あーやだやだ、なんで休みの日までランボの面倒みなきゃいけないんだよ。ため息をついたら、返事をするみたいにブランコがぎいっと 軋んだ。リボーンも、昨日まであんなに明日はねっちょり勉強だぞとか言ってたくせに、今日になってランボの面倒みてこいとか、どうい うことだよ。まあ、ねっちょり勉強するよりはこうやってブランコに揺れてぼーっとするのも悪くないか。砂場のほうからは、きゃっきゃ と楽しそうな声が聞こえてくる。ランボと、その隣にいる女の子は誰だろう?見たことない子だな、ランボの友達だろうか。するとランボ が立ち上がって、いきなり駆け出した。たぶんスコップを取りにいったんだ。でもそんなに走ったら、あ、こけた。すぐに泣き出した ランボに駆け寄ろうか迷っていると、ランボは頭のもじゃもじゃに手を突っ込んで、見慣れたバズーカを取り出した。そして引き金に手を かけた、と思ったらまたこけた!ドカーンという聞きなれた音のあとに飛び出した弾は、近くにいた女の子に、当たった。


「って、えええええ!?」


か、関係ない子にあたっちゃったよ!どうしようどうしようとわたわたしていると、もくもくと白い煙がだんだん晴れてくる。待って!な んて説明すればいいんだ!?知らないふりをしていればいいのか、当の元凶であるランボは指をくわえて鼻水たらしている。完全に煙が 晴れて現れたのは、俺と同い年くらいの女の子だった。ど、どうしようどうしよう!こんなときにかぎってリボーンもいないし!女の子は きょとんとした顔でまず空を見上げ、そして自分の足元を見下ろして一言つぶやいた。ひばりさん。確かにそう聞こえた。この子、どうし て雲雀さんの名前を?女の子が視線を俺のほうに向けて、それから目を見開いた。あ、やばいって!どうしようどうやって説明を。


「ボス…?」


驚いたようにつぶやかれた一言に、俺のほうが驚いた。ボス?ボスって、なに。ボスと聞いて思い当たることは、リボーンによく言われる 、お前はボンゴレファミリーの十代目ボスなんだぞという言葉くらいで。この子はもしかして、十年後の俺を知ってる!?いや、そんなは ずないよな!だって俺は十代目ボスになんてならないんだから!そうそう人違いだよ!と思っていると、女の子は不思議そうに立ち上が って、こっちまで歩いてくる。


「ボス、のご家族の方、でしょうか。あの、私さっきまで部屋の中にいたんですけど、どうしてこんなところに…」


ほらさっそく困り始めてるよ!俺だって困るよ!どうすればいいんだ!?


「お前は十年バズーカという異種機具のせいで十年前にタイムスリップしているんだぞ」


振り返るとリボーンが、さっきまで俺の座っていたブランコの上に立ってこっちを見上げていた。なんだよ!いるならいるって先に言えよ な!リボーンが真剣な表情で公園にある時計台のほうを見上げて、それから女の子のほうをみる。女の子は突然告げられた真実を疑って まだ不思議そうな顔で首をかしげている。それもそのはず、タイムスリップなんて早々信じられるものじゃないぞ!でも、ここでこの子が 驚いているということは、十年後にもタイムスリップは開発されていないってことだよ、な。俺がそんなことを考えていると、リボーンが まじーな、とつぶやいた。


「な、なにがまずいんだよ」
「5分経ったってのに、元に戻らねえってことは」


最初は、意味がわからなかった。確か十年バズーカの効力は5分間のはず。おかしい、たしかに。みるみる青ざめて、俺は言葉を失った。 一般人を巻き込んでしまった!これからこの子どうするんだよ!この子の両親だって驚くに決まってる。いきなりこの子が十年後のあなた たちの子供ですなんて言われても困るに決まってる!なによりこの子がかわいそうだ。俺が頭を抱えてだらだら冷や汗流している間に リボーンは気にするふうもなく女の子の前まで歩いていって、さっきと同様真剣な顔つきで、こういった。


「お前は、ボンゴレと関わりのある者か」
「は、い」
「ツナ、ボヴィーノに連絡を取って十年バズーカに故障がないかの点検をさせる。この間こいつはお前が何とかしろ」
「えー!?な、なんで俺なんだよ!」
「ツナ…?」


何か愛しいものの名でも呼ぶようなその声に、どこかどきりと胸を高鳴らせながら、俺は振り返った。


「ということは、あなたはやっぱり、ボスなんですね」


十年前にタイムスリップということも、今の状況でさえひとつも把握できていないというのに、俺の存在だけは信じようとするその眼差し に、俺は胸騒ぎを覚えた。











20070906