ヒュー・・・、ドォーン。
パラパラパラ・・・。
暗い夜空に花火が上がっている。
今日は夕日川大花火大会。
夕日川河川敷には大勢の人が花火を見ている。
応援団室は、今日の花火大会は格好の良物件だ。
応援団員はここで楽しんでいたが、一本木の姿はなかった。
だからといって、花火を見ていないわけではない。
違う場所で見ていたのだ。
「ここ、最高だろ。」
暗闇の中で声がする。
「ああ、こんないい場所があるとは、知らなかった。」
話しているのは一本木と西園寺だった。
二人がいるのは夕日小学校の校庭にある桜の木の上。
樹齢何年だかはっきりと分からないくらいの大きな桜の木なのだ。
その木の中腹の太い枝に、二人で座っていた。
「大体の人は河川敷か山に行って見てるだろ。穴場なんだぜ、ここは。」
得意気に話しているが、暗いせいでよく見えない。
だが、一本木の顔が見えているかのように、西園寺は感じていた。
「誰にも教えてないんだ。誰かを連れてきたのも、初めてだ。」
また一つ、花火が上がった。
一本木は、少し西園寺の近くに寄った。
「俺が初めてか。俺も、小学校の門を乗り越えたのは、初めてだ。」
西園寺が笑う。
花火の赤い光が、二人をほのかに照らす。
「俺は、毎年花火は、家族と共に河川敷で見ていた。
今年はお前と二人だなんて、今までの俺からは考えられないことだ。」
「そっか、家族かあ・・・。俺は毎年、ここで一人で見てたよ。」
遠くの空を見ながら、呟くように言った。
「毎年一人で見てたのか?」
驚いて、一本木の横顔を見た。
「てっきり、応援団員や付き合っていた女性たちと過ごしていたのだと思っていたが。」
「あいつらとここに来たら、木が折れちまう。
それに、今まで付き合った女で、ここに登れそうなやつはいなかったしな。」
一本木はそっと西園寺の肩に手を置いた。
「お前がここにいてくれるのが、俺は嬉しい。」
西園寺の頭に自分の頭をぶつけると、コツッと小さな音がした。
隣に西園寺がいることを実感し、そして、安心した。
静けさが漂う。
遠くで自動車のクラクションが鳴っている。
「・・・花火、終わったのか?」
「いや、まだ中盤のはずだ。おかしいなあ、事故でもあったのか?」
一本木が立ち上がろうとした時、
一際大きな花が夜空に咲いた。
キラキラと花びらが散り、最後の光が消えるまで、声が出なかった。
「・・・綺麗だな。」
「・・・ああ、ほんとに空一面の花火だったな。」
「いや、お前のことだ、一本木。」
突然綺麗だと言われ、バランスを崩した。
「なっ、うわっ。・・・っと、落ちそうになったじゃねーか。何だ、そりゃ。」
「大丈夫か?気を付けないと、ここから落ちると痛そうだぞ。」
西園寺は、至って真面目な顔をしていた。
「お前の赤い髪は、誰にも負けない強さを感じる。お前らしい、お前にしかもてない髪だ。」
「な、何言ってんだ。俺のはただのツンツンの赤毛だ。」
耳まで真っ赤になっていた。
今度は色違いの大きな花火が上がった。
「俺はお前の髪が好きだ。」
一本木は赤い光に染まった金髪を掬った。
「キラキラと輝いて、いつでも目に付いて、気になって・・・。
誰のどんな金髪より綺麗だ。」
掬い取った髪に口付けをする。
「・・・この髪は、祖母譲りらしい。俺は写真でしか見たことはないがな。
よく言われたものだ、おばあさまにそっくり、だと。」
顔を上げ、西園寺を見つめた。
「そうか、ばあちゃん譲りか。写真でって、会ったことないのか?」
「ああ、俺が生まれてすぐに他界したらしい。会ってみたかったよ。」
「悪いこと聞いたな。」
「そんなことはない。気にするな。」
ボン、ボン、と、連続花火が上がっている。
「・・・俺のばあちゃんは、強くて、優しい人だった。」
花火を見ながら、呟いた。
「いつでも俺の味方で、でも、よく叱ってくれて・・・。
応援団に入る前の年に、死んじまったよ・・・。あの日の花火も、綺麗だった・・・。」
花火が消え、空が暗くなった。
ズズッと一本木は鼻をすすった。
西園寺がぎこちなく一本木の肩を抱く。
引き寄せられるように、西園寺の肩に頭を置いた。
黙ったまま、お互いの体温を感じていた。
いくつか花火が上がり、そろそろ終わりの時間が近づいていた。
一本木は頭を上げ、西園寺を見つめた。
「お前と花火が見れて、ほんとによかった。」
「ああ、俺もだ。」
西園寺も見つめ返した。
「一人じゃないって、いいもんだな。」
顔がだんだん近づいていく。
「これからずっと一緒だ・・・。」
互いの唇が合わさった。
最後の花火が上がり、柔らかい光が二人を包み込んだ。
しばらく、二つの影は離れることはなかった。
龍太は、ばあちゃんっこだったみたいです。
夏のいい思い出として残したいなぁなんて思ったら、こういうものになりました。
かわいらしい二人で、どうでしょう。