「かの、じょ?」
「雲雀さんは、お付き合いされている方はいらっしゃるんでしょうか」
「お前かたっくるしい言葉つかうんじゃねぇよ」
「は、はあ」


獄寺さんはとても驚いた顔をしたかと思ったら、あきれた顔にかわって、ナイフとフォークを置いたかと思えば上着の中から煙草を出して 吸い出した。質問は、無視?言わないようにしたら言えって言われて、だから口を開いたっていうのに無視はないと思う、無視は。それと も聞いちゃいけないことだった、とか?あれ、それってどっちだ。いるってこと?それとも、いないって、こと?勝手な想像が膨らんでしまう。 いっそ、聞かないほうがよかったのかなと思うのに、一度開いてしまった口はなかなか閉ざすことが難しいようだ。


「じゃあ、結婚されているんですか」
「雲雀?」
「はい」
「んなわけねーだろ」


獄寺さんが馬鹿にするみたいに笑った。あ、ちがうんだ。なんだかどこかほっとしたみたいに、肩の力が抜けた。あれ、でもなんで?いや 雲雀さんが結婚されてないってだけで、どうして安心するんだ。おかしいおかしい、落ち着こう。結婚はされてないだけで、彼女はいるの かもしれない。彼女、女の人、いるとしたらきっと、すごくきれいな人だろうな。雲雀さんにお似合いのきれいな人。私の平凡な頭じゃ 想像できないくらいきれいな、美しい、思わず誰もが振り返っちゃうような美人。


「なんで、んなこと聞くんだよ」
「雲雀さんって、かっこいいし優しいし、見るからに女の人にもてそうじゃないですか」
「容姿はおいといて、雲雀のことを優しいなんて言えるのやつはお前以外いねぇよ」
「雲雀さん、優しいですよ?」
「お前にはな。お前じゃなきゃ、殺されそうになったとこ助けやしねーよ。あいつはそういうやつだ」
「へ」
「え、あ、わりい!」


獄寺さんがなんで謝りだしたのか、わからないわけじゃない。今の言葉が私の心のうちをくすぐらなかったわけではなかったから。 でも、それより驚くことが優先された。雲雀さんが優しいのは私 にだけ?ほかの人にもこんなふうじゃないんだろうか。なんだろう、言葉にできない喜びが私の心を埋め尽くす。なんでうれしいんだろう。特別 扱いみたいで、うれしいのかな。うわあ、なんだか胸のあたりがむずむずする。私がぽかんと驚いた顔のままかたまっていたら、獄寺さん が申し訳なさそうに私の顔をのぞきこんでくる。きっと、両親のことを思い出してショックを受けていると思っているんだ。あわてて 大丈夫ですって言ったら、自嘲気味に笑って、煙草の煙をゆっくり吐いた。


「彼女、彼女…」
「やっぱり、いるんですか」
「微妙なとこだ」
「びみょう?つまり雲雀さんの片思いですか?」
「近いかもしんねえ。むこうにそんな気ねえからな、今は」
「それは、彼女と言わないのでは」
「まあ、そうかもな、今は」


獄寺さんが語尾に何かと「今は」とつけるのが、なぜだか気に食わなかった。いつか絶対に彼女になるみたいで、むっとした。 雲雀さんはとっても素敵な男の人だから、相手の女の人は今後確実に雲雀さんを好きになるってことだろうか。だから、「今は」ちがう。 でも近い未来そうだろうと、獄寺さんは言っているのかもしれない。でも、どうして私はむっとしたんだろう。 雲雀さんに彼女ができるのがおもしろくない。なんで?わからない。いや、わかってる?確かめようがない。だって私、はじめてだ。こん な気持ち。



「はい」
「なんでそんな雲雀の女のこと気にしてんだよ」
「なんででしょう」


私が驚いた顔をして、獄寺さんがもっと驚いた顔をして、しまいにはため息をつかれた。











20070513