どうやら、ここは日本らしい。そんなことくらいの情報しかこの状況では理解できなくて、藁をもすがる思いでボスと同じ名前の男の子の あとをのこのことついていっているんだけど、これってよく考えてみれば危険なことでは?知らない人にのこのこついていっていいんだろ うか。でも、ここが彼らのいう十年前なのだとしたら、私はほかに誰を頼ればいいというんだ。ボスと同じ名前の、私と同い年くらいの 少年、沢田綱吉さんはどこかボスの面影があるものの、ある意味似ても似つかない。でも、優しそうな雰囲気はかわらない。本当にボスの 十年前の姿、なんだろうか。疑っていても答えなんてでなくて、私はただうつむいて後ろをついていくしかなかった。


「えっと、君、名前は?」


ボスのお家につれられて、とりあえず居間に通された。ボスのお母様である奈々さんはとても優しい方で、優しく微笑みながら私に麦茶を いれてくださって。お母さんというものに、ふれた。うちのお母さんとなんて似ても似つかないのに、温かい雰囲気が、少しだけ切なくな った。ボスから名前を聞かれたときは、なんだか変な気分になった。すぐに答えようとして、リボーンさんの視線に気付いた。小さな 男の子のように見えるけど、見た目とはつりあわない大人っぽい雰囲気と眼差しでなんとなくわかった。この人もマフィアなんじゃないだ ろうか、と。リボーンさんにさっき言われた言葉を思い出す。未来での事柄を必要以上に口にすることはタブーとされている。必要以上と いう言い方があまりに抽象的すぎて、どこからどこまでが大丈夫なのかがわからない。えっと、名前だけならいいだろうか。って名前が ほかにもいるかもしれないし。


、です」
「あ、ちゃんか」
「あの、ここは本当に十年前の世界なんですか」
「うん、信じられないかもしれないけど」
「じゃあ私はこれから、どうなるんでしょう…」


私がそういうと、ボスも困ったように頭をかいてリボーンさんに視線を送った。リボーンさんは何か考えるようにうつむいて、間もなく顔 をあげた。口角をあげて笑っているその顔は可愛くて、歳相応に見えないこともない。ボスが頼る相手なんだ、きっとリボーンさんはすご い人にちがいない。頼るべきはリボーンさんだと、つむがれる言葉を待ってその顔をみつめていると、返ってきたのはどんな予想ともちが う言葉だった。


「ま、なんとかなるんじゃねえのか」
「そんな適当なー!」
「とりあえずは帰れるようになるまで、うちにいるといいぞ」
「勝手に決めるなよ!」
「そんな!これ以上ボスのお世話になるなんて…!」
「そうは言っても、ほかに行くあてもねーんだろ?」


真っ先に思いついたのが、雲雀さんの顔だった。でも今の雲雀さんに私との面識なんてないんだし驚かれるに決まってる。それに何より 迷惑だろうし。それに、ボスが雲雀さんを知っているともかぎらない。うかつに名前を出すのはいけないだろうか。とりあえずほかに頼り になる人も思いつかないし、リボーンさんの言葉にうなずくとリボーンさんはなぜかうなずいた。正解?という意味だろうか。なんだか 少し見張られているような気分になる。


「最低でも今日くらいは泊まってけ。いつ戻るかわかんねえからな」
「あ、はい」


それからボスに並盛町を案内してもらって、一日は過ぎた。奈々さんの手料理はとてもおいしくて、なんだか懐かしい味がした。お母さん の味というのは、こういうののことを言うんだろうか。そしてお風呂を貸してもらって、上がってから居間に顔を出したときでした。 リボーンさんが笑顔でこういったんです。


「明日は学校へ行くから今日は早く寝るんだぞ」


学校?懐かしいその響きに驚いて思わずバスタオルを落とすと、ボスも同じく驚いているようだった。学校、いけるんだ。嬉しいやら少し 不安やらを抱えて布団へ入ると、なんだか、不思議な感じがした。あまりにもあっけなく時間が過ぎている。ここは本当に十年前?世界は 十年程度じゃあんまり変化しないようだ。ここが十年前、ということは、もちろんのごとく十年前のみなさんがここにいるわけ、だよね。 獄寺さんや山本さん、雲雀さんの十年前の姿を見られたりするんだろうか。でもリボーンさんはいつ戻るかわからないと言っていた。みな さんの姿を見る前に、私は戻れるのかもしれない。


ふと、気付いた。私は十年後に戻る前に、みなさんに会うんだ。私がはじめて雲雀さんや獄寺さんや山本さんに出会った日のことを思い出 した。彼らはみんな、何か含みのある言い方をしていた。私に会ったことがあったんだ、この十年前の世界で。だから私を知っていて、だ けど私はみなさんを知らなかった。やっと、長い間もやもやしていたわだかまりが解けていくような気がして、すっきりした。会える、今 の時代のみなさんに。そう思うと、不安も少しだけ和らぐというものだ。明日、会えるだろうか。いつ会えるだろうか。だいぶあと?私は あとどのくらいこの世界にいることができるんだろうか。薄らんでく意識の中で、ふと思い出したのは雲雀さんの顔だった。ひとりで眠る のは、久しぶりだ。


「僕がいなくても、眠れるようにならなくちゃね」


雲雀さん、今頃どうしていますか。











20070908