いつの間にか車の中で眠ってしまって、朝日に目を覚ますと、そこはもう私の見知った景色は広がってはいなかった。 閑散とした、何もない野原が広がって道もかろうじてあるような、なんというか、はじめてみたこういう田舎?という場所に驚きつつ、 興味がわくばかりだった。ぽつり、ぽつりと建物が立ち並ぶ中に、ひとつとても大きい古いお屋敷みたいなのが見えて、雲雀さんの車は そのお屋敷に誘われるみたいに走っていく。お屋敷のまわりにはとても大きな庭があって、その周りには鉄の柵があって、その高さと いったら、10メートルくらいあるんじゃないかと思った。雲雀さんの車が正面の門まできて、少し止まるとすぐに扉が勝手に開いた。す、 すごい!私が前に寝込んでいた白い部屋の自動扉にも驚いたけど、ここにもとても驚いた。あんなに大きくて重そうな門が勝手に開くなん て。これまた感激していたら、そんな私を無視するみたいに雲雀さんの車は前に進む。庭もとても広い。木とか花とかたくさん 植えられていて、ここが一つの森みたいだ。大きな噴水もあって、その横を通り過ぎるとお屋敷の扉が、白い階段の上に見えた。なんだ、 なんだここは、映画のセットみたいだ!


「雲雀さん雲雀さん、ここが本部ですか?」
「正確に言うとちがう」
「じゃあ、ここはどこですか?」
「本部のエントランス、とでも言っておこうか」


雲雀さんの言っていることがよくわからない。ここは本部じゃないけど本部のエントランス?エントランスって確か、入り口って意味じゃ なかったっけ。遊園地とか、入場料払うところと一緒?この大きなお屋敷の向こうに本部が広がっているとか?雲雀さんが白い階段の前に 車を横付けして、車を降りた。私も急いであとを追うと、雲雀さんはすでに足早に階段をのぼっていたからあせった。階段は目の前にしてみると結構高くて、 上るのが大変だと思いながら駆け上がった。若さをなめるな!そういえば、さっきから私のテンションが上昇しっぱなしなんですが、どう しましょう。


大きな扉が、これまた勝手に開いた。驚いている私をよそに、雲雀さんはさっさと歩き出してしまって私はまたあわてる。すごい、床全部 が大理石だ。歩くたびにかつんこつんいうその床はとても気分がいい。きれいに磨かれて汚れ一つないし、感激だ。顔をあげたら、広い 廊下の先にとても広い階段が見えた。あんなに大きくみえたお屋敷なのに、二階までしかない。一階一階の天井がとても高いんだ。 お金持ちの家っていうのは天井が高いって聞いたことがある。すごい、こんなに天井が高いんだからさぞかしこのお屋敷は高いんでしょう に。それなのに、ここはただのエントランスだという。ということは、この上の階が本部?それともその奥に隠し部屋が広がっている、とか。私が二階ばかりを見上げて いたら、燕尾服をきた男の人が近づいてきて、目の前までくると礼儀正しくお辞儀された。私もあわてて頭をさげると、雲雀さんだけは 気にする様子もなく、横目に男の人をみて口を開いた。


「おかえりなさいませ」
「車を外に停めておいたから、車庫に回すよう言っておいて」
「かしこまりました」
「ボスは?」
「自室にて、待機されております。お帰りをお待ちしているのかと」
「昨日僕が蹴った仕事については?」
「草壁様が代理で向かわれ、契約は滞りなく進んでいると連絡がありました」
「そう」


雲雀さんが車の鍵を男の人に手渡して、適当な話を済ませて雲雀さんが「そう」というと、男の人はまた頭を下げる。それを見計らって 雲雀さんがまた歩き出す。階段へは上りだそうとせず、一階の奥へ向かうようだ。どこへ行くのかと思ったら、廊下のつきあたりにエレベーターみたいな ものがあって、あのくらいの階段なら歩いてのぼればいいのになと思いながら扉の開いたエレベーターに乗り込んだ。エレベーターの ボタンは「1」と「2」しかなくて、雲雀さんは2を押すのかと思えば、ボタンが並ぶその下にある穴に指輪みたいなものを差し込んでいた。 な、なにやってるんですか雲雀さん。そう思って目をまん丸にしていたら指輪を差し込んだとたんランプが点灯してがこんと動き出した。 上にじゃない、下に。


「雲雀さん、あの」
「本部は地下にある」
「地下!?」
「本部には何重ものセキュリティシステムが働いているから、入るにも出るにもそうとう大変なんだ」
「え、あの、いま雲雀さん大変そうに見えてなかったんです、が…」
「僕は顔パス。あと、入場券を持っているから」


入場券、と雲雀さんの言った言葉を反復するとうなずいて手に持つ指輪を示された。 すごい、雲雀さんってすごい人なんだ。知っていたけど。普通のファミリーの人とはちがうんだ。きっと幹部ってやつなんだ。確かに雲雀 さんってしっかりしてるし仕事できそうだし、強そうだしかっこいいし。あれ、かっこいいは関係ないのか。それにしてもボンゴレって すごい。いや、ボンゴレだけじゃないのかもしれないけど、すごい。マフィアってもっと恐いものかと思っていたけど、全然。むしろ かっこいいものだって関わっていくうちに知ることができた。うちのお父さんとお母さんがこの仕事をしていたなんて、全然想像できな い。きっと平社員だったにちがいない。そんなことを考えている間もエレベーターはすごく下にもぐっていくみたいだった。いうならば、10階から1階に降りるみたい な。いや、もっとかもしれない。とにかくエレベーターはどんどん深く下におりていってしまって、このままでは地球の一番真ん中まで 落ちていくんじゃないかと思った。ありえない話だけど。やっと止まって、扉が開いたらすぐそこに人が立っていて、乗る人かなと思って 早めにエレベーターを降りようとしたのに、雲雀さんはなぜかそこから動かなかった。


「よお、おかえり」
「何してるの」
「お迎えにきたんだよ」
「何のために」
「興味本位」


男の人が最後の言葉を言い終えるか終えないかくらいのタイミングで雲雀さんが何か武器を振り上げた。わ、わ、あれ、映画で見たこと あるぞ。名前なんていうんだっけ、トンファーだったかな、確か。すごく重そうなそれを軽々と持ち上げて男の人に殴りかかる姿は、はっきりいってきれいだった。 いやいやそんなことよりもなに!何が起きたっていうんだ!


「じょーだんだよ、落ち着けって!」
「気分が悪い」
「俺さ、あれからすぐ本部戻らされただろ?だからまだに再会してないなーって思って、挨拶しにきただけだって」
「口を慎めよ。が混乱する」
「え、雲雀、お前のことって呼んでんのか?」
「うるさい」


なんかよくわからないけど、背の高い男の人は雲雀さんのトンファーを華麗にかわして不機嫌そうな雲雀さんを前ににこにこしていらっし ゃる。なんだ、なにが起きてるんだ。雲雀さんがぷいとそっぽを向いたところで、背の高い男の人と目が合った。にこにこしてるけど、 なんていうか、ワイルドな人だなぁ。


「よお!」
「あ、ど、どうも」
「俺は山本武だ。よろしくな、
「は、はい!です!よろしくお願いします山本さん」
「ははっ、山本さんだって」


何かを懐かしがるように細められた目はとても優しげで、思わず胸が苦しくなりそうだった。 しかし、もうそろそろこの状況にもなれてきました。ここのみなさんはきっと、私のことを誰かと間違えている。もしくは混同している。 困ったものだ。











20070506