こういの意味 あぁ、しまった。 思った時には既に無意識に手を伸ばした後で。 そのまま引っ込めるのは逆におかしい状態。 止まった手を再びその口元へと伸ばす。 「…ついてるぞ」 あぁ、やっぱり固まってる。 口の端についたクリームを拭ってやれば、柔らかい感触にちょっとキスしたいなんて思う。 顔には出さないけど。 手についたクリームをどうするか一瞬だけ悩んで、どうせ固まってるなら…と自分の口へと運ぶ。 ―――…甘い。 「イギリス?」 「あ、あぁ?」 ぼんやりと固まっている視線の前で手を振れば、ようやくその焦点が合って。 きょんとした顔がみるみる赤くなっていく。 おま、」 「はい。ごめん。お兄さんが悪かった」 ここはいつも二人でお茶を飲む喫茶店。 イギリスの家でもなければ、パリではあるけど我が家でもない。 当然、周りは主に綺麗で可愛いパリジェンヌたちがのんびりとお茶を楽しんでいるそんな場所。 さっきの自分の一連の動作はそんな彼女たちの目の前で行ったもので。 結果、実際に紳士…かどうかは置いておいて、常に紳士であろうとしているイギリスには許容できる行動ではなかったんだろうなんて想像に易かった。 ―――…お兄さん的には別によかったけど。 ぱくぱくと開いては閉じる口。 内心で罵倒と紳士が戦っているのだろう。 本当に、人の目…特に女性の目がある場所でのその自制心は凄い。 同時に国同士の会議や自分の前でその箍が外れているのが、実は嬉しいとか言ったらきっと罵倒の勝利になってしまうのだろうと思ったから、大人しく立ち上がることを選んだ。 「イギリス」 「………」 促して。 本当はそのまま手を繋ぎたいけれどそこは我慢。 手で外を指し示して先に足を踏み出せば、大人しく付いてくる。 それが常にない殊勝で従順な態度すぎて苦笑する。 「な、さっきのお詫びするからさ。スーパー行かない?」 「は?」 「晩御飯、う〜んと豪勢に好きなもの作ってあげる」 「………」 「お酒もとっておきのワインあけよ?」 「………」 「そんで思いきりいちゃいちゃさせ」 「てめぇ、その態度のどこが詫びだ!」 「いたっ!」 向う脛は止めて。マジで痛いから。 蹴飛ばされた足を抱えてぴょんぴょんと飛び跳ねればようやく元に戻ったのか、イギリスは「ふん!」と可愛くない仕種で鼻を鳴らして。 一歩、前を歩きながら可愛い命令を下した。 「ワインにはつまみ作れ。そんで夕飯はカレー」 「は〜い」 「あと…デザートもつけるなら泊ってやる」 「マジで?!」 少しだけ耳を赤くするその後ろ姿、そっと伸ばして手を繋ぎたくなったけれど、今夜のことを考えて我慢した。 |