと反射する。ひどく簡素なリングが目に入ると、僕はもう、涙を堪えることが出来なくなってしまった。