「本当に、忙しい人ですね。今日は何のご用ですか」


あきれたように、綱吉がため息をつく。机の上だけじゃなく、部屋のあちこちに山積みにされた書類は昨日よりも増えた気がする。それに 目を細めて、綱吉を見据えた。忙しいのは、僕よりむしろ綱吉のほうだということは十二分にわかっている。それでもなお、ここへきて しまうのはこの男、綱吉が僕の上司であるボンゴレファミリーのボスだからだ。この部屋に唯一ある古びた革のソファに腰掛けて足を 組む。綱吉はそんな僕を見送ってから、もう一度ため息をついて肩をすくめた。今度はあきれるようにじゃない。自嘲気味にだ。


「聞いてない」
「何をですか」
「やつが帰ってきているってことだ」


不機嫌を隠すでもなくそういうと、綱吉はすぐに察したように手に持つ書類を机に置いて腕を組んだ。やつというのは、僕が獄寺隼人より も山本武よりも、沢田綱吉よりも大嫌いでしかたがない、六道骸のことだ。名前を出すのも汚らわしい。僕はあいつが嫌いだった。嫌いと いう言葉では足りないくらい、好かない。気に食わない。綱吉だってそれがわかっているからこそ、僕をみてあきれたように笑うんだ。そ の笑顔が、腹立つ。


「何かしました?骸」
に接触した」
「まあ、ちゃんがここにいる以上いつかはこうなるとは思ってましたけど」
「だからこそ、警戒する必要があったのに」
「骸が帰ってきたのは、一週間ほど前のことですよ。まったく気付きませんでした?」
「ああ」
「大人しく、部屋にいたようですしね」
「長期の任務にでも、出してほしいものだね」
「ついこの間戻ってきたばかりの彼に行かせるわけにはいきませんよ。そんなに嫌なら、雲雀さんが行きますか?」


僕が出て行ったら、誰がを守るっていうんだ。それこそ格好の餌食じゃないか。できることなら、一生接触も何もさせたくはなかったと いうのに。やつは、いけない。危ない。僕の中でだめだと判断されるべき、標的だ。何があってもをあいつに見せてはいけないと思って いたのに。だからこそ、僕は嫌いな獄寺隼人に見張りを頼んだというのに。あいつは僕の意図をはかりきれていなかった。いや、きっと 獄寺隼人も知らなかったんだろう。六道骸が戻っていることをしっていれば、ある程度は警戒してくれていたかもしれない。あいつも骸を あまり好いていない。昔よりは幾分まるくなったとはいえ、やつのしたことは甚大だ。といっても、僕にはあまり関係のないことだけれ ど。昔のやつも今のやつも、僕からしてみれば、天敵だ。


「今、ちゃんは?」
「まだ寝てる」
「じゃあ、一生懸命守ってくださいね。王子さま」


舌打ちをして綱吉をにらむと、いたずらっぽく微笑んでまた書類に手を付け出していた。心の中でため息をついて、立ち上がる。何もなけ ればそれでいい。普通に。そう思うのに、それは思った以上に難しくて、僕はそろそろ疲れてきている。が、そばにいるということだけ でも、幸せなことだというのに、だ。


「時は着々と進んでいますよ」


綱吉の言葉は、ひどく扇情的だ。











20070617