「ひ、雲雀さん、ホラー映画とか、み、みたことないですか」
「あるけど」
「私の友達に、ホラー映画大好きな子がいて、付き合ってみたことが何回かあったんですけど」
「けど」
「お化けがでてきたときの、あの、ぞくぞくした恐さに、そっくりなんです!」
「つまり、さっきが叫んだのは、お化けをみたから?」
「は、はい!あの、私いままでそういうの信じたことなかったんですけど、でも、あれは絶対」
「人間だよ」
「お化けなんです!って、え?に、にんげ」
「人間、僕と同じ。いや、同じとは思えないけどね人間あそこまで腐れるとは思っていないあれは限りなく人間に遠い人間であっていいはずのない人間だ」
「結局は、どっち…?」
「ボンゴレファミリーの、ボスに次ぐ権力の持ち主だ。僕と同じ、幹部の一人」


かんぶ?幹部というと、やっぱり位の高い人。やっぱり雲雀さんはえらい人だったんだ!あ、じゃなくて、ボンゴレってお化けを幹部にしちゃうくら 人事に困ってるんですか。ああ、ちがう、そこからちがうんだ。お化けじゃないんださっきの人は。人間?でも、人間にしては冷たくて、 まるですぐにすうって消えてしまいそうなくらい、儚くて、夢に出てくる人みたいだった。なんていうか、表現できないけど、お化けじゃ ないってわかったら不思議と恐さなんてなくなって、恐さとはまたちがう恐さを感じて、魅力を感じた。うわわ、鳥肌たった!ぞくってな った!やっぱり、恐い。


「とにかく、あいつには二度と会わないで」
「いや、でもさっきの謝罪に」
「あいつはやっぱりお化けだよ。二度と会うこともない」
「ええ!雲雀さん本当はどっちなんですか!?わ、わたし恐くて眠れない」
「いいよ僕が一緒に寝てあげるから」
「本当ですか?」
「え」


そのときの雲雀さんの顔といったら、失礼な話だけど、笑ってしまいそうだった。目をまん丸にしてぽかんと口を開けて、はっきり言って しまえば間抜け顔だった。雲雀さんは間抜けな顔まで男前なのだ。笑う前に雲雀さんは大きな自分の手で顔を覆ってしまって、なんだかよ くわからなくなってしまった。あれ、私 へんなこと言ったかな。あれ、もしかして迷惑とか?でも、言い出したのは雲雀さんのほうだよね?それにはっきり言ってうれしかった り。恐くて眠れないかもしれないっていうのも本当だけど、雲雀さんと眠れるっていうのも、うれしかったり。なんでうれしいんだろう。 うわ、なんか私はれんち?えろ、えろいのかもしれない。どうしよう。なんでだろう。男の人もこういうこと考えたりするんでしょうか。 男の人とおんなじ頭とかどうしよう。うわ、雲雀さんに引かれちゃう。あれ?雲雀さんも男の人だよね、だったらえっちなことを考えたり するんだろうか。想像できないなあ。


勇気を出してお風呂に入りたいですと言ってみた。そしたらあまりにも簡単に「いいよ」とか言われて、なんだか拍子抜けしてしまった。 バスルームへ入ると、お湯をためてくれた。これからは好きなときにいつでも入ればいいよって言われて、なんだか共同生活みたいで、 どきどきわくわくした。いや、実際に共同生活なんだからほかの言い方なんてわからないけど。お風呂へ入って、私の次に雲雀さんが 入って、その間私は何もすることのないこの部屋で、ソファに座ってぼんやりしていた。テレビもない。ラジオもない。コンポもない。 この部屋に音は、なんにもない。雲雀さんらしいというか、なんというか。しかしやることがない。雲雀さん早く出てこないかなあ。と 思っていたら、あっという間に出てきた。本当にお風呂に入ったんだろうか?と思うほど早いくせに、ちゃんと頭は濡れているし、かすか に頬が赤くなっているように感じる。じゃあシャワーだけで出てきたのかなと思いきや、雲雀さんからは私と同じシャンプーのにおいが、 かすかにしていた。もう寝るのかなと思って見上げたら、ふいと視線をそらされてしまった。


「雲雀さん、もう寝ます?」
「ああ、明日も早いから。さあ、そこどいてくれる?」
「え、なんで」
「僕はソファで寝るから、ベッド使いなって言っただろう」
「いや、あの、一緒に寝て、くれないんです、か」


不安になってそういったら、雲雀さんは目を合わせてくれないまま、小さくため息をついた。え、え、え!なんで、あれ、あ、やっぱり 迷惑だったんだろうか。どうしよう、雲雀さんは冗談のつもりで、本気じゃなくて、それなのに私が勝手に本気でとって。どうしようと 思って一人あわてて、今いった言葉を訂正しようかと思ったら、雲雀さんはそのままベッドルームのほうに歩いていって、扉を開けて私の ほうを振り返っていた。それにうれしさを感じつつも、しょうがなく一緒に寝てくれるんだろうかという不安も付きまとって、ああもう どうしよう、素直に喜んでいていいものか。実はわたし、両親と一緒に眠った記憶がないのです。幼い頃にあるかもしれないけど、私が物心 ついたころには一人で眠っていたから。というか、両親が家にいること自体が少なかったせいかな。とにかく誰かと同じベッドで眠るのは、 人生で初めてかもしれない。実は少しだけ憧れであったんだ。両親と一緒に眠ることが。でも気恥ずかしさが邪魔して、結局言うことはできなくて。 両親の代わりを求めるわけじゃないけど、できることなら一緒に眠りたかった。甘え、たかったのかも。


広いベッドに二人で眠っても、まだまだ余裕があるくらい大きなベッド。薄暗い天井をただながめて、視線を横に流してみる。隣で眠る 雲雀さんは私に背を向けてしまっていて、その広い背中が、なんだか物寂しかった。いや、雲雀さんはいつもあっちを向いて眠るのかも しれない。別に避けられているとか、じゃ、ないだろう!もう一度天井を見て、ゆっくり目をつむった。もう、いい時間帯だ。眠らない と。明日は何をすればいいのかな。学校へも、もう行けないから、ここで勉強とかしなきゃなのかな。何かお手伝いできることがあれば させてもらおう。何もせずに置いてもらうなんて、失礼だろうし。あ、そうだ、今日のあの人にも、お詫びをしな、きゃ。あの人のことを 思い出したら、急に怖くなって目を閉じてられなくなった。目を開けて、カーテンの隙間から入ってくる月明かりを感じて、ほっとした。 こわい、な。あの人はおばけなんかじゃなくて、ちゃんとした人間で、それなのに、こわい。なんでこわいんだろう。わからないけど、と にかく今こわくて。目を閉じるのがこわい。それなりに、眠たいはずなのに、おかしいな。もう一度雲雀さんのほうをみたら、さっきと まったくかわらない体勢だった。一緒に寝てもらえてよかった。ひとりだったらきっと、泣いて、しまったかもしれない。こわくて?わか らない。でもとにかく、こんなわけのわからないことで雲雀さんを起こしちゃいけない。静かに、眠らなきゃなの、に。


、起きてる?」
「わ、わ、はい」
「眠れない?」
「はい、す、みません」


雲雀さんが小さく、ため息みたいなのをついたのがわかった。ああ、迷惑かな。私がもぞもぞするのが鬱陶しかったかな。布団をずりあげ て顔まで隠したら、ベッドが少し軋む音が聞こえた。なんだろうと思って布団から顔を少し出してみると、雲雀さんがこっちを向いていて びっくりした。薄暗い中で、雲雀さんの顔は青白くて、とても、妖艶だと思った。


「ご、めんなさい、寝ます」
「眠れないのはしょうがないことだと思っているから、謝らなくてもいいよ。ただ」
「ただ?」
「どうしたらが眠れるようになるのか、僕にはわからなくて」
「う、はい」
「どうしてほしい?」


心配そうに少しかしげられた顔と表情。少し、胸がちくんってなった。怒ってないってこととあきれてないってことがわかってほっとし た。でも、心配してくれているのかなと思うと、なんだかだんだん申し訳なくもなってくる。どうしてほしい?すぐに浮かぶことは何にも なくて、急いで何か言わないとと思うくせに、何も浮かんでこない貧相な自分の頭が憎い。


「あ」
「なに?」
「いや、だったら、すぐ言ってください」
「なに」
「心臓の音を、聞かせてください」
「心音?」
「何かで聞いたんですけど、人の心臓の音を聞くと母親のお腹の中にいたときのことを思い出して、落ち着いて眠れるそう、です」


嘘じゃない、うそじゃないよ?何かでこんな話を聞いたなって思い出して、ほかに浮かんでくることもなくて口に出していってみたら、 雲雀さんは驚いた顔をして黙ってしまって、ああやっぱりだめだったんだなこの案引っ込めなきゃって思って、口を開いたら、後頭部を ぐってつかまれて、引き寄せられて、そのまま雲雀さんの胸に顔を押し付けられた。う、わ、わ。雲雀さんの胸はあったかくて、私とおん なじ石鹸のにおいがして、なんだか、どきどきした。耳をあてると、少し早い心音が頭に響いて、もっとどきどきした。お、落ち着かない じゃないか。うそつきだ、私うそつきだ。でも、さっきよりも眠れそう、だ。


「ありがと、ございます」











20070617