家だった。なんていうか、そこは室内で、地下と思わせないほど光に満ち溢れていて、そのせいで私はここがどこなんだかよくわからなくなった。 地下なのに窓があって、窓の外には庭があって、そこには鳥が飛んでいて木々や草花があって。雲雀 さん、うそつきました?ここは地下だといいましたよね。それにエレベーターはすっごく下に進んでいたし。それなのに、どうして空は 青いの?広い広い廊下に伴って続く窓の外を口をぽかんと開けながらのぞき、歩いていたら雲雀さんが立ち止まって、ほかの部屋よりも 幾分大きい扉のある部屋の前で立ち止まった。雲雀さんを見上げたらふたつだけノックして、「僕」と言ったと思ったらそのまま無遠慮に 扉を開けた。ノックするのはいい。名乗るのもいい。でも返事を待ったらどうですか雲雀さん。戸惑いながら開く扉を見送っていたら、 雲雀さんはさっさと中に入っていってしまう。


「やあ、おかえりなさい雲雀さん。ちゃんも」


そこにいたのは、いや、いらっしゃったのはボスだった。十代目ボスの沢田さん。私の頭の上がらない、尊敬するボスです。「お世話に なります」そう言って頭を下げたら、ボスはにっこり笑ってくれた。ボスはとっても優しい。私にたくさんの慈悲をかけてくださって、 私はこれから一生ボスについていこうと決意したのです。ボスのいる、このボンゴレで私は生涯を過ごそう。ボンゴレはとてもいい人たち ばかりで、本当に感謝してる。ボスはさっきも言ったとおりとってもお優しいし、獄寺さんはなんだかんだ文句を言いながらも世話を 焼いてくれるし、さっき会ったばかりの山本さんも「なんかあったら頼れよ」って言ってくださったし。ボンゴレはいいところです。なに より、雲雀さんがいてくれるから。雲雀さんは命の恩人。ボスよりも感謝していて、お慕いしていて、ボスと雲雀さんだったらきっと私は 雲雀さんについていくと思う。あ、ちがいますボスこれはボスを裏切るってわけじゃないんです。ボスのことはとっても尊敬していて、 できることなら、ずっとついていきたいです。


「本部はどう?」
「不思議がいっぱいでおもしろいです。さっき山本さんにもお会いして、とてもいい方だなって」
「そう、それは都合がいい。さっそく、部屋のことなんだけど」
「はい、どこでも構いません。物置とかでも」
「そういうわけにはいかないよ。ただ、今空いている部屋が5人部屋か、1人部屋の人と相部屋になってもらうしかなくて」
「5人部屋で構いません」
「馬鹿、意味わかってるの?5人って、ほかの4人は男って意味だよ」
「あ、はい、えーと、構いません」
「君がよくても僕がよくない」
「は」
「じゃあ、一人部屋の獄寺くんか山本か雲雀さんの部屋に」
「いや、そんな、お邪魔するわけには行きませんよ。5人部屋のほうでかま」
「僕の部屋でいいから」
「一人部屋の三人にはもう許可はもらっているから、ちゃんが好きな部屋を選べばいいよ」
「だから、僕の」
「決めるのはちゃんですよ」


有無を言わせないその言葉に、雲雀さんが舌打ちした。え、ボスに向かって!びっくりして雲雀さんのほうを見たら、こっちを何か言いたげな目で見ていた。いや、で きるなら誰にも迷惑がかからない5人部屋でいいんですが。雲雀さんがとめる意味が、わからないわけでもない。4人の男の人と1人の女の子 が一緒の部屋なんて、図的にいえばとても危ないのは私にだってわかる。でも、私ですよ。まだ13歳の子どもですよ。手を出すような物好きさんが いるんでしょうか。雲雀さんがよくないっていうからには従うよりほかはない。でも、だからって雲雀さんのお部屋にお邪魔になっていいん だろうか。山本さんでも獄寺さんでもいい。むしろ雲雀さんのご迷惑にはなりたくない。ああ、もうどこでもいいです、置いてくださるの ならば。


雲雀さんが私の肩を強くつかんで私の目をみて悲しそうな顔をする。


「遠慮なんてしなくていいから、黙って僕の部屋においで」


どんな、殺し文句ですか。胸の奥がきゅうってなった。なにこれ、なんだろうこれ。思わず首を縦に振ってしまったら、雲雀さんの表情が 少しだけ緩んで、ボスのほうにすばやく顔を向けた。


は僕の部屋を選んだから、これでいいよね」
「わかりましたよ、ちゃんは雲雀さんの部屋で」
、ついておいで」
「雲雀さん」


振り返ったら、ボスがにこにこしていて、雲雀さんは小さく息をついて私に先に出ていてって言った。なんとなく億劫そうな顔に見えたの は気のせいだろうか。部屋を出て、扉を閉めて廊下の白い壁にもたれかかってみた。目の前の窓の外をぼんやり見たら、鳥がはばたいて いて、きれいだと、純粋に思った。


「雲雀さん、ずいぶんと必死ですね」
「勝手だろう」
「ええ、だけどちゃんのこと、ちゃんと考えてあげてくださいね」
「当たり前だ」
「くれぐれも手を出さないように。ちゃんにとって今の雲雀さんは、ただの」
「わかってると言っている」
「なら、いいんですけど。あの日がくるまで、あまりちゃんを混乱させないように」
「それは僕じゃなくて、ほかのやつらに言ったほうがいいと思うけど」











20070507