雲ひとつない、いい天気。
絶好の合同練習日和である。
朝日町応援団の面々は杉田の運転するマイクロバスに乗り、
約束の10分前に夕日町応援団の練習場である、夕日川河川敷にやってきた。
「整列!」
「押忍!」
斉藤の掛け声で朝日町、夕日町応援団が綺麗に向かい合わせて二列に並んだ。
「よろしくお願いします!」
「双方の各パートごとに分かれて、練習開始!」
二つの応援団の新人同士、サイド同士、もちろんリーダー同士で練習が始まった。
一本木はこのところ、この合同練習が気になって仕方がなかった。
いや、合同練習で顔を合わせる西園寺のことが気になっているのだ。
昨日、斉藤に心の内を吐露することが出来、少しは気持ちが軽くなった。
しかし、実の所、夕べはなかなか寝付けなかったのである。
「どうした、一本木。今日は切れが甘いぞ。体調でも悪いのか?」
練習に集中し切れていないのを西園寺に見抜かれたのか、心配そうな顔で聞いてきた。
「いや、大丈夫だ。
それより、ここは腕をこうしたほうがいいと思うが、お前はどう思う?」
自分の気持ちを悟られまいと、練習に集中しようとする一本木。
だが、集中しようとすればするほど、西園寺が気になって仕方ない。
西園寺の演舞を見る、先日のように眩しくて見られない、ということはない。
金色の髪が体を動かすと太陽に反射してキラキラと輝く。
西園寺の真剣な顔を見ていると、胸の奥が膨らんでいくような感覚がしていた。
何とかパート練習が終わり、一時休憩となった。
一本木はベンチにゴロリと横になった。
「はぁー。」
思わず、大きなため息が出た。
田中が皆にスポーツドリンクを配って回っていた。
「はい、一本木さんの分ですよ。珍しいですね、今日は。一番に取りに来ないなんて。
朝日町の方々がいらっしゃってるから、遠慮でもしてたんですか?」
少しからかったような口調に反論もせずに、
「うっせーな。」
と答えるだけだった。
起き上がって一気飲みし、辺りを見回した。
目に留まるのは、やはり、西園寺だった。
菊地と談笑している、その姿を見つめることが出来なかった。
左腕を枕にし、右腕で目隠しをするように、再びベンチに横になった。
「(あぁ、どうしようもなぁ・・・、あいつ見てるとおかしくなりそうだ・・・。)」
西園寺の顔が浮かんでは消える。
すると、ザザッっと、誰かの足音がした。
腕を少し浮かせて音のするほうを見ると、上品な靴先が見えた。
「斉藤か。」
こういう靴を履くのは、夕日町応援団では斉藤しかいない。
「なあ、斉藤。昨日はありがとな。
お陰で今日は西園寺の顔を見ることが出来たよ。
で、わかったんだ。やっぱり、俺、あいつが好きだ。」
そう言い、体を起こすと、目の前にいたのは斉藤ではなく、西園寺だった。
長い時間見詰め合っていたように感じていたが、実際は数秒だったかもしれない。
「あ、いや、西園寺、あのさ・・・。」
戸惑って言葉にならなかった。
「た、体調は大丈夫なようだな。こ、後半もがんばろうではないか。」
西園寺の頬が少し赤くなっているようだった。
「ああ。」
返事をしたものの、後の言葉が出ない。
しばらく沈黙したものの、思い切ったように言った。
「さっきの、変に思っただろ。お前に聞かせるつもりはなかったんだがな。
でも、あれ、俺の本心だ。
だからといって、どうこうするつもりはない。
さっきのことは忘れてくれ。」
一本木は西園寺の目を見詰めていた。
西園寺も一本木から目を逸らすことなく聞いていた。
何か言おうと、西園寺が口を開けた時、
「集合!」
号令がかかった。
「・・・先に行っているぞ。」
そう言い、金髪をなびかせて走っていった。
その背中を追いかけるように、一本木が走っていった。
後半の練習は思いのほかすんなりと終わり、朝日町応援団は再びバスに乗り込み、帰っていった。
そのバスを見送る一本木の顔は、練習前と違い、晴々としていた。
龍太、告っちゃいました。事故ですが。
本人に聞かれたものは、しょうがないね。
西園寺がどうするか、どうすることもないのか。
貴公子の思考はよくわかりませんが、
菊地の気持ちもあるし、これは西園寺は知らないけどさ、
みんな幸せになってほしいな。