2人で桜見物。
百目鬼に肩車されると、神田でも桜に手が届く。
「魁ちゃん、もー少し前に行って。」
「このくらいか?」
神田を肩に乗せても、軽々とした足取りで桜に近付く。
よく晴れた空色に、薄ピンクの花弁が綺麗に映える。
ゆっくりと手を伸ばすと、清かに揺れた枝からひらりと一枚。
神田の伸ばした手の平に乗るかと思った矢先に、
意地悪なそよ風が吹き、指先をかすめて飛んでいってしまった。
「あーん、もう少しで花びらが取れそうだったのに。」
百目鬼の肩の上で跳ねながら、悔しがる。
「そんなに動くと危ないぞ。」
そう言うと、神田の足をしっかりと掴みなおす。
「平気だもん。」
ニコニコ笑って、百目鬼の頭をギュッと抱きしめる。
神田は、百目鬼の頭に手を回したまま頬を乗せ、静かに目を閉じた。
「ねえ、魁ちゃん。」
静かに呟く。
「いいね、春って。あったかくって、ほんわかして。
こういうのってさ、幸せって言うんだよね。」
百目鬼は「そうだな。」と返事をした。
暖かい、ほんわかした重力、
幸せの重力を感じながら・・・。