西日の当たるアパートに、一本木龍太は一人で寝ていた。
応援要請が重なったのに、少し風邪気味だったのを甘く見ており、
とうとう悪化してしまったのだ。
練習を休んだのは、これで2回目だ。
1回めは新人の頃、張り切りすぎてばててしまった事があった。
百目鬼団長に
「自己管理がなってない!」
と叱られて以来、気をつけていた。
熱が下がらず、起き上がるのも億劫だ。
なのに、アパートのドアがトントン、と鳴っている。
「先輩、大丈夫ですか?」
田中一の声だった。
「(ガチャ)あー、無用心ですよ、鍵もかけないで寝てるなんて。」
そう言いながら、ガサガサと買い物袋を手に提げて、部屋に上がってきた。
一本木は布団の中から熱で火照った顔を覗かせた。
「・・・田中かぁ。何か用か・・・?」
嬉しい顔が訪ねて来てくれたのに、こんな言葉しか出ない。
「何か用かって・・・。先輩が風邪引いて練習を休んだんで
お見舞いに来たんですよ。」
買い物袋を置き、一本木のそばに座り、
そっと額に触ってみた。
「うわっ、あつっ。熱ありますね。ちょっと待っててくださいね。」
田中は買ってきた物を台所に並べ、何やら準備している。
少し朦朧としている頭で、一本木は悔しさを感じていた。
こんな姿を田中に見られることの屈辱感。
お前の前では常に漢でありたかった、弱みなんてみせたくなかった・・・。
田中は冷凍庫から氷をガシャガシャと出している。
氷枕を作りながら、
「桃とみかん、どっちが好きですか?」
と聞いてくる。
「・・・・・・。」
「えっ?すみません、ちょっとよく聞こえなかったんですが。」
氷枕を持って、側まで来た。
「どっちがいいですか?」
一本木はぷいっと反対向きになり、
「・・・帰れ。」
「へ?」
「・・・お前にうつると面倒だから、帰ってくれ。」
精一杯の言葉だった。
田中は氷枕にタオルを巻いている。
「聞こえなかったのか?・・・帰れ。」
布団を頭までかぶり、潜り込んでしまった。
フゥ、と布団の外でため息が聞こえた。
「別に構いません。だって、先輩の風邪だったらうつったって平気です。
先輩のこと・・・、好きだから・・・。」
ゆっくりと布団の中から顔が出てきた。
「お前・・・。それって・・・。」
田中は照れ笑いしながら、
「はい、そのままの意味です。」
と言いながら、顔を近づけてくる。
「先輩、知ってます?風邪は人にうつすと早く治るって・・・。」
言い終わる時には、田中の唇は一本木の唇に重なっていた。
ほんの数秒の出来事だった。
しかし、田中の顔が赤く変わっていたのは
西日が当たっているためだけではなさそうだった。
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