朝は、ノックの音で目が覚めた。 身を起こすと、もう隣に雲雀さんは眠っていなくて、物寂しい気分を味わった。寝ぼけたまま扉を開けると、そこにいたのはにこやかな、 男の人だった。寝ぼけていた頭が一気に目を覚まして、背中は嫌な汗をかいて、思わず開けたばかりの扉をすぐに閉めてしまうことにな る。扉を閉めてから、はっとわれに返る。落ち着こう。今、扉の外にいたのは誰だっけ?昨日、あの部屋でみた、人。お化けじゃないって 雲雀さんはいっていたから、ちゃんとした、人間で、ボンゴレファミリーのひとり、なのに。私はなんてことをしているんだ!何よりも まず昨日のお詫びをしなくてはと思っていたのに、どうしてこんな、思い切り扉を閉めるだなんて失礼すぎてもう、なにも、言えない。 あわててもう一度扉を開けると、やっぱり、そこにはあの人が立っていた。 「おはようございます、可愛いお嬢さん」 確かに昨日の人なのに、でも昨日と圧倒的にちがうのは、その雰囲気だ。にこやかな表情はむしろ親しみやすささえ感じてしまう。昨日は 薄暗かったから、こわく感じただけなのかもしれない。だって、この人は普通だ。普通の笑顔で、普通の挨拶をしてくれる。ただのかっこ いい男の人だ。その笑顔をみていたら、昨日こわかったのがまるで幻だったかのように思える。ああ、普通の人じゃないか。昨日は失礼な ことをしたな。叫んでしまうなんて。お詫びをしなきゃ。 「雲雀恭弥くんは、ご在室ですか?」 「あ、えっと、今は部屋を出ているみたいで」 「おや?そうですか、それは困りましたね」 「お急ぎですか?よければ、中で待ってみたらどうでしょうか」 「本当ですか!」 ぱっと嬉しそうに笑った顔が人懐こくて、それに私はまたほっとしてしまう。昨日のお詫びのつもりの親切が、なんだかとても汚いことの ように感じたけど、まああえて気にしない!男の人の部屋に通してソファに座ってもらい、その間に私は急いで服を着替えてお茶を淹れ た。さっき洗面場にいったらひどい頭と顔をしていて、ひとり恥ずかしくなっていた。寝起きで外に出るものじゃない。後悔しながらお茶 を出すと、にこにこしながらこっちを見つめられる。な、なんだろう寝癖はさっき直してきたはずなのに。 「僕は六道骸といいます。可愛いお嬢さん、君は?」 「あ、と申します」 「とは可愛らしい名前だ。昨日は大変失礼なことをしてしまって、すみませんでした」 「いえ!こちらこそ、すみませんでした」 謝るタイミングをはかっていたら、あまりに簡単に言われてしまった。悪いことをしたのはこっちのほうなのに、自分が謝るなんて。それ にもまた好印象で、昨日のことがどんどん薄れてくる。ああ、やっぱり昨日のはすべて私の勘違いだったんだなあ。そう思うと、こわかっ たことも何もかも全部うそだったかのように感じてきて、思わずこっちまで自然と笑顔になってしまっていた。ああ、いい人だなあ。 「へえ!じゃあ骸さんはこの間戻ってきたばっかりなんですか」 「ええ、今回の任務はとても長くて、への挨拶が遅れてしまいました」 「そんなそんな!いいんですよ!」 ばたん!と、やけに大きな音を立てて扉が開いて、私はびっくりして震えてしまった。う、え、骸さんの前でかっこ悪い。なんだろうと 思って扉のほうをみたら雲雀さんがむすっとした顔でかつかつこっちへ歩いてきていた。あ、あ、雲雀さんだ!と思うと体は勝手に動いて 立ち上がる。そんな私を横目に、雲雀さんは骸さんを見下ろしてにらみだす。お、え、どうしたんだ雲雀さん? 「おはようございます雲雀さん!おかえりなさい」 「おや、これは雲雀恭弥くん。おはようございます」 「どうしてお前がここにいる」 にっこり笑う骸さんと、本気で嫌そうに顔をゆがめる雲雀さん。あ、そうだ、骸さんは雲雀さんにご用があってここにいてもらっていたん だった。それを言おうと口を開いたら、私が声を出す前に骸さんが話し出した。 「長期任務から帰ってきたということを、お伝えしようと思いましてね」 それだけ?思わず口に出してしまいそうになった。直接、言いたかったんだろうか。でも昨日雲雀さんと骸さんは接触しているはずじゃ。 私が不思議そうな顔をしていると、雲雀さんはさっきより一層顔をしかめた。 「、朝食へ行くよ。廊下で待っていて。僕はこいつと、話がある」 私は何も言わず、逃げるように、廊下へ出た。 「馬鹿な子だ」 「何が言いたい」 「君は、あの真っ白なキャンバスを、何色に染めあげるつもりですか。雲雀恭弥くん」 「汚す気はない。純白のまま、留め置くだけさ」 微笑む顔は、甘美な香り。 20070617 |