「骸のこと、悪く思わねえでくれよな」
「悪くも何も!骸さんは何にも悪くないんですから」
「お前がそう思ってんならいいんだけどよ。あいつのしたことは絶対に許されることじゃなくて、俺たちは完全に信用したわけじゃない。 けどツナが、あいつを仲間として認めてる。俺らが骸を許す理由は、それだけで十分なんじゃねえかって」


山本さんが何を言わんとしているのか、私にはわからなかったけど、ただひとつ感じたのは、山本さんのボスへの忠誠心の高さ。山本さん は本当にボスのことを信頼して、慕っているということだけは、いやでも感じてしまったわけで。山本さんだけじゃない。獄寺さんだって そうだ。ボスは信頼されている。それはボスの人柄なんだろうなと思ったら、勝手に頬が上がって微笑んでしまって、山本さんに不思議そ うな顔をされた。


お昼過ぎに、雲雀さんは帰ってきて、骸さんのことがばれるんじゃないかとびくびくしていたものの、山本さんも黙っていてくれたよう で、雲雀さんに怒られることはなかった。雲雀さんは骸さんよりも、山本さんや獄寺さんよりも、口数少なくて話し相手としては不適応な 人のはずなのに、雲雀さんが隣にいてくれるという事実は私を安心させて、喜びを教えてくれた。なんでだろう。ほかの人が話し相手にな ってくれているとき、本当にうれしかったはずなのに、雲雀さんが隣にいるときはもっと、嬉しかった。なんでだろう。考えて、ふと、ま た好きなのかなという疑問が生まれた。人を好きになったことがない私は、恋愛がどうとかよくわからない。これは、恋?どこかで認めた くない自分がいるようで、不思議なもどかしさを抱えながら布団を頭までかぶってみた。


ちゃん、ここでの生活はどう?」
「楽しいです」
「本当に?」
「えっと、実は少し、退屈している、かな?」


ある日の朝、食事を済ませるとそのまま雲雀さんにボスの部屋まで連れられた。ボスの机には相変わらずたくさんの書類が積まれていて、 お忙しそうだということは一目でわかるのに、私に気遣ってくれているのもすぐにわかって、とても申し訳なくなる。居場所まで与えてく ださったとても優しいボス。忙しいんなら、私のことなんて後回しに後回しにしてくれて構わないのに。ボスがみんなから慕われる理由 は、きっとこういうところなんだろうなと思った。それなのに私は何を言っているんだ!退屈だなんて、贅沢だ。みなさん忙しいなか私に 構ってくださっているくせに、こんな言い方。後悔して、言葉を引っ込めようとしたらボスが微笑んで口を開いた。


「そうだろうと思った。気晴らしに、ショッピングなんてどうかな?」
「ショッピング、ですか」
「嫌い?」
「いえ!でも、一人で?」
「人をつけるよ。ただ雲雀さんにはこれから仕事に行ってもらわなきゃいけないから」


ボスがそこまで言って、私が雲雀さんの顔を見たら無表情でふたつうなずかれた。どういう意味なのかわからないけど、たぶん、大丈夫 って意味なんだと思う。私も小さくうなずいたら、ボスがクスって笑ったのがわかって、恥ずかしくなってうつむいた。そのときちょう ど、コンコンと扉を叩く音がして、振り返ったらボスがすばやく返事をして、同時に扉が開いた。現れたのは、きれいな女の人だった。 ここへきて、はじめて女の人を見る気がする。マフィアというのは男の人ばかりのイメージがあるから、女の人なんていないものだと 思っていた。そんなことあるはずないのに。女の人はきれいに微笑んで中へ入ってくる。にっこり笑ったかと思ったら、警察の人が敬礼 するみたいに手をおでこのあたりまで持ってきて、はきはきした口調でこういう。


「おはようございます!三浦ハル、参上しました!」


顔からは想像しがたい可愛い声で、そういった彼女はとても可愛くて、とても年上だと思うのに可愛くて、私は見とれるばかりだった。


「きたね、ハル」
「はい、ツナさん!」
「話は今朝電話でしたとおりだから、お願いできる?」
「もちろんです!」


くるんと私に向き直ったかと思うと、私の手を握ってきらきらさせた目でこっちを見ている。さっきから、この女の人、高いハイヒールを 履いているっていうのに、俊敏に動くものだ。さすがマフィア、なんだろうか。私が驚いて、女の人と握られた手を交互に見ていると、 楽しそうに微笑んで、はじめまして!と元気よく告げる。お、驚く。元気いい人だなあ。きれいで可愛くて、すごい、あこがれる。なんだ か、親しみやすそうな人だなあと思って、私まで笑顔になってしまう。


「ツナさんから話は聞いてます!ちゃんがハルのこと知らなくても、ハルはちゃんのこと忘れてませんから!」
「三浦ハル、やめろ。が混乱する」
「はひ!雲雀さん、あなたちゃんのことって呼んでるんですか」
「綱吉、本当にこいつに任せていいのか」
「女性のほうがいいと思って。ほかはどの人も遠征に出ていてね」
「京子ちゃんにも会わせたかったです。きっと喜んだのに」
「三浦ハル」
「わかってますよ!ちゃん、ハルって呼んでくださいね」


雲雀さんの機嫌が、よくない。それに少しおびえながらも、ハルさん、の言ったことに何度かうなずいた。早く、早くこの場がうまくまと まってくれないだろうか。雲雀さんが怒るのはこわいし、悲しい、と思う。どうやら今日、私と一緒に買い物へ行ってくれるのはこの三浦 ハルさんらしい。ハルさんの言っていることの半分以上、というかほとんどが理解できなくて首をかしげたものの、そのたびに雲雀さんが いらいらしだすので、私はおどおどするしかない。私が不思議そうな顔をするのが気に食わないのか!?というか、えっと、雲雀さんと ハルさんがあんまり仲良く、ない?ハルさんの言動がおもしろくないんだろうか。私にはさっぱりわからない会話のなかに、雲雀さんの 怒りをくすぐる爆弾が隠されているらしい。とにかくなんでもいい。雲雀さん、怒らないでください。


「今日はたーくさん可愛いお洋服買いましょうねー!」
「あ、は、はい!」
「そうと決まれば善は急げです!マッハゴーです!」
「おい!三浦ハル!」


ぐん、と引かれた手は私が抵抗する間もなく突き進んでいって、後ろから雲雀さんの荒い声が聞こえてきたもののハルさんは足を止めるこ とはなく、私は小さく、息を呑んだ。











20070630