夕日町の夕焼けが出る少し前、一本木龍太はアパートに帰ってきた。
昨日の朝日町応援団との合同練習の後、実家に帰っていたのだ。
郵便受けをガサゴソとかき回し、DMやくだらないチラシを握り締めた。
「チッ、つまんねーもんばっか・・・。」
ふと、自分の部屋の前に誰かが立っているのが見えた。
金色の髪を光らせた、西園寺隼人だった。
「どうしたんだ、こんな所で?」
「一本木に話があって待っていたのだ。」
ほんのりと頬が赤く見えたが、視線は真っ直ぐと一本木に注がれていた。
「話、か。入るか?部屋。汚ねーけど。」
ガチャガチャと鍵を開け、ドアを開けて部屋に入った。
「あぁ、邪魔するぞ。」
真剣な顔をして、西園寺も一本木の後を追った。

「空いてるところに適当に座ってくれよ。」
台所から声をかける。
が、西園寺からすると、どこが空いているのか分からなかった。
ゴミこそ一箇所にまとめられていたが、何しろいろんな物が乱雑に床においてあるのだった。
しかし、鉢巻、腕章、学ランだけは、壁に綺麗に飾られていた。
西園寺が立ったまま部屋を見回していると、台所から一本木がペットボトルを2本持ってきた。
足で座卓の周りの雑誌をガサガサと退かすと、
「空いてるとこ無かったな。そこ、座れよ。」
と、笑った。
一本木は西園寺の向かいに座り、
「水しかないけど、飲めよ、ホイ。」
ペットボトルを渡し、ゴクゴクと喉を鳴らせて水を流し込んだ。
それを見て、西園寺も少しずつ水を飲む。

初夏の夕方、西日が当たるアパートの中は、じんわりと汗が滲んできた。
黙ったまま、男二人がペットボトルの水を飲んでいる。
沈黙を破ったのは、一本木だった。
「・・・で、話ってのは、昨日、俺が言ったことか・・・?」
「ああ、そうだ。」
意を決して、西園寺が話し始めた。
「昨日、お前に、その、す、好きだ、といわれてだな、いろいろ考えたのだが、
 よく分からなくなったので、直接聞いてみるのがいいと思ったのだ。」
「分からなくなったってのは、どういうことなんだ?」
一本木は水を飲み干して言った。
「それはだな。俺とお前の出会った頃のことを覚えているか?」
「ああ、新入団員の頃だろ?忘れねーよ。お前は生意気そうなやつだったよ。」
そう言い笑う一本木を見て、西園寺は拗ねた様に
「生意気そうとは!失礼なやつだなあ。」
と言い、微笑んだ。
「一本木、お前は、新入団員のくせに、荒削りではあったが、人を引き付ける演舞をしていた。
 俺は魅了された・・・。
 お前には負けたくないと思い、練習に励み、リーダーになった。
 だが、お前に勝てたと思ったことはない。
 なぜなら、今でもお前の演舞を見ると、引き込まれてしまうからだ。」
「それは知らなかった。俺はお前にはだけは負けたくないと粋がってたからなぁ。」
西園寺は水で喉を湿らせながら話した。
「先日の地球と太陽への合同応援の際に気が付いたのだ。
 お前の演舞がないと、俺は応援への気合が入らないと。
 お前が俺の前から消え去ってしまった時、どうしようもない気持ちになった。
 必死でエールを送った。
 俺のエールでお前がまた応援できると分かり、とても嬉しかったんだ。
 共に地球を救うことが出来、誇りに思った。
 しかし、なぜ、お前と応援することに喜びを感じるのか、それがよく分からなかった。
 それが、お前の昨日の言葉で分かりかけたのだが・・・。」
そういうと、黙ってしまった。
「・・・それって、俺もお前も男だってことか?」
一本木は右膝を立てた。
「相手が男なのに、好きになっていいのか、とか思ったのか?」
その言葉に西園寺はパッと顔を赤くした。
「恋愛は、男女でするものだ!
 しかし、お前は俺のことが好きだと言う。
 俺は、お前に愛情を感じているのか、それとも友情なのか。
 そこのところが分からないのだ。」
そう言うと、下を向いてしまった。

「・・・俺は、男でも女でも、関係ないと思っている。
 だから・・・。」
ズリズリと座ったまま西園寺の右側まで寄る。
「もし、嫌ならすぐに嫌と言え。殴ってもかまわない。
 きっと、それは愛情ではないんだろうから。
 嫌じゃなかったら・・・。」
一本木の右手は西園寺の髪を撫でていた。
優しく撫でていた手をゆっくりと下ろし、肩を抱きしめる。
ビクッと西園寺の体が跳ねた。
「俺だって、この気持ちに気が付いたときは戸惑ったんだぜ。」
今度は左手で金髪を掬い上げ、耳にかけ、普段はあまり見ることのない耳を露にする。
「でも、好きなもんは好きなんだ。」
顔を近づけ、耳元で囁いた。
そして、優しく耳に口付けた。
「い、一本木・・・。」
西園寺の声に反射するように顔を遠ざけ、腕の力を緩めた。
「やっぱ、嫌か?」
顔を覗き込むと、恥ずかしそうに下を向き、
「嫌ではない。むしろ嬉しいのだ。これは、友情ではないと思うのだが・・・。」
と、小さな声で言った。
上目遣いで一本木の顔を見ていた。
「(くぅー、いい顔してやがる)ああ、それは愛情に違ーねーよ。」
たまらなく愛おしくなり、西園寺の顔に近づき、口付をした。
舌を入れようとした時、
「!!☆*#$、な、何をする!」
顔を真っ赤にして、一本木を突き放した。
「何って、キスしてたんだけど。・・・初めて、か?」
西園寺はうなずくと、
「・・・キスというものは、口と口をつけることではないのか?」
耳まで赤くなっている。
「いろいろとあるんだぜ。俺も男とは初めてだけど、たぶん男も女も違いはねーと思うから。」
言いながら西園寺に近づき、キスをした。
舌を入れ、口の中を掻き回すと、西園寺も少しずつ応戦してきた。
激しく、そして優しく・・・。
ゆっくりと顔を離すと、
「一本木。俺もお前が好きだ。」
真っ直ぐな、真剣な目だった。
このまま抱きしめていたかった。
しかし、このままだと自分が抑えられない。
「今日はお前の気持ちが分かってよかったよ。
 もう、夕日が半分沈んでるし、送ってくか。」
精一杯の我慢だった。

「もうそんな時間か。・・・またここに来てもいいか?」
「ああ、いつでも歓迎するよ。」
二人で部屋を出て、夕焼けの中を歩いていく。
幸せそうな顔をして・・・。


西園寺はずっと龍太のことが好きだった見たいです。
かわいいなぁ、西園寺。
これからが楽しみ^^
菊地はこの事実をいつ知ることになるのだろう・・・?
ショックだろうなぁ、やっぱ。